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Gourmet
2020.05.21

八丁味噌、ヨーグルト、納豆も入れちゃえっ!世にも奇妙な大発酵カレーレシピ

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おこもり中は自炊が増える……それは、つまりレシピ難民が急増中ってこと!!!なので、今回は和樂らしい素材を使って簡単カレーレシピのご紹介だぞ!旦那さんはカレーで奥さんのサポートをしてあげてね!男だってカレーくらい作れないとカッコ悪いんだから!

いやー、でも本当に簡単レシピが時代に求められていると思うの。先日「#料理リレー」というものに参加した。発起人は料理家の脇雅世先生だ。

おこもり中のお助けレシピとして「いつもお家にある材料で簡単に作れる一品をリレー形式で紹介します」というもの。たくさんの料理人・料理研究家がバトンをつないだ。

僕もバトンをもらって、スピードカレーを紹介した。誰でも簡単にできる作業時間5分、煮込み時間20分の超簡単「コンビーフのレモンカレー」だ。

で、これがすんごく反響が良くてびっくりしたのよ!あんまりバズるって言葉は好きじゃないけど、これはバズったというやつだった。SNS上で本当に全然知らない人達が僕のレシピのカレーを作ってる。おお、マジか!と驚いていると、webメディアkufuraさんに取り上げてもらって、そこからトントン拍子にYahoo!ニュースにも上がった。

本当にこれだけしか使わない。煮込む時間以外は5分でできる。

いやー、カレーで誰かのお役に立てるのは本懐である。そして、簡単レシピがおこもり生活には求められているなーとビッシビシ肌で感じてしまったのだった。

味噌を使ってカレーを作る

そこで今回は、和樂らしさも忘れずに和の食材を使ってコロナウイルスに抵抗できるような免疫力を上げる簡単カレーレシピをご紹介しようと思うに至ったわっけ!

一番に思いついた食材は「味噌」だ

免疫細胞は腸内にたくさんいるので、そいつらを活性化させるには腸内環境を整える必要がある。

そこで登場するのが、発酵食品日本代表不動のエースである味噌。腸内環境を整え、悪玉菌を減らし、善玉菌を増やし、コルステロールまで下げ、高血圧にも良し!あまりのオールラウンダーっぷりに、甘酒推しのミランダ・カーも舌を巻く。

カレーとの相性も無茶苦茶いい。荻窪に「すぱいす」という大名店がある。おすすめは「日本ほうれん草とカッテージチーズの骨付きチキンカリー」だ。

オーナーシェフ佐藤眞司さんの食材LOVEは凄まじい。素材選びに徹底的な佐藤さんのカレーにも実は味噌が隠し味として使われている。飛騨高山の特別に3年熟成させた力強い味噌が使われているのだ。その味噌のコクとスパイスのハーモニーがたまらない。味噌はカレーの底支えをしてくれる見事な食材なのだ。

しかし、3年熟成の味噌なんてそんな簡単に手に入らないし、一般の家庭で手に入る味噌としては、どんな味噌がカレーに適しているのだろうか?白味噌?赤味噌?合わせ味噌なの?

調査が必要だ。とりあえず味噌のWikipediaを読む。すぐに眠くなった。これはいかんと、食べログで「味噌 カレー」で検索する。味噌ラーメン専門店のWEBサイトに辿り着く。ラーメンが食べたくなる。日清カップラーメン(もちろんカレー味)を食べる。そして、寝た。寝ちまった。オフィスの机の上でつっぷした状態から起き上がる。ひさびさにやっちまった。

で、ふぁ〜あ、と、あくびしながらオフィスの冷蔵庫を開けたら八丁味噌を大発見!こんなのウチにあったのー!?買った覚えないー!でも、これだー!これでしょう!シンクロニシティ!!よし!もう作っちゃうぞ!と、八丁味噌と、たまたま冷蔵庫に入ってた食材でカレー作ったら想定外の美味しさに!出会いとかアイディアって偶然生まれるもんだよね!

八丁味噌のカレーレシピ

■大発酵カレー(4人前)
【材料】
植物性油(太白胡麻油推奨!)・・・・大さじ3
唐辛子・・・・1本
玉ねぎ・・・・1個
トマト缶・・・・1/2本
ヨーグルト・・・・100g
八丁味噌・・・・大さじ1
納豆(※納豆のタレを捨てないこと!)・・・・1パック
みりん・・・・大さじ1
豚こま切れ・・・・200g (豚汁に使うみたいなイメージ)
☆ カレー粉(S&B 赤缶)小さじ4
☆ 水・・・・300ml
☆ にんにくチューブ・・・・小さじ2
☆ 生姜チューブ・・・・小さじ2

【作り方】
1)玉ねぎはくし切りで、8等分に切る(大きい玉ねぎなら12等分に!適当でOK!)

2)鍋に油をひき、唐辛子を入れて中火にして唐辛子のまわりがふつふつするまで待つ。辛いのが苦手な人は種をとりましょう。

3)2の鍋を強火にして玉ねぎ、塩を入れて混ぜるように5分炒める。

4)強火のまま、トマト、ヨーグルト、八丁味噌を追加して、しっかり混ぜ合わせる。このとき、八丁味噌が玉になっちゃわないように注意。伸ばしましょう。

5)☆の調味料と納豆(タレも)、豚肉を入れて、よく混ぜて蓋をせずに、中火で20分煮込む。

6)みりんをカレーに入れて混ぜる。

7)完成。

さらに美味しくするには、豚肉を生のまま入れず、別のフライパンで軽く焦げ目をつけて追加するとメイラード反応(程よい焦げで香りと旨味が増すこと)が出て美味しいです。みりんは、ちょっと値段が高いのを使うとグッと円味(まろみ)と上質な甘みが出て良くなるよー!ってよく考えたら、みりんも発酵だー!やったね!

このカレー。思いつきのわりには、かなり美味しくできてしまった。ヨーグルトと、納豆があった偶然に感謝したい。ウルトラ健康的。しかし、八丁味噌は本当に味噌カレーの味噌として最適解だったのだろうか?ていうか、味噌ってどうやって作るの?

発酵のプロに聞く味噌とカレー

ということで、ここは発酵のプロに聞こう。発酵デザイナーの小倉ヒラクさんにインタビューをお願いした。ヒラクさんとは北海道で一緒にカレー食って、帯広のモール温泉に行って、その効能に、おぁ〜効っくぅ〜と恍惚とした仲である。

小倉ヒラク(発酵デザイナー)
1983年東京生まれ。東京農業大学で研究生として発酵学を学んだ後、山梨県甲州市に発酵ラボをつくる。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家たちと商品開発や絵本・アニメの制作、ワークショップを開催。「手前みそのうた」でグッドデザイン賞2014を受賞。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)『日本発酵紀行』(d47 MUSEUM)など。

ヒラクさんの仕事としては、渋谷ヒカリエで過去最高の動員数にまでなった「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜」という展覧会が記憶に新しい。行った人もいるでしょう?発酵と日本って本当に最高に面白い。

実はコロナ禍のせいであまり知れ渡っていないが、ヒラクさんプロデュースの発酵ショップ「発酵DEPARTMENT」が4月に下北沢にオープンしたのだ。

今は時期もあり、限られた営業時間にはなってしまうが、日本の価値高い発酵食品の最高峰が集結している発酵アンテナショップである。ECショップ(通販サイト)も出来て、とんでもねえ発酵食品のサブスクリプションも始まったので要チェック!

で、こちらで一般販売していてカレーに合いそうな味噌ってなんでしょう?と聞いてきた。

タ:今日は味噌。カレーの隠し味に味噌を使いたいのです。どんな味噌がいいのかお話をお聞きしたいのですが、その前にECショップが完成しましたね。コロナの時期のオープンになってしまってすごく大変そうだったけど、おめでとうございます。商品名の先にくるキャッチコピーみたいのが、すごい面白い(笑)

ヒ:ありがとうございます。もうこんなスタートになるなんて全く想定できなかったからね(苦笑)SNSでLIVEやったり本当に手探りで色んなこと試してます。営業時間は短いけれどお店にも少しずつお客様が増えてきました。とはいえ、来店が難しい時期ですから発酵ファンの皆様に向けて、今は通信販売も強化してます。あの商品説明はやってるこっちも面白いんだよね(笑)基本的に僕が発案してから、みんなで決めます。味噌でも何種類か取り揃えてるし、一般的には全然知られていない発酵商品もあるので、理にもかなってるんですよね。

タ:調味料のサブスクリプションも始めたんですよね?

ヒ:そうなんです。毎月定額3,000円でふだん絶対手に取らないであろう調味料や発酵食材がおうちに届くという発酵サブスクです。 ありがたいことにジワジワ人気が出てきて順調にご契約者様が増えてます。

タ:前に発酵ワークショップにも参加させてもらいましたけど、本当に調味料変えるだけで、いつもの料理が抜群にうまくなるもんなー。

ヒ:自分に料理の才能があったんだ!って勘違いできるよね(笑)調味料を変えるだけで本当に美味しくなっちゃう。実は一番手っ取り早く、料理上手になれる技は調味料を変えることです。

タ:まさに!というこで本題に入っていいですか?カレーに合う味噌です。実はもう先に作ってしまったんですけど、ずばり、八丁味噌が合うんじゃないかと思ったんですよ。持ってきたので、食べていただきたい。

ヒ:もうできてるんだ(笑)八丁味噌か!いいんじゃない!

ヒ:美味しい!いやー、八丁味噌はスパイスにも負けないね!

八丁味噌っていうのは、愛知県の岡崎にある八帖町(旧八丁村)っていうところで作っているから八丁味噌なんですよ。なんとなく赤だし味噌と八丁味噌って同じようなイメージがあるけど違います。八帖町にあるカクキューと、まるやって2つの醸造蔵で作った味噌以外は八丁味噌じゃないんです。

タ:えー!そうなんだ!同じなんだと思ってた。あ!うちの冷蔵庫に入ってたのカクキューさんの味噌だ!

ヒ:じゃあ純然たる八丁味噌ですね。赤だし味噌が悪いってわけじゃないよ。でも、同じ赤い味噌でも熟成期間や仕込み方は明確に違います。あと、スーパーで売ってる赤だし味噌は、あとから米の味噌と混ぜ合わせて食べやすくしてるんですね。本来の八丁味噌は豆だけで作っていて、濃いうまみと深いコクがある。

味噌ってどうやって作るの?

タ:すごい基本的なことなんですけど味噌ってどうやってつくるんです?

ヒ:日本の一般的な味噌は米に繊細なニホンコウジカビをつけた「米麹」をつくってから、蒸し煮した大豆と塩を合わせてペースト状に発酵させるんですね。麹づくりと、味噌づくりのプロセスが分離してる。でも、八丁味噌は違います。米を使わない。蒸し煮した大豆をこねて握りこぶしくらいの玉をつくり、そこに直接カビをつけた「豆麹」をつくる。それを塩水と混ぜてペーストにしていくの。

タ:へー。ひと手間少ないんだ。

ヒ:そう。製法は中国や、韓国の発酵アプローチに近いんだよね。大豆が麹になって、そのまま味噌になっていく。2年〜3年熟成させて、どっしりと重く、コクがあって苦味やえぐ味まで堂々と主張するのが八丁味噌なんです。

タ:頼もしい味噌だ!ちょっと気になったんですけど真逆の白味噌は一般的にどんな特徴があるんですか?

ヒ:まず熟成が浅いですね。米と大豆を一緒にしてから1ヶ月〜3ヶ月くらいで出来上がります。あとは麹の量を多く使い、塩が少ない。淡泊で雑味がない甘めの味噌になりますね。西京味噌とかをイメージしてもらうわかりやすいかな。だからカレーに使えないことないけど、パンチがある八丁味噌の方が相性いいんじゃないかな。スーパーで売っている味噌なら、製法が近い赤だし味噌がいいんじゃないかと思います。

タ:なるほどなー!発酵DEPARTMENTでは八丁味噌は売ってるんですよね?

ヒ:もちろん。八丁味噌ブランドの中でも合わせ味噌はあるんだけど、もう直球で大豆と塩だけで作っているのがいいと思う。だから、さっき、これで作ったと言っていたカクキューの「有機八丁味噌」はベストセレクトだと思います。

タ:やったー!間違ってなかった!

ヒ:カクキューさんと、まるやさんは、2つとも室町時代から続く老舗なんですよね。この八丁味噌というブランドは江戸時代の初期から、徳川家のお気に入り調味料として作られているんですよ。

2つの蔵は、ライバル関係ってだけでは無くて、お互いが苦しいときは助け合って、食糧危機や戦争を乗り越えてきたんですって。そうやって岡崎の味を守り続けてきたんです。

タ:めちゃくちゃいい話ですね。もうそれだけでファンになっちゃう。

ヒ:どちらの味噌蔵も本当に通りを挟んだお隣さんみたいな立地なの。だから、岡崎の人からすると、もう味噌って言ったらららららラララアラッらら!こ、こ、こ、こどもおももおおぉぉぉぉををヲヲヲの頃から八丁味噌なんれすすすすぅ!あれ??

タ: ??? ヒラクさん大丈夫ですか?

ヒ:す、す、すみません。なんか、急に気分が悪く……あれれれれれれ??

タ:危ない!

ヒラクさんは、急にうずくまるように倒れ込んだ。僕は狼狽してあたりを見回す。するとどうだろう。さっきまでいたお客さんやスタッフの人達の姿が見当たらない。助けを求めようと外に出る。外にも人がいない。近隣の店や2階にある書店B&Bにも行ったが誰もいなかった。

コロナのこの時期に心配ではあるが医師の判断を仰いだほうがいい。救急車を呼ぶためにiPhoneを取り出した、が、

「圏外だ……おかしい。まるで世界に僕しかいないみたいだ」

ヒラクさんが心配だ。店舗に戻る。しかし、ヒラクさんの姿も消えていた。ものの数分しか経っていないはずなのに。フロアは静寂に包まれている。入口から5月の心地よい涼風が流れ込んだが、かえって店内の異様さを際立たせた。明らかにコロナが作り上げた閑散の度を超えている。

唐突にヒタっと後ろから物音がして振り返る。ヒラクさんが立っていた。

しかし目線が合っていない。僕の顔を見ているようで、僕の後ろのもっと先を見ているような。見合って沈黙が生まれるが、耐えきれず僕から切り出した。

「あ、あのヒラクさん、大丈夫でしょうか?」

「おまえの故国の文化を合わせるのだ」

言い終わるやいなやの即答だった。故国……どういうことだ。

「おまえは、八丁味噌の他に3つの発酵食品を使って、カレーを作らなければならない。おまえは選ばれたのだ。おこもり生活の救世主となる大発酵カレーを作らなくてはならない」

「大発酵カレー??ど、ど、どういうことですか!?」

「残り3つのうち、ひとつはヨーグルト。砂漠の民も扱うもっとも世に知れた発酵食品だ。もうひとつは、日本独自の調味料で甘みとコクを生み出す、みりん。そして、最後のひとつは、おまえの故国、常陸の国の代物だ。わからんか?」

常陸の国とは、奈良時代の国の呼称だがその多くは今の茨城県のことを指す。そう僕は茨城県出身なのだ。茨城の発酵食品……もしや!とヒラクさんの方を見上げる。ようやくわかったか、という意味を込めるかのように薄い笑みを浮かべた。

そして、ゆっくりと言い放ったのだ。

「ねばねば」

「水戸、納豆!」

僕が納豆を叫ぶと同時に風景が歪んだ。ヒラクさんの姿がぐるぐる廻る。立っていられない。目が回る。ひどく酔ったみたいで気持ちが悪い。床に手をついて目をつぶってしまう。はははは!という乾いた笑い声が聞こえる。それを引きずったまま、ヒラクさんが叫ぶ。

「カレーと味噌の境界線は曖昧になってきているよ!ははは!」

笑い声がだんだんと小さくなっていった。味噌は…カレー……なのだろうか。
記憶が薄らいでいく中、耳元に生暖かい吐息が覆いかぶさり、ぽつりと声が落ちてきた。

「全部、冷蔵庫に入れといてやるからな」

発酵DEPARTMENT 店舗情報

店舗名: 発酵デパートメント

住所: 東京都世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK内
※下北沢南西口から世田谷代田駅方面に徒歩3〜4分

営業時間:
平日 12:00-18:00
土曜 11:00-18:00
(2020年4月〜5月前半まで)

定休日:
水曜日・日曜日(2020年4月〜5月前半のみ)

公式webサイト: https://hakko-department.com

書いた人

カレー研究家、CHANCE THE CURRY代表です。ほぼ毎日カレーを食べています。最近は専ら日本的なカレーの模索にどっぷりで和食とスパイスの組み合わせを探求中です。執筆、レシピ開発やカレーイベントの主催、製品開発なども手がけてます。カレーから愛されたい。手がいつもカレー臭い。