最近「刀剣女子」と呼ばれる若い女性達が、日本刀や刀装具人気の火付け役となり、ムーブメントを起こしているそうです。私はティーンエイジャーの頃、祖父と時代劇に熱中していましたが、刀はもっぱら武器として描かれることが多く、特に気に留めないで過ごしてきました。こんな刀や刀装具の知識が全くない私でも楽しめそうな催しが、大阪歴史博物館で開催中と知りました。「決定版刀装具鑑賞入門」をレポートします。
会場は大阪城のすぐ近く!
会場の大阪歴史博物館は、JR大阪駅から地下鉄谷町線に乗り換え「谷町四丁目」9号出口出てすぐ。アクセスの良い場所です。近くには大阪城があるので刀装具を見学するのにはぴったりですね!
そもそも刀装具とは?
刀装具とは、日本刀を保護して帯びやすく使いやすくするものだそう。ただ実用的な機能面だけではなかったようです。会場入口には、見学者がわかりやすいように、見本の刀と共にディスプレイしてありました。
刀に刀装具をセットした鞘や柄といった全体を、拵(こしらえ)と呼びます。刀の鞘には、細かい装具が収められるようになっていて、それぞれの装具には名前があり、役割を持ちます。武器のイメージとは違って、とても細かくて繊細な印象。
寄贈されたのは、昭和を代表する刀装具コレクター勝矢俊一のコレクション
今回の展示は、昭和を代表する刀装具コレクター勝矢俊一さんのコレクションです。寄贈先を探していた遺族が、2018年に大阪歴史博物館に927点を一括寄贈。その中から選ばれた約200点を展示しています。本業が医学者だった勝矢さんは、コレクターに留まらず、研究者としての視点を持ち続けました。エッセイから論文まで多数の著述も残しています。
熱気ムンムンのギャラリートーク
この展示を企画した内藤直子学芸員のギャラリートークがあると知り、参加させて頂きました。金曜の夜という時間帯もあってか、仕事帰りのサラリーマン風の男性から、若い大学生、年配のご夫婦と幅広い年齢層の人が集まっていました。博物館なので、当然皆さん静かなのですが、何というか熱気があって、ちょっとびっくり。食い入るように刀装具を凝視し、トークを一言も聞き漏らすまいといった緊張感が漂っていました。
内藤さんは「よく実際に使用したものですか?と聞かれるのですが。刀や刀装具は武器としての意味合いだけではなかったと思います。江戸時代の町人が自分の楽しみとして持っていたものも含まれると思いますね」。全てを戦いの道具と限定しない方が、魅力に入っていきやすいとアドバイス。
学芸員の内藤直子さん
鐔のデザインの面白さ
鐔(つば)は日本刀を握る柄(つか)と刀身(とうしん)の間にある刀装具です。役割は、主に手を保護するためのもの。勝矢コレクションは、刀装具の中でも鐔が多いのが特徴のひとつです。これは勝矢さんが鐔を重要視していたからとも考えられます。「医学者だったので、洋書で勉強したりと、他の日本人のコレクターとは見方が違っていてユニークですね。特定の作者の作品が多かったり、各地方の珍しい鐔だったり。作者の名前が入っていないものは無銘と言いますが、勝矢さんの視点で選ばれた魅力的なものが多くあります」と内藤さん。
大小鐔 大小の刀用に鐔も揃いで仕立て上げられたもの。丁寧で確かな技術が感じられます。
ギャラリートークでは鐔の意味をわかりやすく紐解いてもらえるので、興味が増します。こちらは、文字が入っていてとても印象に残るデザイン。摂津、河内方面の轡(くつわ)師の市口鍛冶の作。轡とは、馬の手綱を付ける時に使う馬具のことです。関ヶ原の戦いで敗走する島津勢を案内した功績で、薩摩藩御用轡師になったと伝えられています。透かし彫られた「安忠」の文字は、「忠」を「案」ずという武家らしい意味合い。島津家では代々「忠」の字を一族で代々入れていたことと関連しているのかもしれません。
超絶技術と遊び心に驚き
鞘の中に収められた刀装具は、皆とても小さなものばかり。その限られたスペースに、信じられないような技と、遊び心を詰め込んでいて驚きます。アクセサリー感覚だったのでしょうか。見ていてとても楽しいです。
素材や意匠を揃えた揃金具 笄(こうがい)髪の手入れなど、身だしなみを整えるための道具、小柄(こづか)小刀(ペーパーナイフ)の柄、目貫(めぬき)柄の表裏で手だまりをよくする道具の3点が並びます。
江戸の装剣金工の作。しわがれた干物の質感を見事に表現しています。
月にうさぎの目貫(めぬき)、動物のデザインは、広く好まれたよう。モダンな印象でブローチにしたら可愛いと思ってしまいました。
自分のお気に入りを見つけると楽しい!
寄贈されたコレクションは、箱に入っていない状態で保管されていたので、1点1点名前を付けることから始めたという内藤さん。展示に拡大レンズが設置されていたりと、見学者が見やすいようにとの思いが伝わってきます。「自分のお気に入りを見つけて楽しむ感じでもいいんでしょうか?」とお尋ねすると、「それでいいと思いますよ。私もそうですから」と心強い返答を頂きました。
この鐔は、上部に冠、下部に杜若(かきつばた)そして合間に見える板状のものを八ツ橋と連想すると、このデザインに隠れているのは「在原業平」。「唐衣着つつなれにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」古今和歌集に収録された在原業平の歌は、三河の八橋を流れる沢のほとりに杜若が美しく咲いているのを見て、かきつばたの5文字を各句の頭に入れて旅の気持を詠んでいます。歌をデザインに取り入れる、こんな斬新で洒落た鐔があるのかと、私がこの日、一番心に残った刀装具です。
これだけの数の展示が並ぶのは珍しいそう。来年の秋頃にも、また展示を予定しているのでそれも楽しみですね。今回、初めてギャラリートークに参加して、わかりやすい説明のお蔭で、刀装具の世界に興味が湧いてきました。皆さんも学芸員のお話を聞くチャンスがあれば、是非参加して、そしてお気に入りを見つけて下さい。
決定版刀装具鑑賞入門 基本情報
会場:大阪歴史博物館6階特別展示室
大阪市中央区大手前4-1-32
開催期間:2019年12月1日(日)まで
午前9時半~午後5時(会期中の金曜日は午後8時まで)
入館は閉館の30分前まで受け付け
休館日:火曜日
観覧料:大人800円 高大生600円
公式ウェブサイト
※勝矢俊一さんと交流があり、大阪市無形文化財保持者の名工、故阪井俊政さんの刀装具作品と渡邉正憲さんの根付コレクションも見られます。