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2019.10.22

ゴッホ、クールベ、北斎までイケメン化?芸術家育成ゲーム「パレットパレード」の魅力に迫る

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2019年9月、スマートフォン向け芸術家育成タイムライズゲーム「パレットパレード」(以下、パレパレ)がリリースされました。
なんとこのゲーム、展覧会でよく見るあの芸術家たちが、イケメンキャラクターになっているんです。
今回は、そんなパレパレの制作に携わった方々のインタビューをお届けいたします。

パレパレとは?

パレパレは、実在の芸術家をモチーフにしたイケメンキャラクターたちが活躍するゲームです。
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この記事内の画像はすべて(c)Claytechworks Co.Ltd

ストーリー
芸術に魅了され『キュレーター』となった主人公がある日仕事で訪れたのは、閉館寸前の『パレット美術館』だった。
「みんなの才能と情熱は本物。この美術館、私に任せてください!」
才能と問題を抱えた芸術家とともに、『パレット美術館』を立て直す物語が始まる――!

物語の登場人物は全員、美術史に名を残している芸術家がモデルとなっています。
ゴッホやゴーギャン、ルノワール、モネといった印象派・ポスト印象派の画家をはじめ、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ、レンブラント、ルーベンス、ドラクロワ、クールベ、ムンク、ミュシャと、ここではご紹介しきれないほどバラエティ豊かです。

そんなパレパレはどのように生み出されたのか、「パレットパレード」エグゼクティブプロデューサーの波多紘幸さん、同・コンセプターの金子曜さん、同・ディレクターの山口彩耶子さんにお伺いしました。

なぜ「芸術家」がモチーフに?

企画の元となったアイディア

―今回はなぜ、コンテンツのモチーフに「芸術家」を選んだのでしょうか?

金子:まず、いろいろなジャンルがある中で、まだ芸術家を本格的に扱ったキャラクターコンテンツがなかったことが一点です。
また、ここ数年、美術館自体も声優を音声ガイドに起用するなど、若い層に向けたアプローチを取っています。芸術家はそれぞれ人間関係含めて多様な背景を持っていたので、キャラクターコンテンツとしてとても面白いのではないかと思いました。
私自身、美術展が好きでよく見に行きますが、高尚なものというイメージがまだあるので間口を広げるきっかけにもなればと思い、何人かで集まって始めたのがパレパレの元となる企画です。全員が美術に詳しかったわけではなく、芸術が好きな者もいれば、キャラクターコンテンツそのものが好きな者もいました。

山口:社内でも「確かに、実在した芸術家だけを取り扱ったキャラクターコンテンツはまだ他にない」と好意的に捉えられ、企画が通りました。その後も美術館に頻繁に訪れたり、美術系の資料を集めたりなど、調査を重ねて開発に至りました。

史実を交えつつ、独自の世界観やストーリーを構築

―パレパレはオリジナルの世界観のお話ですが、時代や国もさまざまな芸術家28人が一堂に会するのは面白いですね。

山口:だからこそ、特に予備知識がないユーザーの方が「よく入っていけない」とならないように、配慮しました。
例えばストーリーですと、最初から28人全員が一気に出てくるのではなく、数人ずつ合流する形にしています。
順番に見せ場を作って、キャラクターの人柄や個性を1人ずつきちんと知ってもらえるように、設計しています。

金子:彼らが集まる美術館の設定は、苦労した箇所のひとつです。
西洋美術系のキャラクターが多めなので全体的に洋風にしつつ、現代的すぎずファンタジーすぎず調整して……。
なるべく多くのユーザーの方に受け入れられやすい形で、パレパレならではの世界観を出すことを目指しました。

山口:キャラクターの設定でもイラストでも、世界観に合っているか否かという問題は、要所要所で発生しましたね。作り上げた世界が崩れないか、常にスタッフ一同で気を配っていました。

芸術家同士の縦と横のつながりを重視

モチーフとなった芸術家の選定方針は「関係性」

―開発に関しては、やはり芸術家の選定について気になりました。

金子:芸術家を選ぶにあたっては、知名度と「関係性」を重視しました。
生きていた時代が近く、実際に関わりがあったであろうという横のつながり。年代が重なっていなくても影響を受けたという縦のつながり。これらを意識したうえで、キャラクター同士が一緒に会話したら面白いだろうなという関係性を重視し、そのうえで知名度を鑑みて選定しました。

―特に女性向けコンテンツでは、キャラクター同士の関係性をどう描くかがとても重要ですよね。

山口:今の女性ユーザーにアプローチするうえで、ただ「かっこいい」「イケメン」で済ませず、一人の歴史上の人物をどうゲームのキャラクターに投影させるかを念頭に置きました。
それで、選ぶのにあたり最後まで重視したのが、「そのキャラクターはどんな関係性を押し出せるか」です。
つまり、他の芸術家との交流や影響を、パレパレの世界でも深く描けそうな人たちですね。

―そうした人選について、反響はいかがでしたか?

金子:元々美術に興味のある人からは、「バジールが入っているのはすごい!」「メインとなるメンバーにクールベが入っているとは!」という反応をSNSで頂きました。

クールベ(右)はストーリーの序盤から活躍。

―確かに、彼らを取り上げているコンテンツは珍しいかもしれません。

山口:バジールは、元々の作品数の事情で、ゲームのなかで取り上げられる作品も少なくて。フーベルトもそうですが、そこがゲーム開発のうえでネックになることもありました。
ただ、グレール画塾4人組(ルノワール 、モネ、シスレー、バジール)をまとめて好きになってくれている人たちがとても多くて嬉しいです。

―パレパレのその4人を好きになってから、史実を調べていくうちに、どんどんのめり込んでいきそうですよね。

山口:ストーリーの会話の中にも、史実でのエピソードや交流を示唆した情報をちりばめています。
それを拾い上げて、自分たちの好きな解釈で芸術を楽しんでいただけたらと思います。

日本人キャラクター3人の選定、設定について

―日本人キャラクターとしては、葛飾北斎、黒田清輝、歌川広重の3人が選定されていますね。

金子:北斎と広重に関しては、まず「浮世絵なら北斎だろう」となり、史実で彼と広重がライバル同士だったのを考慮しました。そうした関係をイケメンコンテンツに落とし込んで表現したら面白くなるのではないか、と考えたからです。

波多:また、貿易で浮世絵が国外に知られるようになりますが、ゴッホらに与えた影響はとても大きいですよね。

関連記事「北斎と広重、二人の世界的浮世絵師のライバル物語」

―では、黒田清輝の選定理由は?

金子:黒田清輝は、印象派の影響も受けたラファエル・コランに師事して、その画風を日本に持ってきた人物である点を踏まえています。西洋美術のキャラクターが多い中で和風すぎず、北斎や広重の影響を受けた画家たちの流れを引き継いだ立ち位置で、日本と西洋双方の懸け橋になればという思いがありました。

―実在した人物の彼らを、実際にどういう形でパレパレのキャラクターに落とし込んでいったのでしょうか?

金子:外見については、例を挙げると、服装のデザインに実際の作品をモチーフとして使っています。
性格に関しても、本人の好きなものや嫌いなものは、当時と著しく文化の差がない限りは芸術家本人のエピソードを取り入れています。
北斎でしたら、史実の彼がまったくお酒を飲まずに甘味を好んだことを、ゲームでも反映させています。
パレパレの北斎は、見た目こそ酒豪のような印象ですが、やはりお酒が飲めず甘党です。
また北斎は引っ越し回数の多さが有名ですが、パレパレでは他所に行かれると困るので、代わりに迷子になりやすいという形にしています。

よく迷子になる北斎。史実での引っ越し回数は93回にのぼると言われています。

―広重に関しては、従者の森田の存在が気になります。広重に近しい「森田」といえば、2代目ですよね。

金子:パレパレの広重が何かと森田の名を出すので、彼も実在するのか気になった人は自分で調べて、納得したようです。もちろん、年齢差は調整して創作を入れています。

山口:パレパレのキャラクターとしての森田のイラストはなく、セリフだけの登場ですが、どんな姿か想像して楽しんでいただけると嬉しいです。
実はその森田ですが、パレパレ開発当初から存在していたわけではなく、比較的後の方になって追加された設定です。
パレパレでの広重が最初、ただのダメな男でしかなく、もう少しゲームキャラクターとしての個性を与えたいとなったときに森田が生まれました。

金子:はい、「じゃあ従者を付けよう!」と。パレパレの世界では、何かと広重は森田を頼り、森田は過剰なほど広重の世話を焼いてしまう関係です。
実際は森田に頼りきりのヘタレなのに本人は至って涼しげな顔をする……というのが、パレパレにおける広重です。
そんな彼が脱・森田を目指して自立できるか、今後のストーリーで注目していただきたいです。

―史実の黒田清輝は教員を務めていましたが、パレパレでも先生としてのキャラが立っていますね。

金子:本作のオリジナル要素として、ストーリーの中で黒田清輝がゴッホに指導するという場面を設けています。
パレパレの黒田は辛辣な言葉を容赦なく放つので、ストーリー序盤は少しゴッホに厳しい展開に見えるかもしれません。

山口:ですが、シナリオを最後まで読めば、パレパレの黒田をとても好きになっていただけると思います。

波多:現実のゴッホが弟のテオをはじめ身近な人たちに支えられたように、パレパレのゴッホも他のキャラクターたちに支えられて成長していきます。

史実とパレパレならではの関係性

―他のキャラクターたちの関係性についても、ぜひお聞きしたいです。

山口:特にリリース後に反応があったのはダ・ヴィンチとミケランジェロで、2人の関係性を楽しんでくれている方は多いように思います。パレパレでは2人とも少年キャラですが、誰にでも穏やかな態度の天才少年ダ・ヴィンチが、ミケランジェロにだけは違った一面を見せます。
あとはやはり、史実のエピソードが有名なゴッホとゴーギャンの関係性についても、ストーリーの序盤から展開していることから、楽しんでいただけているようでとても嬉しいです。
パレパレでの2人に何があったのかは、ストーリーを読み進めていくとわかりますが、少しぎこちない再会から始まります。

金子:パレパレのゴッホは初見だと結構明るい雰囲気で、世間が実在のゴッホに抱いているイメージと少し違って見えるかもしれません。
もともと知識のある方々は「名前を借りただけでは?」と不安に思うかもしれませんが、史実でゴッホとゴーギャンの関係も踏まえた上で、パレパレならではの彼らを描いています。

ユーザーと芸術の懸け橋に

芸術家を知ってもらうための工夫

―近年、ゲームをきっかけに美術館に足を運んでくれる人たちが増えていますが、パレパレでもそうしたムーブメントに期待してしまいます。

山口:それは、我々が初期からやはり目指しているものではあります!

金子:企画書にも「ムーブメントを起こしたい」と書きました!
現在はいろいろなタイトルと美術館のタイアップがありますし、我々もどんどん芸術の間口を広げていきたいです。
「こういう芸術家がいるんだ」「こういう関係性があったんだ」と知った状態で見たら、やはり印象が変わってくるのではないでしょうか。
例として、モネ展でルノワールやシスレー、バジールの作品が展示されていたとして、生前の交流を知れば彼らの作品も掲げられている意味がわかり、さらに面白くなると思います。

バジール(左)とモネ(右)。ゲーム内の会話には、実在した芸術家同士の交流を窺える要素がたくさん詰め込まれています。

山口:ゲームの中では、絵画に興味を持っていただけるように、アルバムで各作家の絵画作品を見られるようにしています。実際のエピソードに触れて、パレパレの世界観にあわせて説明しているのですが、少しでも美術に興味を持つきっかけになったらと、開発途中で追加いたしました。

―お話を伺っていると、みなさんの熱意がどんどん伝わってきました。

山口:もともとアートや芸術が好きだったスタッフがたくさんいて、芸術家へのリスペクトを大事にしていました。ゲームの最初に、各作家の作品の絵が表示されて動くオープニング映像が流れますが、それは芸術家や作品への敬意を込めて後から追加した仕掛けです。デザイナー陣が総力をあげて仕上げてくれました。
実際に絵を鑑賞すると、その中にある時代の流れだったり、生活だったりが感じられますよね。そういうものは、絵を見に行くという行動を起こさなかったら、なかなか触れられない部分です。
また、実際に鑑賞するときとインターネットで少し画像を見たときで感じるものは違うと思い、その距離を縮めたくてそのオープニング映像を制作しました。動いている風景を一枚の絵にし、絵の中にある息吹に触れることで、「絵っていいものなのかもしれない」と感じてほしいです。

ゲームに馴染みがない美術ファンもぜひプレイを!

―本当に皆さんの芸術を愛する気持ちが伝わってくるコンテンツですし、ぜひいろいろな人にプレイしていただきたいですね。

山口:パレパレに登場していない人も含めて、芸術家たちはそれぞれ面白い半生を持っていますので、このゲームをきっかけに、美術をあまり知らなかった人にもいろんな芸術家を知っていただきたいです。
社内でも、パレパレを通して、芸術家たちのファンになっていく人が多いんです。みんな、気が付いたらどんどん詳しくなっていきました。
普段ゲームをプレイしない方でも、芸術が好きだったり興味があったりすれば、どんどんはまっていけるというアプリになっていると思います。

日本人3人の活躍も今後さらに期待が高まります!

皆さん、貴重なお話をたくさん聞かせてくださり、ありがとうございました。
美術はよくわからないからと躊躇っている人も、「私の好きなあの芸術家がいる……!」と驚いた人も、ぜひ一度プレイしてみてください。

ダウンロードはこちら

ゲーム情報

タイトル名:パレットパレード
公式サイト:https://paletteparade.com/
公式Twitter:@Palette_Parade
価格:基本無料(一部アイテム課金制)
コピーライト:©Claytechworks. co., Ltd.

書いた人

日本文化や美術を中心に、興味があちこちにありすぎたため、何者にもなれなかった代わりに行動力だけはある。展示施設にて来館者への解説に励んだり、ゲームのシナリオを書いたりと落ち着かない動きを取るが、本人は「より大勢の人と楽しいことを共有したいだけだ」と主張する。