ごはんと漬物。切っても切り離せない「黄金コンビ」ですね。最近は発酵食ブームも重なって、じっくりと熟成させてつくられる漬物が、じわじわと注目を集めています。
そのなかでも、長さ1mにも及ぶ大根と酒粕を使って作られる「守口漬(もりぐちづけ)」をご存知でしょうか。愛知県の郷土食としても有名で、豊臣秀吉がその味を称賛していたとも言われるほど、人々に長く愛されてきた漬物なんです。
今回は、漬物の発酵パワーと守口漬の魅力についてお伝えしたいと思います!
地域らしさが楽しめる「漬物ワールド」
一般的に漬物とは、野菜などを塩・米ぬか・酒粕・酢・味噌・醤油などの漬け床に入れて発酵・熟成させたもののこと。
食材や漬け床の種類、熟成期間、気候、その地域の習慣などによっても味が変化し、全国に600種類以上の漬物があると言われています。代表的なものとして、以下のようなものがあります。
・塩漬(千枚漬、しば漬)
・ぬか漬(たくあん)
・粕漬(奈良漬、守口漬)
・酢漬(ピクルス、らっきょう漬、はりはり漬)
・味噌漬
・醤油漬(福神漬、野沢菜漬)
・麹漬(べったら漬、三五八漬)
京都の伝統野菜「聖護院かぶ」を使った「千枚漬」などのように、漬物には地域ならではの食材を使ったものも多く、それぞれの地域らしさを楽しむことができます。
また、自然界の乳酸菌による乳酸発酵によりつくられた昔ながらの漬物は、美味しいだけでなく消化を助ける働きもあり、発酵ブームのなか注目を集めています。冒頭で「ごはんと漬物は黄金コンビ」と書きましたが、口にも身体にも美味しい組み合わせということですね!
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守口漬とは?
愛知県の伝統野菜「守口大根」を酒粕などの漬け床で熟成させたものが「守口漬」。1000年以上の歴史を持つと言われる奈良漬との関わりも深く、一般的には守口大根を漬けたものが「守口漬」と呼ばれています。
つやつやとした琥珀色をしていて、旨味と甘味のバランスが絶妙!酒の肴にもお茶請けにも好まれ、愛知県の郷土料理「ひつまぶし」の香の物としてもよく提供されています。
守口大根とは、ギネスブックにも認定されたことのある長さ1m以上にもなる細長い大根とのこと。現在はなんとその約7割が、木曽川沿いにある愛知県丹羽郡扶桑町で生産されています。
そこで向かった先は、扶桑町にて守口大根の栽培から守口漬づくりを一貫して行っている、株式会社扶桑守口食品さん。同じ敷地内には守口漬を販売する「漬処 壽俵屋(じゅひょうや)」もあります。今回お話を伺ったのは、代表取締役の曾我公彦さん。
守口漬を一言で言えば「やまとなでしこ」のようなもの。きめ細やかだけど、一本筋が通っている。全国的にはまだまだ知られていませんが、守口漬には「食文化」というよりも「日本文化」が詰まっているんです。
この言葉を聞いて、冒頭から守口漬の世界にぐいぐいと引き込まれていきました。
守口漬の漬け床に使われるのは、酒粕・みりん粕・砂糖のみ。合成添加物や化学調味料などは一切使わずに、昔ながらの製法を守り続けています。ではその作り方を、詳しくみていきましょう!
守口漬の作り方
じんわりとした守口漬の美味しさの秘密は、手間暇かけた丁寧な手作業によるもの。取材に来てみて正直驚いたのですが、守口大根の種まきから始まり、約3年もの歳月をかけて作られます。
9月頃に種を蒔いた守口大根は約90日後に収穫されます。その日のうちに塩漬けします。2回の塩漬けした後、酒粕・みりん粕・砂糖を独自の配合でブレンドした粕床で漬け込みます。みりん粕の上品な甘さが、守口漬の味の決め手になっているのだとか。
この粕床での漬け込みは、漬け床を取り換えながら3回行います。この工程により、塩気が徐々に抜けて甘味や旨味が染み込み、味が変化していきます。つまり、漬け込む回数は合計5回!「どこか1回でも省略すると、味のバランスは崩れてしまうし、保存も効かなくなってしまう」と曾我さん。
また、最初は塩分が約24%もあり「しょっぱくて食べられない」ものが、最終的には約4%にまで下がるのだとか。塩分4%でありながら、守口漬は保存性にも大変優れています。曾我さんは「これこそ、先人の発酵食品の知恵の結晶ですよ」と語ります。
巷では酒粕ブームが続いていますが、酒粕やみりん粕をたっぷりと使った守口漬は、美味しいだけでなく美と健康にも良いとじわじわと注目を集めています。
地域が育んだ、細くて長~い守口大根
守口漬に欠かせないものと言えば、何といっても守口大根。繰り返しになりますが、長さ1m以上にもなる細長い品種の大根です。
先端部から根っこの部分までほぼ同じ太さであることも大きな特徴で、木曽川流域の肥沃な大地が育てた野菜です。締まった肉質と歯切れの良い食感が漬物にはぴったりなのだとか。
「守口大根の収穫体験、やってみますか?」という曾我さんの声掛けに応じて、いざ守口大根の畑へ!
「上下に揺らしながら引き上げていくと、上手に抜けますよ」と教えてもらい、やってみたのですがこれが想像以上に難しい!
寒空の下、うっすらと汗をかきながらの収穫体験でした(笑)。
扶桑守口食品さんでは、一般の方向けに1月末~2月頃まで守口大根の収穫体験を行っており、親子連れの方を中心に好評なのだそう。気になる方は、公式サイト(https://www.fusomoriguchi.co.jp/kengaku/)をぜひチェックしてみてくださいね。
発酵パワーを丸ごといただきます
守口漬などの漬物だけでなく、粕床の発酵パワーに注目した商品も提供しています。左から「魔法の粕床」と「つけるなら食べるなら」。
「魔法の粕床」は、丁寧に仕込まれた酒粕と最高級のみりん粕をベースに砂糖・塩を加えたもの。ここに魚や肉・野菜などを数日間漬け込むことで、素材本来の旨味がゆっくりと引き出され、味わい深い一品になります。
実際に私も使ってみましたが、酒粕とみりん粕を使った漬け床ならではのやさしい甘さのある美味しさ。漬けて待つだけなので、とにかく簡単!こういう一品が冷蔵庫のなかにあると思うと、とても心強いですよね。
もうひとつの「つけるなら食べるなら」は、酒粕とみりん粕などのベースに、細かく刻んだ守口大根や瓜などが入ったもの。ごはんや豆腐、温野菜などにディップ感覚で付けて食べるのがおすすめです。これからの時期は、さっと茹でた菜の花やアスパラなど添えてもいいですね。
「守口漬をもっと身近に感じてもらいたい」という想いから、守口漬を使ったパウンドケーキやソフトクリームなどの、新しい商品開発にも力を注いでいます。守口漬の入ったパウンドケーキは、ほのかな塩味が甘さを引き立てていて、紅茶などのお茶請けにもぴったり!
いずれも発酵パワーを気軽に楽しめる商品として、美と健康に意識の高い方を中心に人気を集めているそうです。
「日本人に生まれて良かった」と思う瞬間のために
扶桑守口食品さんでは、扶桑町に4つある小学校での食育活動にも力を注いでいます。小学校3年生の時に守口大根の種を蒔き、塩漬け2回、粕漬け3回を行って、5年生の時に完成。通常の守口漬と同じプロセスを体験するというものです。
足掛け約3年もの歳月を経て守口漬が出来上がった時には、感激もひとしお!
完成した守口漬は子どもたちがそれぞれの家庭に持ち帰ります。「ここが面白かった」「大変だった」といったエピソードを話しながら、家族みんなで大切に味わっている様子が目に浮かびます。
ふと、曾我さんの「守口漬には食文化というよりも日本文化が詰まっている」という言葉を思い出しました。
そこには「先人の発酵の知恵が詰まっている」という意味だけでなく、信念を持ってひとつのものを創り上げていくことや、身近な人たちで食材を大切に分かち合うといった、一言では語れない奥深い意味も含まれているように感じました。
「日本人が日本人に生まれて良かった」と思う瞬間のために、守口漬を日々作っています
こう熱く語る、曽我さん。
私も今回取材に訪れたことがきっかけで、古くて新しい守口漬の魅力にどっぷりと浸ることができました。ぜひ皆さまも、守口漬の奥深い味わいを堪能してみてくださいね。
◆株式会社扶桑守口食品
住所:愛知県丹羽郡扶桑町大字山那字屋敷地757
電話:0587-93-8670
公式サイト:https://www.fusomoriguchi.co.jp/
(オンラインショップ:https://www.fusomoriguchi.co.jp/index.html)
*守口漬の漬け込み仕上げ体験や工房見学などを随時開催しています。
詳しくは公式サイトをご覧ください。