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2019.09.18

知ってるようで知らない名画の「高精細複製」を生み出す「綴プロジェクト」

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国宝や重要文化財や、海外の美術館が所蔵する日本美術の作品を見ていると、たまに「高精細複製」と注釈がついたものがあります。
簡単に言ってしまうと名画のコピーなのですが、印刷ジャンルの技術の発展は目覚ましく、近年は素人の目では見分けがつかないほどのクオリティのものになっています。
それをリードしているのが、平成19(2007)年からキヤノンが手がけてきた「文化財未来継承プロジェクト」、通称「綴(つづり)プロジェクト」による高精細複製品です。

綴プロジェクトとは

文化財の保存とともに、取り扱いが難しい文化財を高精細複製品にすることで文化財を身近にたのしめるようにするため、京都文化協会が主催、キヤノンが共催して推進している社会貢献活動が「綴プロジェクト」です。
その特長は、先進のデジタル技術を開発し続けているキヤノンが、文化財の撮影・入力から画像処理、出力を担当し、さらに京都の伝統工芸の匠の技によって、実物の質感や色調が見事に再現されていること。それが、「綴プロジェクト」高精細複製品で、先端技術と伝統工芸を融合によって、古くから日本に伝わる屏風や襖絵、絵巻物といった貴重な文化財のかずかずが見事に再現されています。また、完成した高精細複製品は所蔵者やもともとの所有者に寄贈され、文化活動に活用されているのです。

建仁寺に寄贈された国宝「風神雷神図屏風」(俵屋宗達筆)の高精細複製品

「歴史をひもとく文化財」と「海外に渡った日本の文化財」

「綴プロジェクト」の高精細複製品にはふたつのテーマがあります。
ひとつは「海外に渡った日本の文化財」と呼ばれ、現在海外の美術館やコレクターが所蔵している日本美術の高精細複製品を制作し、それ以前の所有者などに寄贈すること。
もうひとつは「歴史をひもとく文化財」と呼ばれ、学校の教科書に掲載されている文化財などを中心にした高精細複製品を制作し、生きた教材として教育の現場で活用してもらうこと。
このふたつの目的にそって、文化財を毎年選定し、高精細複製品が制作されています。

これまで制作された高精細複製品のラインナップには、国宝『風神雷神図屏風』(俵屋宗達)や国宝『松林図屏風』(長谷川等伯)など日本を代表する文化財が数多く含まれています。
さらに、アメリカのフリーア美術館が所蔵する門外不出の日本美術コレクションから、琳派の最高傑作として名高い俵屋宗達の『松島図屛風』をはじめとした国宝級の文化財が高精細複製品となり、日本にもたらされて多くの人々の目を楽しませています。

「綴プロジェクト」の制作過程が動画で見られる!

「綴プロジェクト」動画の見どころ

高精細複製品を制作するにあたっては、オリジナル文化財を忠実に再現するとともに、撮影などによってオリジナル文化財にかかる負担を軽減することを両立しなければなりません。その両立を実現するため、キヤノンは持ち前の高い技術力で「綴プロジェクト」用に独自の撮影システムを構築。この動画では、高精細複製品制作の鍵となる、入力、色合わせ、出力の各工程を、技術的な解説も交えながら紹介されています。

【入力】

キヤノン「EOS 5D Mark IV」による多分割撮影によって、600dpiの高解像度データを取得し、オリジナル文化財が持つ微妙な風合いや質感まで忠実に再現。専用の旋回台や、照明量を大幅に低減するフラッシュ撮影によって、撮影時のオリジナル文化財への負荷を軽減していることがわかります。

長谷川等伯畢生の名画、国宝『松林図屛風』の入力シーン

【色合わせ】

取得した画像データにキヤノン独自のカラーマッチングシステムで瞬時に画像処理を施し、さらに色再現性に優れたプリンターを撮影現場に持ち込んで出力。色合わせを撮影現場でオリジナル文化財と比較して行うことで、何回も色合わせをする必要がなく、オリジナル文化財への負担を軽減。

オリジナル文化財と見比べながら行う色合わせのシーン

【出力】

大判インクジェットプリンター「imagePROGRAF PRO-4000」がもつ高い色再現力によって、経年変化によるオリジナル文化財の微妙な色合いや質感を寸分たがわず再現。また、使用する和紙や絹本も「綴プロジェクト」用に独自開発したものを使用。

国宝『風神雷神図屛風』右隻の風神が出力されているシーン

公開されている動画は現在10作

サイトで公開されている動画にはほかにも、アメリカ・ボストン美術館が所蔵する曽我蕭白の独創的な作品『雲龍図』が、高精細複製品として日本に里帰りするまでを記録した「綴プロジェクト 曾我蕭白筆・雲龍図」、さまざまな作品の高精細複製品が寄贈先の博物館や美術館、寺院などで活用され、日本文化の伝承に貢献してさまを紹介する「綴プロジェクト もっと近くに、感じるままに」、京都・建仁寺の50面の障壁画を高精細複製品によって再現した5年の歳月を追った「綴プロジェクト よみがえる建仁寺50面の障壁画」など、つい見入ってしまう面白い内容の動画が10作品あります。

「綴プロジェクト」の取り組みが事細かに紹介された動画を見ると、日本美術が世界でも特別な存在であることがわかると同時に、それを守り受け継いでいくことの大切さにも気づかされることでしょう。そして、高精細複製品が単なるコピーとは一線を画したものであると納得できるのではないでしょうか。

「綴プロジェクト 文化財をありのままに再現する技術」動画

「綴プロジェクト」による高精細複製の名画と寄贈先一覧

歴史をひもとく文化財

国宝『山水長巻』雪舟 寄贈先:毛利博物館
国宝『神護寺三像』伝藤原隆信 寄贈先:神護寺
国宝『松林図屏風』長谷川等伯 寄贈先:東京国立博物館
国宝『洛中洛外図屏風(上杉本)』狩野永徳 寄贈先:米沢市
国宝『風神雷神図屏風』俵屋宗達 寄贈先: 建仁寺
国宝『雪松図屏風』円山応挙 寄贈先:三井記念美術館
重要文化財『四季花鳥図屏風』狩野元信 寄贈先:白鶴美術館
重要文化財『山水図襖』長谷川等伯 寄贈先:圓徳院
重要文化財『天球院方丈障壁画 梅・柳に遊禽図襖、籬に草花図襖、竹に虎図襖』狩野山楽・山雪 寄贈先:天球院
重要文化財『楼閣山水図屏風(別称:月夜山水図屏風)』曽我蕭白 寄贈先:近江神宮
重要文化財『建仁寺方丈障壁画 琴棋書画図襖、山水図襖、竹林七賢図襖、鳥図襖、雲龍図襖』海北友松 寄贈先:建仁寺
重要文化財『南蛮屏風』 寄贈先:神戸市立博物館
『樹花鳥獣図屏風』伊藤若冲 寄贈先:静岡県立美術館

海外に渡った日本の文化財

ボストン美術館『龍虎図屏風』長谷川等伯 寄贈先:大分県立美術館
ボストン美術館『雲龍図』曽我蕭白 寄贈先:天龍寺
メトロポリタン美術館『八橋図屏風』尾形光琳 寄贈先:京都市
メトロポリタン美術館『老梅図襖』狩野山雪 寄贈先:天祥院
メトロポリタン美術館『源氏物語図屏風』土佐光吉 寄贈先:平等院
フリーア美術館『松島図屏風』俵屋宗達 寄贈先:祥雲寺
フリーア美術館『雲龍図屏風』俵屋宗達 寄贈先:東京藝術大学大学美術館
フリーア美術館『群鶴図屏風』尾形光琳・『桜図屏風』伝俵屋宗達 寄贈先:東京都美術館
フリーア美術館『江戸風俗図屏風』菱川師宣 寄贈先:千葉県立中央博物館
フリーア美術館『十二ヶ月花鳥図』『玉川六景図』『富士田園景図』『鍋冠祭図』『雷神図』『波濤図』『新年風俗図』『漁樵問答図』『源氏物語・早蕨図』『年始回りの遊女図』『遊女図』『蟹尽し図』『琵琶に白蛇図』葛飾北斎 寄贈先:墨田区
クリーブランド美術館『竜虎図屏風』雪村周継 寄贈先:早雲寺
ミネアポリス美術館『四季耕作図襖』伝狩野山楽 寄贈先:大覚寺
シアトル美術館『囲碁図(琴棋書画図のうち)』狩野派 寄贈先:花園大学
サンフランシスコ・アジア美術館『韃靼人狩猟・打毬図屏風』伝狩野宗秀・『四季山水図屏風』式部輝忠 寄贈先:京都国立博物館
大英博物館『秋冬花鳥図』狩野派 寄贈先:談山神社
大英博物館『平家物語 一の谷・屋島合戦図屏風』 寄贈先:国立文化財機構 文化財活用センター
大英博物館『津島祭礼図屏風』 寄贈先:津島市・愛西市
エツコ&ジョー・プライスコレクション『白象黒牛図屏風』長澤芦雪 寄贈先:仙台市博物館

●キヤノン「綴プロジェクト」公式サイト

書いた人

通称TAKE-G(たけ爺)。福岡県飯塚市出身。東京で生活を始めて40年を過ぎても、いまだに心は飯塚市民。もともとファッション誌から始まったライター歴も30年を数え、「和樂」では15年超。日々の自炊が唯一の楽しみ(?)で、近所にできた小さな八百屋を溺愛中。だったが、すぐに無くなってしまい、現在やさぐれ中。