寒さがしんしんと身に沁みる季節となってきました。底冷えする町を歩いていると、無性に体にやさしい温かなものが食べたくなります。そんな時、和歌山在住の私が足を運ぶのが和歌山市雑賀崎にある「和創作料理 日進月歩~cuisine~」です。
雑賀崎は海にほど近い漁師町として知られたところです。が、「日進月歩」は山の方へどんどん坂を上った住宅地の中にあり、最初に訪ねた時には、「えっ、本当にこんな場所にレストランがあるの?」と不安に思ってしまったほど。緑豊かな木々に囲まれた、隠れ家のようなレストランです。
店主の道脇勇気さんは、もともと和食の料理人だったそうです。
「和食は極めると、器の知識も重要になってくるんです。料理そのものに加えて、九谷焼だとか有田焼だとか、器の技法や意匠を愛でつつ料理を楽しむことが求められます」
そんな和食の世界を知った上で、今度は洋食へと気持ちが動いたのだと道脇さんは話します。大阪のいくつかの店舗で洋食の料理人としての腕も磨き、5年前に現在の場所で、まずは洋食レストランとしての「日進月歩」をオープン。
「最初の1年はパスタやオムライスを提供する、ごく普通の洋食屋でした。でも次第に、もっと自分らしさを出したい、そう思うようになったんです」
その時、道脇さんが注目したのが、地元・和歌山産の新鮮で豊富な野菜とフルーツでした。
野菜たっぷり、体にやさしい絶品ランチ
この日のランチのメインは「トリミンチとおからのハンバーグ」。彩りの良い野菜が添えられ、たっぷりの和風あんがかかっています。高タンパク低カロリーのトリミンチ、食物繊維たっぷりのおからが嬉しい一品です。
そこに「赤大根の甘酢漬け」「切り干し大根の酢の物」「そうめんかぼちゃの酢の物」と普段は摂取しにくいクエン酸がたっぷりのお惣菜。
「柿と春菊の白和え」「ゆで大豆とキャベツのクミン風味」は薄味で素材の味を引き出しています。
「塩漬けメンマそぼろ」は塩漬けメンマのみじん切りがまるでひき肉のようで、ピリッとしたショウガと相まって絶好のごはんのお供となっていました。
ちなみにごはんは3日間発酵させた「酵素玄米」です。「酵素玄米」は小豆が入っていることが多いそうですが、こちらは玄米のみを発酵させています。
写真奥のグラスは「邪払(ジャバラ)の酵素ジュース」。甜菜糖(てんさいとう)とジャバラを混ぜて寝かせておき、酵素菌を増やしているとのことでした。
これだけの野菜や果物が、ほぼ和歌山産。店主・道脇さんの地産地消に対するこだわりがうかがえます。
「本当に、和歌山には素晴らしい作物を作っている方が多いんですよ。それに気づいて、野菜やフルーツの味を活かした創作料理を作り始めると、だんだんお客さんの層が変わってきました」
体に少し不調を感じている人、食についての学びを持っている人、妊娠中の女性…そんな来店客との対話を重ねつつ、現在提供している「和創作料理」のスタイルが出来上がったとのことです。
デザートのシフォンケーキは米粉と甜菜糖を使用。ふわふわの食感にレッドペッパーのアクセントが効いています。紅茶は無農薬のもの。渋みが少なくスッキリとして、とても飲みやすい紅茶です。
自由にお水をいただけるサーバーはレモン水。日によってはオレンジやフレッシュハーブのときもあります。席に着いて、まずこのサーバーのお水をいただくと体がほっと息をつくようです。
窓のすぐそばに野生のリスが!
「日進月歩」で忘れてはならないもの、それは窓の外にやってくる野生のリスたちです。
「この店舗に引っ越してきてすぐ、朽ちたテラスの補修をしていると木の間をチラチラするモノがいたんです。野鳥だと思っていたら、なんとリス!妻も僕も生き物が好きなのでエサを置いてみたら、翌朝なくなっていて…」
道脇さんによると、やはり野生のリスは警戒心が強く、馴れてくれるかどうかは個体次第だとのこと。春と秋に世代交代があるらしく、なついているコがいるな、と思っても、ここに定着はしてくれないそうです。
しっかり餌付けされているわけではなく、訪ねて来るリスは本物の「野生」です。出会えるかどうかはその日の運次第。まったく姿を現さない日もあるとのことです。
幸運なことに私は何度か、リスを撮ることができています。窓の外には目を向けず知らん顔をしてランチをいただき、運良く現れたならゆっくりと静かにレンズを向ける…それがコツかもしれません。でも、中にはまったく人を恐れず、外の窓枠をよじ登って走り回るリスもいます。そんなコと出会えれば破格の幸運ですね。
「日進月歩」では味噌作り体験も
「日進月歩」では自分で味噌を仕込む味噌作り体験をすることができます。
「体に良い食を、と思った時、世界のスーパーフードをいくつか考えたんです。でもその後、ハッと味噌に気付いて。味噌はずっと古くから日本にあるスーパーフードですよね」
味噌づくりでは大豆を水に浸してから蒸すところまで、道脇さんがきちんと準備をしてくれるそうです。
でも、その後の混ぜる作業はできればご自身でしてもらいたいとのこと。
「誰にでも手のひらに、体を守ってくれる常在菌がいるんですよ。ご自分の手で混ぜることでその常在菌を活かした味噌を作ってもらいたいんです」
店内で仕込みを体験できる「全部自分でやりたいプラン」は事前の予約が必要です。作れる味噌の種類は豊富で、「米味噌」や「麦味噌」、「黒豆味噌」や「減塩甘味噌」など、お好みの味噌作りを選べます。
また、遠方であったり、なかなか時間を取れない方のために、完成した手作り味噌を送ってもらえる「オーナーにおまかせプラン」も用意されています。
詳しくは「日進月歩」までお問合せをしてください。
増える竹林を食材に。孟宗竹で和歌山産塩漬けメンマ
ランチの一品にもなっていた「塩漬けメンマ」。実は和歌山で行われている竹林整備の一環として生まれた食材です。かつては生活用品に欠かせない素材として利用されていた竹ですが、現在では里山を侵食してゆく「竹害」が問題視されています。
その竹を食品として消費しようと生まれたのが「紀州竹菜」です。和歌山産孟宗竹の幼竹を使用し、無添加無漂白の塩漬けメンマが出来上がりました。
商品化にあたった「一般社団法人わかやまインフィニティ」に道脇さんも協力をしているとのこと。
「日進月歩」でもこの「紀州竹菜」(税別540円)を購入できます。
「和歌山では、ちょっと畑をやってる、という人のレベルがすごく高いんです。農家ではなくても、素人とは呼べないレベルの高さで」と道脇さんの妻の友子さん。
「日進月歩」では、できる限り有機野菜や減農薬野菜の地産地消を目指しているとのことなのですが、それを支えているのが提携している農家や、先ほどの「ちょっと畑をやってる」方からのおすすめを分けていただくことだそうです。
和歌山の雑賀崎という場所での、人とのつながりがあってこそなのだと友子さんは笑顔で話してくださいました。
「和創作料理 日進月歩~cuisine~」基本情報
【所在地】 和歌山市雑賀崎6-51
【公式サイト】 https://peraichi.com/landing_pages/view/g1e0b
【アクセス】 南海電車 「和歌山港駅」より約2.8㎞
和歌山バス 「泊浜」バス停より徒歩2分