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2019.11.26

トマトのコンポート、ポテトサラダ!?禅の教えに基づいた「ハイブリッド精進料理」ってなんだ?【福井】

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曹洞宗大本山・永平寺のある福井県は、禅の教えに基づいた精進料理が息づいている。肉や魚を使わず、野菜や穀物のみという精進料理でありながら、彩り豊かな「ハイブリッド精進料理」がいただけると聞いて、福井県若狭地方を訪ねた。

福井県美浜町に位置する「曹洞宗陽光山徳賞寺」。永禄六年(1563年)、戦国時代、若狭武田氏の重臣だった粟屋越中守勝久が開基した寺はのどかな里山に佇む。

徳賞寺。粟屋越中守勝久が開基

現在の本堂は寄棟造、桟瓦葺、平入り、桁行八間半、梁間七間で、三列六室構成、前方に八尺間、一間幅の土間をとる。

住職である栗谷正光さんは「大雲道人」の雅号で、フランスの世界公募展に4年連続で入選するなど水墨画の画家として活躍。達磨画も多く手がける。

副住職である栗谷一智さんによる精進料理は、僧侶が修行のために食べる料理とは少し異なる。称して「ハイブリッド精進料理」。トマトやキャベツなどの洋野菜も使い、サラダ、マリネなど洋風調理も取り入れた料理が堪能できると注目を集めている。

大学を卒業後、永平寺での修行ののち、父である正光氏が住職を務める徳賞寺で副住職となった栗谷さんが、ハイブリッド精進料理を作り始めたきっかけとなったのは、10年ほど前のこと。「欧米の方々に、精進料理を提供したところ残してしまわれる方が多かったんです」

和食にとらわれずにフレンチやイタリアン、中華のアレンジを施した精進料理があってもいいのでは、と考えた。

「それに、精進料理は見た目があまりにも『茶色』で、若い方の心に響く料理ではないですよね(苦笑)」と栗谷さん。

「美味しく、そして目にも愉しんでもらえる精進料理を提供することで、多くの人が寺を訪れ、身近に感じてもらえるきっかけになれば」。

栗谷さんがそんな想いで栗谷さんがそんな想いで禅宗の食事に対しての教えをもとに、作り上げたハイブリッド精進料理は、見るだけで楽しくなる。

トマトのコンポート、かぼちゃのバター炒め、ポテトサラダ、キュウリとミョウガ、ナガイモのマリネ、おからのカレーだんご……。和洋折衷の献立はおおむね20種類以上用意され、ひとつひとつ、じつに多くの食材が使われている。

宝石のような「ミニトマトのコンポート」とやさしい味わいの「カボチャのバター炒め」。

炒めたセロリ入りの「おからのカレーだんご」と、角麩を煮て、パン粉をつけて揚げた「精進カツ」。旨みがいっぱいでお肉より美味しい。

「塩レモン」で味付けした「ポテトサラダ」のさわやかな味わいに驚く。


豆腐とすりおろしたヤマトイモ、ゴボウを合わせ、海苔に塗って焼き、タレをからめた「うなぎもどき」。

精進料理の定番「ごま豆腐」は、2時間かけてごまをすり、葛、だしを加えて火にかけて1時間練り上げるという気の遠くなるような工程。滋味あふれる、という言葉のとおりの味わい。

炊き合わせは、食材をひとつひとつ下ゆでしてから、一つずつ昆布だしと大豆だしで煮る。凛々しい美しさに煮上がった野菜は、みずみずしくふくよかな美味しさ。

どの料理も細やかな気配りを感じる誠実な味わい。食べるたびに、身体に穏やかに染み込んでいくようだ。

あまりの美味しさに「もともとお料理好きなのですか?」と栗谷さんに尋ねると意外な答えが返ってきた。

「精進料理を作るとき以外は、包丁は持ちません」。

提供する料理はどれも手間がかかるものばかり。そして主に食材の調達は「托鉢(たくはつ)」で行われるため、日によって食材の色味が足りないこともあるが工夫を凝らす。大変な作業だ。

「人のために作る料理は苦になりません」。

栗谷さんは永平寺での修行時代、修行僧の食事を司る要職である「典座(てんぞ)」のもとにつき、「人のために自分の時間を惜しまないこと」を繰り返し説かれてきた。

道元禅師は『典座教訓』で食の大切さを説いている。

道元禅師が中国での修行中、年老いた典座が炎天下で、野菜を干していた。「若い人にまかせたらどうですか」と道元禅師が声をかけたところ「他は是我にあらず」(これは、自分の修行である)との返事があったという。

「命を司る食に携わることは、いちばん大切な修行であるとされているのです」と栗谷さん。

『典座教訓』には、「三心」を忘れてはならないと記されている。

作る喜び、もてなす喜びを忘れない「喜心(きしん)」、相手の立場を想って懇切ていねいに作る「老心(ろうしん)」、そしてとらわれや、かたよりを捨て、深く大きな態度で作る「大心(だいしん)」。

和にとらわれず、時間をかけてていねいに作られたハイブリッド精進料理は栗谷さんにとっての「修行」。彩りある精進料理には意味がある。

けれど栗谷さんは「食べる方には、精進料理について難しく考えずに、美味しく、楽しく召し上がっていただければと思っています」と微笑む。

誰かのためにつくる料理は、たとえカレーや、パスタであっても、きっと「精進料理の心」があれば、もっと美味しく、喜んでもらえる豊かな味わいになるのかもしれない。そして、きっと、そのために費やす時間は自分にとって、「かけがえのない大切な時間」。

ハイブリッド精進料理は忙しい毎日、忘れていたことを思い出す貴重な時間を与えてくれた。

徳賞寺
※精進料理は電話にて問い合わせを

書いた人

薬膳アテンダント。国立北京中医薬大学日本校卒業、国際中医薬膳師資格取得。食文化ジャーナリスト、さばファンの団体「全日本さば連合会」にて広報担当「サバジェンヌ」としても活動中。http://www.yuruyakuzen.com/