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2019.06.13

日本美術入門に最適!根津美術館「はじめての古美術鑑賞」【展覧会感想・解説・レビュー】

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日本美術って興味はあるんだけどなんだか難しそう。北斎とか若冲くらいなら見たことがあるけど、古い仏画や禅画なども、画面は茶色くなっていて見にくいし、白黒の水墨画は地味だし、何を意味しているのかサッパリわからない・・・。

このように意外と難しいイメージがあって、入門してみたくてもどこから手をつけたらいいのか、わからない方も多いかもしれません。

思い返せば、筆者も日本美術に興味を持ち、展覧会を最初に回り始めた時は、何をどのように観たら良いのかさっぱりわかりませんでした。そんな時、ちょうど出会えたのが2015年から毎年テーマを変えながら開催されている「はじめての古美術鑑賞」展でした。

2019年もすでに2回行ってきたのですが、今回は特に難易度の高い水墨画や禅画、仏画の「画題」をわかりやすく解説。たっぷりとノートにメモを取ってきましたので、そこからいくつか見どころを紹介していきたいと思います!

※展示室内の撮影は特別に許可を得て行っています。

「はじめての古美術鑑賞」とはどんな展覧会なの?

もともと根津美術館は通常の企画展でも手厚い解説パネルや充実した音声ガイドを用意してくれているのですが、「はじめての古美術鑑賞」ではさらに手厚く鑑賞者をサポート。所蔵品を中心に選び抜かれた傑作を鑑賞しながら、日本美術の鑑賞に役立つ基礎知識をやさしく学べるという意味で、鑑賞も学びも一挙に得られるのが本展のうれしいところです。

今年度のテーマは「絵画」。いわゆる「古美術」に属する近代以前の絵画作品は、何が描かれているのか理解すること自体はそこまで難しくありません。山水画なら、険しい岩山があって滝があって、草木や鳥が描かれていて、草庵の中にお爺さんがいて・・・といったような具合です。

しかし、それにもかかわらず、古い水墨画や仏画を鑑賞しているとき、なんとなく消化不良感が残ることってないでしょうか?

重要美術品 観瀑図 式部輝忠筆 景筠玄洪賛 1幅 紙本墨画 日本・室町時代 16世紀 根津美術館蔵 小林中氏寄贈

もしかしたら、それは描かれているものが何を意味しているのか理解できないからなのかもしれません。絵の中の人物は一体誰なのか。絵の中に描かれたお爺さんは一体何をしているのか。

特に水墨画や仏画、禅画といった作品群は、日本だけでなく古代~中世における中国の故事・歴史からテーマが採られていることが多く、よほどの歴史マニアでなければ、絵をひと目見ただけで描かれた人物や場面をパッと特定できる人は少ないはずです。

西洋絵画で日本人にはほとんど馴染みのない旧約聖書やギリシャ神話の一場面が描かれた作品を見て、「で、何がいいたいのこれ?」とモヤモヤするのと同じ感覚ですね。

本展では、こうしたモヤモヤ感を一掃するため、特に読み解くのに苦労しがちな水墨画・仏画・禅画などに頻出する主題を徹底的に解説。全ての展示作品に丁寧なキャプション(解説)が用意され、古美術についての鑑賞知識をしっかり学べる展示構成になっています。

展覧会で紹介されている主な絵画ジャンルは?

展覧会では、特に難易度の高い水墨画を中心として、「はじめに」「第1章 物語絵の世界」、「第2章 禅林の人物と中国の神仙たち」、「第3章 中国の故事人物画」、「第4章 自然へのまなざし」と5章構成に分かれて作品がならんでいます。順番にみていくことにしましょう。

「物語絵の世界」では意外なモチーフに着目!

まず「第1章 物語絵の世界」で主に紹介されるのはやまと絵の世界。「源氏物語」「伊勢物語」「平家物語」といった平安時代から読みつがれてきた物語を掛け軸にしたものです。

こうした武士や貴族などが活躍する物語絵はカラーで彩色されて描かれることが多いので見ていて華やかではあるのですが、とはいえ何も事前知識がなければどう解釈していいのかわかりませんよね。作品中に描かれた人物はみな同じ顔、同じ表情に見えますし、各作品がどの物語のどの場面を描いているのかわからないと、心から楽しむことは難しいかもしれません。

そこで、こうした「物語絵」を鑑賞する時は、その作品の中で最も力を入れて描かれていたり、絵の中で目立っている「小道具」や「植物」といったモチーフに着目することが読み解きのコツとなります。

たとえば、以下の作品を見てみましょう。

伊勢物語図 板谷広長筆 2幅 絹本着色 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵 小林中氏寄贈

このは、伊勢物語の名シーンを2幅で描いた作品ですが、それを読み解くには、この画面の中に強調して描かれたある植物に注目してみましょう。そう、それが左幅の中段に描かれた「菊」の花です。

伊勢物語図 板谷広長筆 2幅 絹本着色 日本・江戸時代 18世紀 部分図 根津美術館蔵 小林中氏寄贈

拡大してみると、二人の貴族男性が花壇に植えられた色とりどりの菊を鑑賞していますね。白、ピンク、赤、オレンジなど、多数の種類が丁寧に描かれており、明らかに作品の中で目立っています。そこで「菊」のモチーフを手がかりに各物語の各シーンをたどっていくと、どうやら左幅は伊勢物語・第51段の場面を描いているのではないかと推定することができるのです。

もう1作品見てみましょう。こちらは、いわゆる平安貴族の日常風景を描いたやまと絵の作品。何の物語絵なのでしょうか。

源氏物語朝顔図 土佐光起筆 1幅 絹本着色 日本・江戸時代 17世紀 根津美術館蔵

そこで、画面をじっと見ていくと、庭で異様なほど大きな「白い物体」を触っている貴族女性達に目が行きますよね。これ、明らかに目立っていますし変です。

源氏物語朝顔図 土佐光起筆 1幅 絹本着色 日本・江戸時代 17世紀 部分図 根津美術館蔵

そう、これは「雪だるま」なのですね。そこで、また「雪だるま」が登場する物語を探していくと、どうやら本作は源氏物語・第20帖「朝顔」を描いたものなのではないかと当たりをつけることができるのです。

正妻・紫の上を放ったらかして朝顔に執着した光源氏。朝顔は光源氏からのアプローチを拒み続けたので、光源氏は朝顔をあきらめると共に、雪遊びをして不安になった紫の上をフォローするという「あらすじ」を知っていれば、結構初見でも「あぁ、朝顔か」とわかるものなんです。(実際、この絵をアート初心者で源氏物語ファンの妻に見せたところ、朝顔のシーンであるとすぐに見抜きました)

それにしても庭遊びをする格好じゃないとか、地面に全く雪が描かれていないのに一体どうやって雪だるまを作ったのかとか、そもそも雪玉が大きすぎはしないかなどツッコミどころもあるのですが、適度におかしなポイントを探しながら鑑賞するのも古美術の醍醐味なのではないかと思います!

中国の神様や聖人だらけの水墨画

続いて第2章へ行きましょう。いよいよ展覧会は「白と黒」だけで表現されたディープな水墨画の世界へと移り変わっていきます。

第2章で待っているのは、中世以降、画僧などが好んで描いた仏画や仙人たちを描いた肖像画群です。順番に見ていくと、中国禅宗開祖となる達磨(だるま)や二祖となった慧可(えか)をはじめ、中国道教由来の鍾馗(しょうき)や西王母(せいおうぼ)など、レジェンド級の人物たちが並んでいます。もし、初めて見るよ!という方は、ぜひそれぞれの人物の特徴を目に焼き付けてください!展覧会では何度も見かける画題ばかりなので、本展で覚えて帰れば鑑賞力が一気にアップすると思います。

例えば、水墨画だけでなく、江戸絵画などで最頻出と言ってもよい「寒山拾得図」(かんざんじっとくず)。

寒山拾得図 雪村周継筆 2幅 紙本墨画 日本・室町時代 16世紀 栃木県立博物館蔵

気持ち悪い顔で描かれている悪ガキのような二人は、天台山国清寺(こくせいじ)にいた、寒山(かんざん)と拾得(じっとく)という有名な禅僧です。左側が寒山。彼は正式な僧侶ではなく雑用係でした。天台山の岩穴に住み大声でわめくなど奇行が目立つため、国清寺の他の禅僧からは疎まれていました。しかし、発言はまともだったとそうで、そんな寒山を気に入って彼に残飯などを分け与えていたのが右側に描かれた拾得です。二人の奇人ぶりが、寒山の誇張された丸顔、拾得の変な首の付き方、粗い衣紋線などで強調されているのがわかります。見分け方は、二人の持ち物。寒山の「巻物」、拾得の「ほうき」がチェックポイントです。

ところで、禅僧って変な顔で描かれる作品が多いと思いませんか?筆者も「なぜ禅画では変顔や渋い面構えの人物像が多いのだろう」とずっと不思議だったのですが、本展で疑問が晴れました。ひとことでいうと、そのように描くのが昔からの伝統だからなのですね。

こちらを見てください。

重要文化財 羅漢図 1幅 絹本墨画 中国・南宋~元時代 13−14世紀 根津美術館蔵

本作は、日本で「十六羅漢」「五百羅漢」など群像表現として紹介されることが多い「羅漢」を描いた作品です。唐時代、玄奘(三蔵法師)が中国で「法住記」を訳したことで羅漢信仰が深まり、日本でも平安時代以降多くの「羅漢像」が描かれました。

重要文化財 羅漢図 1幅 絹本墨画 中国・南宋~元時代 13−14世紀 部分図 根津美術館蔵

実は変顔をした羅漢のルーツは、中国晩唐~五代にかけて活躍した詩画僧・禅月大師が紀元なのです。彼は水墨画を得意とし、ある日夢で見た 龐眉大目(ほうびたいもく)・胡貌梵相(こぼうぼんそう)と呼ばれる変顔の羅漢を描きました。それが受けて、禅月スタイルの羅漢像が大流行。これが脈々と中国~日本で受け継がれ、羅漢図といえば怪異な風貌、大胆な衣紋線で描かれる「禅月様羅漢」が定着したのだそうです。

最難関!中国の詩人・文人を攻略する!

水墨画などの古美術で好んで描かれたのは、中国の僧侶や神仙だけではありません。李白(りはく)、杜甫(とほ)、白居易(はくきょい)、林和靖(りんなせい)など中国の古代~中世で活躍した詩人や、周茂叔(しゅうもしゅく)、蘇東坡(そとうば)、潘閬(はんろう)といった世俗から超越した潔白な文士や書画の達人を讃えた作品もまた、中世以降に多数描かれました。

ここが実は水墨画の最も難しいところかもしれません。

なぜなら、李白や杜甫はともかく、中国の文人たちについては学校で習うことも少ないため、親近感が湧きづらいからです。正直どの作品をみても絵の中にぽつんとおじさん(またはお爺さん)が描かれているだけにしか見えませんよね。

しかし、一旦覚えてしまえば2度目からはもう少し「あぁ、菊が描かれているから、この老人は陶淵明か。ずいぶん老けて描かれているな。」など、親しみを持って絵に接することができるようになるはず。

そして、こういった詩人・文人を描いた作品にも、人物を特定するためのキーアイテムが一緒に描かれているなど、以外にもわかりやすく読み解くヒントが用意されているものなのです。

たとえば、こちらの作品を読み解くのはかなり難しいかもしれません。

重要美術品 周茂叔愛蓮図 伝 小栗宗湛筆 1幅 紙本墨画淡彩 日本・室町時代 15−16世紀 根津美術館蔵

一見、険しい山と大きな木が描かれたなんでもない山水画に見えますよね。

でも、よーく目を凝らしてみていくと、画面下方に二人の人物が描かれていることに気づくでしょう。そしてこの中のひとりが、中国の偉大な文人、北宋時代の大儒家・周茂叔(しゅうもしゅく)なのです。周茂叔は、下級官吏で栄達にはまったく興味を示さず、世俗から超越した清廉な文士。後世の儒学者や文人が憧れるレジェンド的な存在なのです。

えっ、なんでこれだけで周茂叔とわかるかって?

それには、画面に描かれた人物の近くの光景を見てほしいんです。

重要美術品 周茂叔愛蓮図 伝 小栗宗湛筆 1幅 紙本墨画淡彩 日本・室町時代 15−16世紀 部分図 根津美術館蔵

二人の人物のまわりに、楕円形の粒みたいな塊がいくつもみえますよね。これは、水面に浮いている「蓮」なのですね。これが決め手になって、周茂叔と特定できるのです。なぜなら、周茂叔は生前、蓮の花を好んだという有名なエピソードがあるからです。

要するに、読み解き方を知っているかどうか、それだけの話なんです。

だからこそ、この展覧会では学びに徹して、自分の知識の「穴」を徹底的に塞いでおくことをおすすめしたいのです。

水墨画に描かれた動植物には隠された意味がある?!

水墨画の世界では「動植物」も頻繁に画面に描かれました。人物画は、「それが誰なのか」特定する作業に骨が折れますが、動植物についてはどうでしょうか?

実は、古美術に出てくる動植物には隠された「暗喩」が存在するケースが多いのです。これらを読み取ることができればかなりの上級者といえるでしょう。第4章では、水墨画などに描かれた「動植物」が指し示している本当の意味を見ていきます。

たとえば、こちらの作品。

パッと見たら、なすとごぼうが描かれたごく普通の静物画にしか見えませんよね?しかし、この絵で描かれた2つの野菜には隠された「意味」があるのです。

蔬菜図 啓孫筆 1幅 紙本墨画 日本・室町時代 16世紀 根津美術館蔵

キャプションを見ると、このように書いてあります。

なす・・・一つの枝に多数の実をつける様から多産の象徴。
ごぼう・・・生命力の強さを表す。転じて子孫繁栄、豊穣の象徴。

そのため、この2つが一緒に描かれると、おめでたい画題、いわゆる「吉祥画題」(きっしょうがだい)となるのです。

また、こちらの「竹」を描いた絵はどうでしょうか?

竹は誰でも簡単に描けてそれらしく見えますよね。筆者も、ちょっと腕の落ちる(失礼!)画家が本職ではない文人たちが、近くに生えていた植物を手慰みに描くことが多かったのかなと思っていました。

墨竹図 桑山玉洲筆 1幅 絖本墨画 日本・江戸時代 18世紀 根津美術館蔵

しかし、キャプションを読むと、必ずしもそういうわけでもないのだとわかります。

「竹」は、冬でも緑色を保ち真っ直ぐに起立する姿から「不屈」を意味しているのです。なるほど!確かに冬でも竹は青々としていますよね。「松竹梅」とセットで描かれることも多いし、極めて前向きな画題なのですね。

他にも、「梅」は厳冬下で最初に花を咲かせるその強さから、世俗を脱した高潔な隠者に例えられたり、山中に生え、人知れず高貴な芳香がする「蘭」は、禅僧の「理想」を体現する象徴として描かれるということなども第4章で学べます。

茶色く変色した見づらい絵画の攻略法は?

ところで、江戸初期以前の古い絵画作品ってなんだか少し茶色く焼けて見づらいことって多くないですか?鎌倉・室町時代に制作された仏画などは状態も悪く、真っ黒に画面が焼けてしまっているものも多いですよね。

こういう作品ってなんとなく後回しにしたり、見たふりをして通り過ぎたりしがちです。しかし、本展を監修した学芸員さんは、こうした「茶色く変色した作品こそ、是非じっくり見てください」と強調します。

なぜなら、茶色く焼けて変色しているということ自体が、価値ある作品であるということに他ならないからです。真っ黒に焼けてしまっても、歴史的・美術的な価値が高いからこそ捨てられずに守り継がれてきたのだと考えてみてください。

どうでしょうか?そう考えると、少し踏みとどまってしっかり見ようかな?という気持ちになってきませんか?

たとえば、以下の作品を見てみましょう。

画面は真っ茶色で、何が描かれているのか判別するのも大変な感じです。正直、「面倒だな・・・」と思ってしまうかもしれません。しかしそこはぐぐっと堪えて、作品に集中してみましょう。

林和靖観梅図 伝 馬遠筆 1幅 絹本墨画淡彩 中国・元時代 14世紀 根津美術館蔵

実は本作は約700年前の元時代に中国で制作された非常に貴重な作品です。作者を見ると「伝・馬遠」と書かれています。馬遠といえば、中国・南宋画院で活躍した著名な画家の一人。画面に描かれているのは、「鶴」と「梅」を愛でることを楽しみに、20年以上杭州の山奥で隠棲生活を送った伝説の文人・林和靖(りんなせい)です。(音声ガイドによると実際には馬遠の作品かどうかは断定できないとのことですが、14世紀・元時代に描かれた貴重な中国絵画であることには変わりません)

学芸員さんのアドバイスでは、こういった茶色く変色して見にくくなった絵は、「とにかく絵の力を信じて、目を凝らして何か見えてくるまで、作品の前で粘ってみてください」とのこと。すると、画題として描かれたモチーフが見えてきたり、感性に訴えかける何かが感じられるはず。

たとえば本作の場合、画題として描かれた林和靖を表すモチーフは「梅」「鶴」なので、まずこの2つを探してみます。すると「梅」は簡単に見えてきますよね。ではもう一つの「鶴」は・・・?というと、これがなかなか見えてきません。でも、よーく見てみると、画面中央下部に、水墨画の中で1点だけ「朱色」で塗られた箇所が目に入ってきます。ここを起点にして、更に我慢してじっと見ていくと・・・

林和靖観梅図 伝 馬遠筆 1幅 絹本墨画淡彩 中国・元時代 14世紀 部分図 根津美術館蔵

いました!!

そうです。岩場の陰から、半身だけ姿を見せている鶴の姿が描きこまれていることが見えてくるのです。筆者は、これが見えてくるまで5分くらいかかりました・・・。しかし鶴が見えた時、まさに「絵を紐解いた」充実感に満たされました(笑)

このように、茶色く変色した絵は非常に見づらいのは間違いありません。でも、集中して鑑賞した後はその分「名作をまた一つ理解できた」という喜びも大きいはず!是非、茶色い絵の前でこそ粘って鑑賞してみてください!

名画の画題を知ると工芸品も攻略できる!

こうした画題についての知識は、なにも絵画作品だけに限ったものではありません。嬉しいことに、こうした絵画の画題を一つずつマスターしていくことで、陶磁器や茶道具、漆芸といった工芸分野の作品を鑑賞するときもがっつり使えてしまうのです。

たとえば下記の作品。濃紺の染付が美しい、中国・景徳鎮窯で制作された大きな壺ですが、たくさんの文人らしき奥ゆかしい人々が描かれていますよね。

青花琴棋書画図壺 景徳鎮窯 1口 施釉磁器 中国・明時代 16世紀 根津美術館蔵

周囲を360度ぐるりと回りながら観てみると、それぞれ「囲碁」「書」「絵」「楽器」を楽しんでいる文人たちが描かれていることがわかります。

青花琴棋書画図壺 景徳鎮窯 1口 施釉磁器 中国・明時代 16世紀 部分図 根津美術館蔵

そうすると、この作品は中国で文人が嗜むべきとされた4つの芸を描いた「琴棋書画図」がモチーフになっているのだな、ということがわかります。この他にも、本展では中国の名勝「瀟湘八景図」が描かれた茶釜や、中国六朝時代の高僧惠遠らのエピソード「虎渓三笑図」が描かれた硯箱なども展示されていますので、あわせて楽しんでみてくださいね。

展示室6「雨中の茶の湯」の茶道具で腕試し!

呉州青絵赤壁図鉢 漳州窯系 1口 施釉磁器 中国・明時代 17世紀 根津美術館蔵

さて、いよいよ1Fの展示室1、展示室2で全37点を見終えたら、復習をかねて2Fの茶道具が展示された展示室6「雨中の茶の湯」で鑑賞眼がどれだけついたか腕試しをしてみましょう。

展示室6には全部で24点の「雨」をテーマとした茶道具の名品が展示されていますが、そのうちのいくつかは、「はじめての古美術鑑賞」で解説されているモチーフが使われています。学んだばかりの知識を使って、茶道具に描かれた画題を読み解く楽しさを味わってみてくださいね!

重要美術品 瀟湘夜雨図 岳翁蔵丘筆 1幅 紙本墨画 日本・室町時代 15−16世紀  根津美術館蔵 小林中氏寄贈

とにかくキャプションをしっかりチェック!

本展のもう一つの主役は1点1点の作品につけられた「キャプションパネル」です。こちらをしっかり読み込むことで、作品を100%楽しむことができるようになります!実際、展覧会場ではノートを持参して熱心にメモを取るお客さんがいつもよりかなり目立ちました。

ちなみに、展覧会ではキャプション以外にも、全部で35トラック用意された超大盛りの音声ガイドや、ミュじーじアムショップ内の関連書籍コーナーもおすすめ。音声ガイドを併用し、専門書を読み込むことで、格段に学びが深まるはず!筆者も、今頑張って「水墨画に遊ぶ」を読み進めています!(写真左下)

初心者はしっかり学べて、中上級者も復習にぴったりの展覧会!

いかがでしたでしょうか?難しく思える仏画や水墨画の世界も、そこに何が描かれているのかわかれば急に身近な存在になってくるのではないでしょうか?画題として覚えておいて損のない作品ばかりが厳選され、楽しみながら学べる展覧会となった今年度の「はじめての古美術鑑賞」。

初心者の方には特にオススメですし、中級者以上のベテランのファンの方でも必ず「あっ、これは知らなかった」という意外な学びが待っている展覧会です。ぜひじっくりと楽しんでみてくださいね。

展覧会情報

展覧会名 「はじめての古美術鑑賞-絵画のテーマ-」
会場 根津美術館(東京都港区南青山6-5-1)
会期 2019年5月25日(土)~7月7日(日)
公式サイト

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。