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Fashion&きもの

2026.02.06

『豊臣兄弟!』で注目の秀長像と対面。奈良・壷阪寺へは決死の登山スタイルで!【竹本織太夫 着こなしの美学】14

新年が明けて、竹本織太夫さんのファッションを紹介するのは、なんと標高約300メートルの場所!!大阪の都会っ子の織太夫さんは、寒さ対策に抜かりなく、あったかコーデをチョイス。取材先の奈良・壷阪寺では、大河ドラマ『豊臣兄弟!』で話題の豊臣秀長像と出合いました。ファッション解説も、もちろんありますョ。奈良の古刹(こさつ)パワーと織太夫さんパワーを感じてください!!

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大切にお守りされてきた豊臣秀長公の像

戦国の世に、兄である豊臣秀吉の右腕として手腕を発揮した秀長は、大和郡山城(奈良県大和郡山市)が最後の居城で臨終の地になったことが知られています。また壷阪寺と近い高取城は、秀長の重臣に守備を固めさせた、日本三大山城の一つと言われています。

この高取城の鬼門封じのために建てたお堂が壷阪寺にあり、そこに秀長像がずっと祀られてきたそうです。平成20(2008)年に約400年ぶりに解体修理を行い、壷阪寺 灌頂堂(かんじょうどう)に安置されている像に、織太夫さんはお参りをされました。秀長公と共に安置されているのは、父の本多利久と共に秀長に仕えた、大和高取藩初代藩主の本多俊政公です。

本尊 十一面千手観音菩薩(安土・桃山時代) 豊臣秀長公像・本多俊政公像安置(江戸時代)

秀長像をデザインした特別御朱印

壷阪寺では秀長像をデザインした特製切り絵朱印を配布中です。2027年1月31日まで配布される予定なのだとか。奈良県内の3つの寺が『豊臣秀長公 思いを馳せる大和三寺巡り』として、開催されています。秀長公とゆかりのある、長谷寺(はせでら 桜井市)と、春岳院(しゅんがくいん 大和郡山市)それぞれが独自の切り絵朱印を配布しているので、順番に回るのも楽しそうですね。

新年最初にお届けする、魂のファッション解説!!

今回も鈴木 深『和樂web』総合統括の、ファッション解説を皆さまにお届けします! いつにも増して、リキが入っているような……。

ファッション解説・鈴木 深
もちろん今回もやります「勝手にファッション解説」。
一方的な思い入れのみで語りまくるこちらの解説は、いつもと同様もちろん長くなりますので「付き合いきれねぇ」という方は、読み飛ばしてください。

さて、今回の織太夫さんの着こなしキーワードは「キザ」です。

撮影日は、まさしく真冬。
「寒い!」とにかく「寒い!」日でした。
この日も織さまの装いは、いつもながら「遠目に普通」。しかし近づいて見ると…ん? いや? あれ? いつものように「隠してもプンプン溢れ出てしまう」ような“LOOK AT ME”オーラは発動されていません。
セージグリーンの淡い色調がむしろ一歩後ろにいる感じがして、普段よりも「寡黙な迫力」がしっとり漂います。「どうした、どうした?」とお思いでしょうが、実はこの「寡黙な迫力」こそが本当にこわいんです。
これからじっくり解説していきます。

中央の壷阪大佛(大釈迦如来石像)と普賢菩薩石像、文殊菩薩石像、十一面千手観音菩薩像と一緒に。インドでのハンセン病患者救済活動の繋がりから、境内にはインドで彫られた石造物が多数あります。

太夫が身に着けているジャケットとコートは、極寒地の作戦で特殊部隊が着用するために米軍が開発したレイヤリング(重ね着)システム「ECWCS」※1で採用されているアイテムです。
ジャケットは「レベル3」と言われるフリースジャケットで、きっちりジップを上まで閉めれば首元までしっかり温めてくれます。その上に羽織ったたっぷりと大き目のコートは「レベル7」と言われ、真冬の山岳地帯で着るための最強アウター。通称「モンスターパーカー」と呼ばれる優れものです。
これらを組み合わせれば、なんと「−46℃の極寒地での作戦も可能」とのふれこみです。フムフムなるほど。
パンツはU.S.AIR FORCE(米空軍)が1950〜60年代に支給していたワークトラウザー。ブーツはUS.NAVY(米海軍)が1940年代、海外基地に配属された要員に支給していた野戦靴。こちらは従来のキャメルカラーを大人な風情のタバコスエードに塗り替え、より軽くてグリップ力の強いビブラムソールに張り替えた“織さま仕様”のオリジナルな逸品です。

※1:ECWCS(Extended Cold Weather Clothing System)
米陸軍によって1980年代に開発された保護服システムのこと。現在はレベル1からレベル7まで分類されたアイテムがあり、その組み合わせにより(摂氏7,5度~摂氏-45.6度)の気温でも適切な環境保護が可能。

え? ちょっと待って! そもそも「−46℃でのお仕事」って…異次元過ぎて想像もできません。人間は呼吸できるんでしょうか? 体は満足に動くんでしょうか? 脳は普通に活動するんでしょうか? 平和な場所でぬくぬくと安全に暮らしている我々とは全く縁がない、凄まじい世界の話だということだけはよくわかります。
そんな壮絶な状況で着用する装束を着込んで、われらが太夫は何をしようとしていたかというと…「山の上のお寺で、公演の成功祈願」です。なるほど、これは本気です。
普段ほとんど身に着けない時計(アップルウォッチウルトラ)に、軍用グローブまで着用する、という念の入れようです。そして斜め掛けしているのは1940年代からアメリカの新聞配達人が使っていたNEWS PAPER BAG。丈夫で軽いひたすら実用的なコットン素材のバッグです。この中には、亡師の病気平癒のためにはじめた神仏霊場会の神仏150霊場の御朱印帳、綱太夫代々の菩提寺や綱太夫場といわれる代々の縁の浄瑠璃のお寺用の御朱印帳や、念珠入れや香筒が入っています。やはり太夫、これは本気です。

壷阪寺とゆかりのある『壺坂観音霊験記』のクライマックスの地の前で。

お手軽なダウンなどに決して頼らず、あくまでも「身を守る」こと最優先の“寡黙な出立ち”で、真剣勝負の険しい道を、一歩、また一歩と登っていく様子は、われらが太夫の生き方そのものを見るようです。
そんな太夫に、自らの装いのイメージについて伺うと、「僕も50歳、すでにシティボーイではないんですよ(はい、それはすぐわかります)。あえていうならシティスリッカーといったところです」とのお答え。

シティスリッカー???
アパレル業界用語で使われている「シティスリッカーズ」のことか?
はい、調べました。
ファッション業界でささやかれている「シティスリッカーズ」とは、「都会的な洗練されている人」のことであり、「都会ずれしたゆがんだ部分と育ちの良い上品さを持つ人」というニュアンスをはらみます。
単なる「洗練されている人」ではなく、「かっこいいけど、ちょいメンドクサイ都会人」といったところでしょうか。
そして彼らはオーセンティックな着こなしをこよなく愛するそうです。
なるほど! 確かに太夫のお好みと合いそうですが…こちらの興味はそこで止まらず、話は終わらず、さらに深堀りは続きます。
ちなみに「slick」は通常だと「なめらかな、ツルツルした」という意味ですが、ストイックかつ複雑に練り上げられた太夫の孤高なる美意識が、そんな簡単な形容詞をよしとするはずありません。
「slick」のスラングを深堀りしてみると…はい、出るわ出るわ、太夫のお好みであろうキーワードがバンバン出てきました。
ポジティブなところで「バッチリ決まっている」「洗練されている」「巧みで抜け目ない」「口が達者な(笑)」などなど。
さらには「滑りやすく危険」「巧みすぎて怪しい(爆笑)」「ずる賢い動き」「危険な状況」「髪を後ろになでつける(なでつけてるし)」と続きます。

つまり我らが太夫は、非常に険しい登り道を、超人的な技を駆使しながら、とびきり達者な身のこなしで、ちょいと目立ちすぎて周囲からは警戒されつつも、圧倒的なまでに燦然と輝きながら、ズンズン前に進んでいるわけです。
そこには「他人から嫌われないように」とか「各方面とうまくバランスをとりながら」などといった“いい人な風情”の小さな気遣いなんて一切ありません。そんなもんには、目もくれません。
さらに今回、あえていつもよりおとなしめのセージグリーンで上下をまとめています。戦うモードがプンプン漂う迷彩色やオリ(織)ーブカラーではなく、一歩後ろに下がった淡~いトーンが、壮絶な覚悟の太夫の心と体を包むにしては、あまりにさりげなく、むしろ軽やかに見えるほどです。

結論、太夫の生き方と装いは「キザ」なんです。

オラオラとわかりやすく気合の入った装いで自分を鼓舞する、なんて下衆なことはいたしません。覚悟が決まっているからこそ、装いは軽やかで淡くてさりげなくてイイんです! 必要以上のアピールなんて一切無用。自分の進む道が確かだからこそ、外野の戯言なんぞは気になりません! だからこそ得も言われぬ「静かな迫力」が漂うわけです。

「キザ」という言葉は「気障」と書き、もともとは「気にさわる」という意味でした。江戸時代の遊郭で花魁たちが「気取っていて嫌な客」のことを指して使い始め、一気に広まりました。現在では、ナルシスト的な装いや言動をふくめ「カッコイイけど気取っている」といった微妙~なニュアンスで使われます。

が、あえて声を大にして言いましょう!「キザ」上等です!!
芸に生きる太夫にとって「キザ」=「華やぎ」です!
そしてさらに、われらが太夫の「キザ」は「気に障る」キザではなく、「気が騒ぐ」と書いて「気騒(キザ)」と呼ぶことにいたします!

「悪目立ちはNGでしょ、きらわれたくないしね~」などという〝イイ人に見られたい、傷つきたくない″小心者ばかりが多い中、そんな小さな気配りなんぞにはわき目もふらず、自分の道を突き進む太夫の生き方(&装い)は、見ている者の心が騒ぎ、気分が昂揚します!
太夫には、このまま猛烈な勢いで先へ先へと進んでいただき、さらにワクワクとドキドキを盛り上げていただきましょう!

今回の着こなしもしかり、その壮絶な生き方もしかり、われらが太夫、「気騒」上等!です。

取材・文/瓦谷登貴子
取材協力/南法華寺(壷阪寺)

竹本織太夫さん情報

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竹本織太夫

竹本織太夫(たけもと おりたゆう)人形浄瑠璃文楽 太夫。1975年生まれ。大阪市出身。大伯父は四代目鶴澤清六。祖父は二代目鶴澤道八。伯父は鶴澤清治、実弟は鶴澤清馗。1983年、8歳で豊竹咲太夫に入門。初代豊竹咲甫太夫を名乗る。1986年、10歳で国立文楽劇場小ホールにて初舞台。2018年六代目竹本織太夫を襲名。実業之日本社から『文楽のすゝめ』シリーズを3冊既刊。NHK Eテレの『にほんごであそぼ』に2005年からレギュラー出演するなど多方面で活躍。国立劇場文楽賞文楽優秀賞等受賞歴多数。
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