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2019.09.13

雪舟とは何者ゾ?水墨画のスーパースター、その人生と代表作を徹底解説【アート】

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日本美術史上、水墨画で最も有名な絵師といえば、雪舟等楊(せっしゅうとうよう)ではないでしょうか。教科書にも載っているので、日本人ならその名前を一度は聞いたことがありますよね。そんな雪舟ですが、その人生は意外と知られていません。いかにして水墨画を極めていったのか。出生から晩年まで、謎多き放浪人生をひもといていきます。

水墨画の巨匠・雪舟の人生とは?

幼いころから画才を発揮

雪舟は、応永27(1420)年に備中国(現岡山県総社市)に生まれました。10歳のころには、現在の岡山県にある「宝福寺」に預けられ、禅僧としての道を歩み始めたと伝わります。この宝福寺には、小僧時代にお仕置きで柱に縛り付けられた雪舟が、涙を足で受けてネズミを描いたという伝説が。このころから豊かな画才を発揮していたことがわかります。

山口への移転が人生を変える

その後、絵の才能を見出され京都に上り、相国寺で修行に励みます。しかし、当時流行っていた繊細な画風になじめず、34歳のころに山口へ移転。この選択が、雪舟の人生に大きな影響を与えました。

山口では、中国地方の有力守護大名である大内氏のもとで、絵に専念します。このころまで、「雪舟等楊」ではなく「拙宗等揚」と名のっていたといわれる雪舟ですが、山口で楚石梵琦(そせきぼんき)という元時代の中国の高僧が書いた「雪舟」という墨跡を手に入れ、これをきっかけに「拙宗」から「雪舟」へと改号しました。中国との交流が盛んだった山口だからこその出合い。京都から移転していなければ、「雪舟」という名前自体が生まれていなかったかもしれません。

水墨画の本場、中国へ渡る

そんな山口での修行も14年が過ぎた48歳のころ。画僧として頭角を現し始めた雪舟に対し大内氏は、遣明船の一員として中国へ渡ることを命じます。かの地での仕事は記録画の作成でしたが、3年に渡った旅のなかで、当時の画家なら誰もが憧れた、中国の名勝を目にしました。ダイナミックな筆勢の山水画は、まさに自分の得意としていたスタイル。このとき雪舟は、日本画の型にはまらない自らの画風を追求しようと決心しました。

日本の水墨画を革新、最晩年まで筆を握る

大きな自信を得て帰国した雪舟。大胆な山水画やリアルな花鳥画をのびのびと描くようになります。繊細で小さくまとまっていた日本の水墨画を革新し、ついに「雪舟等楊」としての画境にたどり着いたのです。

国宝に指定されている6点は、どれも60代半ばから晩年に描いた作品。最晩年に至ってもなお、その創作意欲は衰えることはありませんでした。遅咲きというよりは、老いてますます盛んな画家が、「雪舟等楊」という人物だったのです。

尾形光琳も!? 雪舟はカリスマ絵師たちの憧れの的だった

雪舟が確立した日本独自の新しい水墨画は、日本美術のひとつの金字塔であり、絵を志した者がみな水墨画の最高峰として仰ぐほど多大な影響を与えました。

尾形光琳画・尾形乾山作「銹絵山水文四方火入」1口 江戸時代中期(18世紀)縦11.5×横11.6×高10.9㎝ 大和文華館蔵

たとえば尾形光琳は、雪舟の絵の模作に熱心だったようで、弟乾山がつくった器に絵付けをした「銹絵山水文四方火入」は、雪舟の筆致にならったものに違いありません。また、室町時代にさかのぼる狩野派の成立期には雪舟の影響が強く、江戸時代の狩野探幽は水墨画の余白を受け継いだとされ、多くの名絵師が私淑(ししゅく)しているのです。その一方、「松林図屛風」で有名な長谷川等伯はみずから雪舟五代を名乗っていますが、これは画風の継承というより、その知名度を頼ったものだったと考えられています。

雪舟の名作2選

慧可断臂図(えかだんぴず)

雪舟等楊「慧可断臂図」国宝 1幅 紙本墨画淡彩 室町時代(1496年)199.9×113.6㎝ 齊年寺蔵

仏教の重要なシーンを活写した「慧可断臂図」。そのテーマは、「達磨安心」という禅の有名な場面です。鋭い岩の洞窟に座る白衣の男は中国へ禅を伝えた達磨で、手前の冴えない顔をした男は後に二祖となる慧可。達磨に弟子入りを求めるものの相手にされない慧可は、自分の決意を表すために左腕を切り落としてきて、入門を許されます。そして、慧可が達磨に「私の心を安らかにしてください」と言うと、「ならばお前の心をもってこい」と言われ、「探しても見つかりません」と答えると、達磨は「もう安らかになっている」。この禅問答は、すべてが生まれながらにして人の心に宿っているという禅の基本「心不可得」を表現。それを、かつてなかった雰囲気で、想像力をかき立てるように描いているところが、雪舟のすごさです。

秋冬山水図(しゅうとうさんすいず)

雪舟等楊「秋冬山水図」国宝 2幅 紙本墨画 室町時代(15世紀末〜16世紀初)各47.7×30.2㎝ 東京国立博物館蔵

真っ直ぐに天に伸びる線が印象的な「秋冬山水図」。この作品に雪舟が用いたのは、写生によって自分の中に蓄えていた自然の風景と、想像上の風景とを混在させ、独自の世界をつくり上げるという手法。特にこの冬の景は、秋とは打って変わって、不思議な空間が広がっています。

▼「秋冬山水図」について、さらに詳しい解説はこちらから
真ん中の線はいったい何だ!?雪舟の傑作、国宝「秋冬山水図」の謎に迫る

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