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Craft
2019.10.08

アイヌの織物、刀を下げる帯がブレスレットに大変身!郷右近富貴子さんの作品

この記事を書いた人

「無限に時間があれば、ずーっとつくっていたいんです」そう話すのは、阿寒湖温泉で料理店を家族で営みアーティストとしても活動されている郷右近富貴子(ごううこんふきこ)さん。2019年10月12日にBEAMS JAPAN 5Fのfennica STUDIOで発売されるコラボレーションアイテムでは、エムシアッブレスレットを制作しています。

阿寒湖に暮らす人々と生活の手仕事

北海道釧路市、阿寒摩周国立公園の西のエリアに位置する阿寒湖温泉。この街にあるのが、120人ほどのアイヌの人々が暮らす「阿寒湖アイヌコタン(集落)」です。この地で人々は、仕事に勤しんだり食事を楽しんだり子育てするのと同じように、生活の手段のひとつとして、さまざまなものづくりをしています。

そんな阿寒湖温泉に暮らす人たちとfennicaによる、2年の歳月をかけてつくりあげたオリジナルアイテムが、2019年10月12日〜20日にBEAMS JAPAN 5Fのfennica STUDIOにて展示・販売されます。そこで今回は、彼らがどんな生活をしながらものづくりを続けているのかお話をうかがいました。

富貴子さんのエムシアッブレスレット

アイヌの男性が儀式の時などの正装用に身につける「エムシアッ(刀を下げる帯)」。アイヌの女性が夫や息子のためにつくりあげる装身具です。この技術を生かしてブレスレットに仕立てたものが、このエムシアッブレスレットです。

「ブレスレットをつくっていると無心になれます。いろんな仕事のなかでも、特に楽しい作業です」

そう語る富貴子さんは、アイヌコタンに40年続くアイヌ料理の店民芸喫茶「ポロンノ」を家族で営むほか、阿寒湖の早朝遊覧船で語り部としても働き、姉と共にアイヌのウポポを唄うユニット「カピウ&アパッポ」としてアーティスト活動も展開しています。そんな忙しい日々の合間をぬって、少しずつブレスレットを制作しています。

エムシアッとの出会い

富貴子さんが、初めてエムシアッを目にしたのは小学生の頃でした。

「ある夏、祖母の家で過ごしているとつくりかけのエムシアッが壁にぶら下がっていて。それを眺めていると、祖母がつくりかたを教えてくれたんです。言われるがままにやってみたら、これがすごくおもしろくて」

「私がブレスレットをつくるときはパターンを起こしてから作業しますが、昔の人は感覚でやっていたんだと思うんです。祖母は常にデザインが頭に入っていて、それを起こさずともつくることができました。アイヌの手仕事はそれぞれ得意なこともあるのですが、私は織物や編み物が好きだったんです」

お店とアーティストとしての活動の合間に、ブレスレットを作り始めた富貴子さん。

「織物を本格的につくり始めたのは14年くらい前でしょうか。最初は祖母と叔母に習って1からエムシアッをつくって完成させました。いろんな仕事の合間につくってやっと完成させたけど…そりゃあもう、鼻血がでるくらい大変で(笑)。もっと小さいものなら無理なくできるかも、ということでブレスレットをつくり始めたんです」

素材集めからスタート

このブレスレットをつくるのに、どれくらい時間がかかるのか質問してみたところ、富貴子さんは「どこから数えていいか分からなくて…」と答えづらそうに、こう続けてくれました。

「アイヌの織物や編み物は、素材をつくるところから始まるんです。オヒョウの木の内皮やイラクサなどを使って、糸を縒るところから始めます。時期を見て、野っ原や山へ行って…素材を集めるところから時間を数えていいのか分からなくて、いつもこの質問にはどう答えていいか悩んでしまいます(笑)」

イラクサやツルメモドキを乾燥させ、裂いて糸を紡ぎ長い一本の糸にしていく作業をする

アイヌ民族伝統のアトゥシ織の反物にも使われている、オヒョウの木の樹皮。山へ入り、木を切る時には、山の神と伐採する木に感謝を述べる儀式「カムイノミ」をしてから、木を倒して皮を剥いでいきます。

「おばあちゃんが苗木から40年以上かけて育ててくれた2本のオヒョウがあって、その皮をもらったこともあります。おばあちゃんが長い時間をかけて育てた素材だから、中途半端な気持ちであつかっちゃいけないな、といつも思っています」

オヒョウは、ミルフィーユ状になっているのを剥いで、長さで分類。ブレスレットの芯にオヒョウの皮を使います。

ブレスレットは、形こそ違えど伝統的な装身具と同じように、長くその人に寄り添うもの。だからこそ素材選びからこだわっていると富貴子さんは語ります。

「今回制作したブレスレットは、丈夫にして長く使ってもらえるようにしたかったので、鹿の腱(けん)の繊維を縒って糸にして留めに使っています。ブレスレットのボタンは、姉の旦那さんである洋之さんの手づくりの鹿角ボタンを使っています」

中途半端にしないものづくり

「時間があれば、本当はずーっとブレスレットをつくっていたいんですけど、そうもいかないですよね(笑)」

歌も料理もブレスレットづくりも全く異なる作業ですが、アイヌの文化を語り繋いでいくためには、共通した思想があります。

「アイヌでは糸をよることをカイカと言うんですが、焦ってカイカすると、糸が切れちゃうし上手くいかないんですよ。でもきちんと思いを込めて丁寧につくるとスーッとつくれるんです。それは歌でも料理でも同じ。中途半端じゃなく、思いを込めるのが大切です」

これから挑戦していことについて、最後にうかがいました。

「博物館に行って昔の織物を見て勉強することがあるのですが、昔のものは、意味が語られなくても、すばらしすぎるんですよね。見たらなんとなく構造がわかるので、真似してみるけど、当時かけていたであろう時間の観念が違いすぎて、圧倒されてばかり(笑)。それでも自分のなかに生まれたつくりたい衝動を大切に、自分なりのアレンジをして、ブレスレットや他の小物にチャレンジしてみたいです」

BEAMS fennicaコラボレーション 詳細

「アイヌ クラフツ 伝統と革新 -阿寒湖から-」
“デザインとクラフトの橋渡し”をテーマにするBEAMSのレーベル「fennica(フェニカ)」と阿寒湖エリアのアイヌのものづくりのコラボレーションによる、新作コレクション。作品の展示販売のほか、トークショーやライブイベントも開催。

販売場所:BEAMS JAPAN 5Fのfennica STUDIO
販売期間:2019年10月12日〜20日
公式サイト(イベント情報):https://www.beams.co.jp/news/1660/
公式サイト(特集):https://www.beams.co.jp/special/fennica_things/vol7/

書いた人

我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。