Gourmet
2020.04.10

お茶の味が温度で変わる?50℃・70℃・90℃で違いを比較!おいしい淹れ方も紹介

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ゆっくりとした時間の中で茶葉から抽出した煎茶の味は格別。同じ茶葉でも、淹れ方によって味のバランスは大きく変化します。そこがお茶の面白いところであり奥深いところでもあるのですが、難しいところでもあります。今回は、日本茶アドバイザー専任講師としてご活躍の多田雅典さんとお湯の温度による味わいの違いを考えました。

美味しいお茶ってどんなお茶?

お茶の味は、茶葉の量×湯の量×お湯の温度×抽出時間によって決まります。
そのなかでも重要なカギを握る、“お湯の温度”。

――“上級煎茶や玉露は低温でじっくりと、ほうじ茶は高温で香りを出す”といわれます。しかし、その通りに淹れてみたものの、「どうもしっくりこない、なんだか物足りない」と感じることも。“お湯の温度”って悩ましいです。どう考えたらよいのでしょうか。

多田:お茶の味は、おもにカテキン・アミノ酸・カフェインの3つの成分によってきまります。それぞれ温度と抽出時間によって溶け出す量が違います。カテキンは高い温度で時間をかけないと出にくい成分です。一方、アミノ酸は温度にあまり関係なく、非常に抽出しやすい成分です。カフェインは高い温度で抽出しやすい成分です。

多田製茶株式会社提供

〈ポイント〉
●カテキン 苦渋味成分。80℃以上の湯温で溶出しやすい。
●アミノ酸 旨味・甘味成分。水に溶けやすい。
●カフェイン 苦味成分。湯温が高いと容易に溶出する。

多田:茶葉の量・お湯の量・抽出時間を固定し、お湯の温度だけを変化させた場合、カテキン・アミノ酸・カフェインは以下の図のように溶け出します。

多田製茶株式会社提供

50℃の場合、3つの成分がほとんど出ていない状態です。苦味や渋味はなく、ほのかな旨味を感じる味の薄いお茶です。逆に、90℃で120秒置けば、3つの成分が十分に抽出されるため味が濃くなります。しかし、カフェインとカテキンがたくさん出るので、相対的に渋味や苦味を強く感じます。そこで、その中間である“70℃で60秒”がバランスのとれたお茶だといわれています。この特徴を知ってご自分の好みの味が引き出せる温度を見つければいいのです。

――温度が低ければ、味が薄くなり、温度が高ければ、味が濃くなる。この法則を覚えて、それ以外の要素(茶葉の量・お湯の量・抽出時間)を調整していけばよいのですね!

50℃・70℃・90℃の3つの温度で比較してみます

茶葉10g/お湯の量200cc/お湯の温度70℃/抽出時間60秒

普通蒸し煎茶をつかって淹れてみます

多田:実際に普通蒸し煎茶をつかって、50℃・70℃・90℃の3つの温度で比較してみましょう。まず、一番ベーシックな70℃から。

――文句なしに美味しいです。味も香りもバランスがよいと思います。ただ、わたしの好みとしては少し渋味が強いかもしれません。

茶葉10g/お湯の量200cc/お湯の温度50℃/抽出時間90秒

お湯の温度50℃・70℃・90℃で味の変化を確認します

多田:では、50℃で試してみましょう。低い温度でじっくり淹れれば旨味は強くなるのですが、味が薄いです。どうやったら低い温度で美味しく淹れられると思います?

――えっと、抽出時間を長くすればよいのでしょうか。

多田:そう、低い温度で味を濃くしたければ、抽出時間を長くすればいいですね。低い温度でも短時間で淹れたかったら、茶葉の量を増やせばよいことになります。

茶葉16g/お湯の量200cc/お湯の温度90℃/抽出時間20秒

多田:高い温度で美味しく淹れるならどうしますか?

――さきほどの逆で、時間を短くすればいいのでしょうか。

多田:そうです。ただ、時間を短くすると、圧倒的に成分の溶出量が減って味が薄くなってしまいます。なので、茶葉を増やせば、味を濃くすることができます。

――“高温で淹れるのはNG”といわれています。でも、湯冷ましする手間が惜しくて、高温でお茶を淹れてしまうことってあると思います。やはりダメなのでしょうか?

多田:ダメではないですよ! 抽出時間を15~20秒にすれば、カテキンが少なく、アミノ酸の多い、美味しいお茶が淹れられます。

――高い温度でお茶を淹れるのは、ひとつの正解なのですね!

多田:はい。“美味しい”と感じるお茶は人それぞれです。ご自分の好みの味を探るため、まずは、“70℃で60秒”を試してください。そのとき、もうすこし旨味が欲しいとか、渋みのあるほうがいいとか、熱いお茶が飲みたいと感じたら、次に淹れるときは、自分の好みの味に近づくようにお湯の温度を調整してください。

――なるほど、よくわかりました。

お茶は自由で楽しい。好みの味を探して

これまでは温度計を使って“お湯の温度”を確認しながら、教科書通りにお茶を淹れたりもしてきました。“自分が美味しいと感じるお茶を見つければいい――。”そんな多田さんの提案に、お茶はもっと自由で楽しいものだと気がつきました。

日々、さまざまな情報が溢れています。美味しい物の情報に触れると、無性に食べたくなります。ペットボトル茶はひねるだけで、安定した味のお茶が飲めます。でも、ほんとうに自分はそれを欲していたのかというと大変心もとない気がしてきました。お湯の温度を変化させ、好きな味を探すという超アナログの作業は、手間はかかりますが、自分の舌を試し、自分の嗜好を観察する貴重な体験だと感じました。

仕事でキメたい日には、高温でサッと淹れたお茶で気持ちを引き締める。寝る前に、低温でじっくりと淹れたお茶でリラックスする。
シーンによって飲みたいお茶を自在に操ることができたら、もっとわたしたちの生活は豊かになりそうです。

お話をうかがったのは――多田雅典さん

マーケティング会社を退職して、大阪の老舗製茶問屋・多田製茶に入社。企業のオリジナル日本茶の開発や、調理師専門学校等での日本茶授業など、従来の日本茶の枠を超えた活動を展開中。日本茶インストラクター・リーダー、日本茶アドバイザー専任講師(日本茶鑑定)、大阪茶業青年団主催 第61回・第62回 審査技術競技大会 優勝。

書いた人

岐阜の富有柿畑育ち、大阪在住。夫の赴任先の静岡でお茶熱を発症。お茶の文化や歴史、風俗を発信し、お茶をこよなく愛する皆さんとの交流をはかることを目的に『はてしないお茶物語』を運営。茶園の取材ではいつもハプニングの連続。日本茶インストラクター。