Culture
2020.04.06

浦島太郎の子どもが人面魚遊女に!『箱入娘面屋人魚』のストーリーが斜め上すぎる

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助けた亀に連れられて竜宮城に行った浦島太郎。誰もが知っている日本昔話のスピンオフ作品が、江戸時代に描かれていました。

その内容が、ちょっと斜め上すぎてとても付いていけない内容なのです。日本人の奇抜で豊かな妄想力は、江戸時代から健在だったよう。エキセントリックな物語『箱入娘面屋人魚』を一挙にご紹介します!

『箱入娘面屋人魚』ストーリー紹介

まずは難しいことは抜きにして、箱入娘面屋人魚の内容を見ていきましょう。
※訳はごく簡潔に意訳しています。


人間界の中州新地と呼ばれる繁華街が水没し、竜宮城の支配下に置かれるようになった。


そこに住む色男、浦島太郎。竜王のご令嬢乙姫様の愛人だが、美人は三日で飽きるという言葉通りに乙姫様に飽きてしまい、鯉の遊女と浮気をする。


鯉と浦島太郎の間には子どもが産まれる。人間と魚の子どもなので、頭は人間、体は魚である。「自分が乙姫の愛人でなければこの子を見世物にでもしたものの、そういうわけにもいかないんだゴメン」とのことで海に捨ててしまった。


そんなかわいそうな人魚を拾ったのが、平次というモテない漁師だ。成長した女ざかりの人魚は平次に「妻にしてください。抱いて寝てください」と口説きかける。平次はその姿に驚いたものの、顔は美しいのでまんざらでもなく、妻にすることにした。


この話が間違った内容で広まり、平次の書いた札を貼ると家に疫病神が入らないという噂がたち、多くの人がつめかけた。平次は困ったが人魚を妻にしたとも言い出せず、否定できない。
親に捨てられた人魚をかわいそうに思い、平次は人魚を妻として大切にする。妻を金魚と間違って金魚のエサを与えてしまったが、鯉なのでそんなものは食べない。鯉は食通なのだ。


しかし平次の家は大変な貧乏である。人魚はお金が降ってくるおまじないをしようとするが、手がないのでうまくできない。するとどこからか手が出てきておまじないの手伝いをし、お金も本当に落ちてきた。


このおまじないの手伝いをしたのは、女郎屋の主人・伝三であった。人魚は平次の不在中に遊女としての契約を結び、口で筆を咥えて書置きを残していった。


伝三は人魚を「魚人(うおんど)」と名づけ着飾らせ、足は股引きで誤魔化すこととした。


魚人は黒子の手助けで花魁道中を行った。


魚人は初めての客をとるが、生臭さに耐えきれず客が逃げ出す。黒子が引き留めるが、当の魚人は疲れて寝てしまった。
伝三の思いつきは失敗に終わり、魚人を平次に返すこととなった。自分が勝手に始めたことであるが、衣装代など初期費用がかさんだことを恨めしく平次に語る。


人魚を持て余す平次にアドバイスをしたのが、近所の学者。彼の言うことには、「人魚を舐めると寿命が延びる」とのこと。さっそく平次は「人魚なめ処」をオープンした。ひとなめ約10万円と高額だが、大行列の大繁盛。平次は太鼓を叩きながら「リズムにあわせておなめなさい♪」などと歌って盛り上げている。「どうせならもっと下の方をなめたい」などと言う客もいる。


これを見た隣家の主人が、自分の妻に鯉のぼりを着せて儲けることを考えた。しかし客は来ず、子どもの前で夫婦喧嘩が始まった。


平次は人魚のお陰で金持ちになった。それを羨んだ男たちが人魚を口説きに訪れるが、人魚は貞女ならぬ貞魚なので、そんな誘いには乗らない。
平次は暇さえあれば人魚をなめて若返っていたので、ついに子どもになってしまった。「おっぱいが飲みたいよう」などと言い出す始末である。


困った夫婦の前に現れたのが、人魚の両親である浦島太郎と鯉である。玉手箱によって平次はほどよい若さに戻り、なぜか顔までイケメンになった。さらに人魚は魚の部分が剥けて人間になり、珍しい人魚の抜け殻を売って大儲け。二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。


めでたしめでたし。

こんな物語を書いたのは一体誰!?

こんな奇抜な物語を思いついたのは、一体誰なのでしょうか。

作者は山東京伝(さんとう きょうでん)という、江戸時代後期に活躍した戯作者・浮世絵師です。『箱入娘面屋人魚』をご覧になってわかるとおり、ちょっとアレな作品を世に送り出していたため、寛政の改革で手鎖の刑(手錠をはめて一定期間過ごす刑罰)を受けました。

そして『箱入娘面屋人魚』の版元が、江戸の敏腕プロデュサー、蔦屋重三郎(つたや じゅうざぶろう)です。

『箱入娘面屋人魚』は、随所に当時のパロディが盛り込まれており、それを知らない現代の私たちでもストーリーを楽しめる名作(迷作?)です。このような江戸で流行した大人向けの読み物は「黄表紙」と呼ばれました。まだまだ面白い黄表紙がたくさんあるので、別の作品の紹介も楽しみにお待ちください。

※使用した画像は全て国立国会図書館デジタルコレクション「箱入娘面屋人魚 3巻」より引用しました。
参考書籍:『箱入娘面屋人魚 3巻』京傳 作 『日本大百科全書(ニッポニカ)』

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書いた人

大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。