Gourmet
2019.10.22

茶の湯ファン必見!江戸千家の流祖・川上不白の特別展が根津美術館で開催!

この記事を書いた人

2019年秋は、東京の主要な美術館で「茶の湯」関連の展覧会が相次いで好評を博しています。三井記念美術館「高麗茶碗」展、サントリー美術館「美濃の茶陶」展など、テーマを絞って、茶の湯のうつわを深堀りした非常に力が入った展覧会は見応えがありました。

この2展に加えて、11月から根津美術館でスタートする「茶の湯」の注目展が、「特別展 江戸の茶の湯-川上不白 生誕三百年-」です。今度はうつわではなく、偉大な茶人の生涯に焦点を当てた展覧会。特集されるのは、茶聖・千利休の茶道を江戸に広め、江戸千家の流祖となった川上不白(かわかみふはく)。

展覧会では、不白の師匠・表千家七代如心斎(じょしんさい)との師弟関係や、不白好みの茶道具、大名をはじめとする門人や周辺の職人たちとの関わり、不白が手掛けた書画、近代数寄者への影響まで様々な視点から川上不白を大特集。茶の湯の師としてだけでなく、作陶や書画、俳諧など幅広い分野でマルチな才能を開花させ、江戸後期から近代にかけて大きな支持を得た川上不白の魅力をたっぷり感じられる展覧会になりそうです。

それでは、簡単に見どころを紹介していきます!

「川上不白生誕三百年 特別展 江戸の茶の湯」の5つの見どころを紹介!

注目点1:師匠・如心斎と不白の師弟関係を掘り下げる

黒樂茶碗 紙屋黒 長次郎作 日本・桃山時代 16世紀 静嘉堂文庫美術館蔵/不白が江戸に下ることを決めた時、後援者であった大坂の豪商鴻池家から餞別として贈られた長次郎の茶碗。

川上不白(かわかみふはく)は、18世紀~19世紀初頭にかけて江戸で活躍した茶人です。享保4年(1719)、紀州新宮藩付家老水野家の家臣・川上五郎作の次男として誕生し、16歳で表千家七代・如心斎天然宗左(じょしんさいてんねんそうさ)の内弟子になります。不白は、稽古法や門弟組織を整えて現在の家元制度の基礎を作り上げ、千家「中興の祖」とも呼ばれた偉大な師・如心斎から学ぶとともに彼の茶事を精力的にサポートしました。

不白は京と江戸の間を行き来する中で、千家流の茶を江戸に広める活動に従事しつつ、如心斎が切望した「利休遺偈」(りきゅうゆいげ)を千家に戻すために奔走したといわれています。

注目点2:江戸で大活躍!川上不白の茶の湯の広がり

国宝 清拙正澄墨蹟 遺偈 日本・南北朝時代 暦応2年(1339)常盤山文庫蔵/来日した中国僧、清拙正澄(せいせつしょうちょう)の絶筆。不白が安永4年(1775)8月から年末まで関西に滞在した際、堺の茶会でこの墨蹟を目にしたとされます。

江戸に本拠地を移した不白は、駿河台に黙雷庵(もくらいあん)、神田に蓮華庵(れんげあん)を建て、江戸で本格的に千家茶道の普及に尽力しました。展示では、不白研究には欠かせない「不白筆記」や、不白の茶会で登場した国宝の墨蹟、不白の俳句が銘として用いられた茶筒などの展示を通して、不白の茶の湯に対する考え方や姿勢を見ていきます。

また、千家における正当な継承者である証「茶湯正脈」(ちゃのゆのせいみゃく)を授けられた不白の元には、皇族から町人に至るまで幅広い身分階層から多くの門人たちが集いました。「茶人家譜」(ちゃじんかふ)によると、大名・旗本などが114名、寺院12カ所、諸藩家臣104名、町人他が69名とまさに大盛況。展示では、この中から代表的な大名茶人との交流を取り上げています。

注目点3:力強さと奔放さが魅力!不白の茶道具

赤樂茶碗 銘 只 川上不白作 日本・江戸時代 18世紀 個人蔵

そして茶の湯ファンが一番楽しみにしている不白の茶道具も多数展示されます。不白は茶碗をはじめ、茶入や香合などの作陶を自ら手掛けた他、茶杓、花入といった竹工芸にも秀でるなど、自らの美意識を反映した茶道具の名品を多数生み出しています。

利休から受け継いだ侘び茶の精神を守りながらも、奔放な造形と力強さを備えた不白の茶道具からは、不白の一流文化人としての深い教養と繊細さも合わせて味わうことができそうです。

鶏頭蒔絵棗(けいとうまきえなつめ)塩見小兵衛作 木胎漆塗 日本・江戸時代 18世紀 個人蔵/展示では、自作の茶道具だけでなく、不白好みの茶道具も多数出品。本作には、不白が特に棗のデザインとして好んだ「鶏頭」が器面全体にあしらわれています。

注目点4:不白の手掛けた書画

川上不白は、晩年期を中心に禅の味わいや俳諧的なユーモアを湛えた書や画を多数制作しました。展示では、彼が交流した画家から請われて賛を寄せた作品も登場。こうした作品から、不白の人間関係や趣味を読み解いていくのも面白いですよね。

糸瓜図 中村芳中筆、川上不白賛 日本・江戸時代 寛政12年(1800)個人蔵/意外!大坂で活躍した琳派の個性派、中村芳中の作品に賛を寄せています。

注目点5:根津嘉一郎も夢中になった?!近代数寄者への影響

矢筈口水差 銘 黙雷 備前 日本・桃山~江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

そして展示最終コーナーでは、根津美術館の礎を築いた根津青山(根津嘉一郎)をはじめとする、近代数寄者が収集した茶道具コレクションなどを展示。不白流茶の湯を習い、東京で活躍した近代数寄者が川上不白から受けた影響を見ていくことで、不白が江戸で広めた茶の湯が現代まで脈々と継承されていることを実感できるでしょう。

展示室5、展示室6の特集も!

根津美術館では、毎回の企画展/特別展にあわせて、2階の展示室5では小特集展示を、展示室6では季節に応じた茶道具の特集展示が行われます。僕はいつもこの2室の特集展示が楽しみなのですが、今回も非常に面白そうなテーマとなりました。

展示室5:平家物語画帖-知っておきたい名場面-

平家物語画帖 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

根津美術館が所蔵する屈指の名品「平家物語画帖」。『平家物語』の主要な場面を扇面に描き、上、中、下3帖の画帖に貼り付け、物語の「詞書」(ことばがき)を加えた作品で、細密描写が見どころ。全120場面のうち選りすぐった48場面を展示します。

2012年、NHK大河ドラマ「平清盛」が放映された年、同館の秋のコレクション展「平家物語画帖」で全120場面(総長65メートル)が公開されて話題を呼びましたが、今回は久々のまとまった公開となりました。

展示室6:口切の茶事

茶壺 銘 四国猿 福建省系 中国・元時代 14世紀 根津美術館蔵

「展示室6」では、企画展/特別展に合わせて季節の茶道具が毎回展示されます。今回の特集では、陰暦10月頃にあたる11月、その年の初夏に摘んだ茶葉を味わうため茶壺の口の封を切る「口切」(くちきり)の茶事をテーマとした展示が行われます。茶道の正月とも呼ばれる「口切」にふさわしい、晴れやかな茶道具約20件が取り合わせて展示されます。

庭園の紅葉も合わせて楽しみたい!

庭園の飛梅祠

春夏秋冬、それぞれの季節に応じた表情が美しい根津美術館の庭園ですが、中でも特にオススメな季節が、カキツバタが満開になるGW前後と庭園内の木々が色づく紅葉の季節。ちょうど本展開催中は、庭園の紅葉が絶好の見頃を迎える庭園鑑賞のベストシーズンなのです。特別展を見終わったら、ぜひ庭園散策を楽しんでみてくださいね。

僕も毎年この時期に根津美術館の庭園風景を写真に撮って持ち帰るのですが、見比べてみると不思議と年ごとに少しずつ紅葉の色づき方が変わり、庭園の表情が違って見えるのも風情があって面白いです。

川上不白の茶の湯の魅力を体感できる特別展!

千利休が創始した茶人として大成し、江戸千家を創始して江戸の茶の湯を盛り上げた川上不白。その生誕300年を記念して開催される本展は、茶の湯ファンにとっては見逃せない特別展となりました。茶の湯にとってベストシーズンでもある晩秋に、庭園の紅葉とともに江戸の大茶人の芸術を満喫してみたいですね!

展覧会基本情報

展覧会名:「川上不白生誕三百年 特別展 江戸の茶の湯」
会場:根津美術館(〒107-0062 東京都港区南青山6-5-1)
会期:2019年11月16日(土)~12月23日(月)
展覧会HP:http://www.nezu-muse.or.jp/

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。