ナイフにも様々な種類のものが存在する。
たとえば、ナイフの切っ先をひとつ取ってもその形状は多様の一言。背の部分が途中で湾曲し、切っ先が上を向いているクリップポイント。逆に切っ先を下寄りに向けたドロップポイント。多用途で活躍できるバランスの取れた形状のユーティリティ、精密な作業を想定した細身のケーパー。ブレードの先端部分に傾斜した刃を取り付けたキリダシ(“切り出し”は国際的な単語になっている)。用途に応じた種類のナイフを選び、それを賢く扱うことができれば一人前だ。
今回は高知県で製造されている、少し変わったナイフを取り上げたい。
無骨な和製ナイフ
高知県に未来派創造集団『ZAKURI』という、地元鍛冶師で構成された団体がある。
そのZAKURIが販売する『多目的ナイフ』が、以前から気になっていた。見れば見るほど、不思議な形状である。「これぞ和製ナイフ」という具合の無骨さも有している。
このナイフはZAKURIの公式オンラインショップで販売されているため、早速ポチリ。自宅に届いた時の高揚感は、何度経験しても耐え難い。ハンドルを含めて、緩やかに湾曲しているのがこのナイフの最大の特徴だ。
ブレードの縦半分、背面側は敢えて研磨していない。アウトドアナイフではたまに見かける技法で、この荒々しい表情がたまらないというナイフマニアもいる。
それにしても、写真で見るよりもかなり大きな印象だ。全長は約22cmで、刃渡りは約10cm。これだけならオピネル9番と非常に似通った数字である。が、多目的ナイフはその形状から自ずとブレード幅が広く、それが実寸よりも大きな印象を持たせている。
多目的ナイフの意外な「薄さ」
筆者にとって意外だったのは、ブレードの厚みである。
想像していたよりもかなり薄いのだ。測ってみると、その厚みは僅か2mm。
高知県の土佐打刃物といえば、ボウイナイフに通じる形状の剣鉈というイメージが強い。剣鉈はかなり分厚いブレードを持っているから、此度の多目的ナイフもそんな感じなのだろう……と勝手に考えていたのだ。
が、多目的ナイフが鉈ではなく鎌から派生したものだと考えると、むしろ納得がいく。調べてみると、多目的ナイフの製造者は案の定鎌職人だそうだ。
いろいろなナイフに遭遇する度、筆者はその製造者に頭が下がる思いを隠し切れない。この多目的ナイフも、見た目は無骨でいながら実は緻密な思案の上に成り立っているのだ。使用者がどのように使い、どうすればより便利な道具になるのかという思案である。
実際に手に取ってみると、とても刃物を持っているとは思えないくらいに軽い。山菜狩りや日常のちょっとした軽作業に使用できるそうだが、確かにこの軽さなら老若男女を問わず扱うことができる。