美人画の巨匠、上村松園(うえむらしょうえん)。明治後期から昭和初期にかけて、次々と美人画の傑作を世に送り出し、女性で初めて文化勲章を受章しました。松園が描くきもの姿の女性は、高貴でしとやか。その秘密は、美しい日本女性の風俗をきちんと描き残しておきたい、という松園の強い意志にありました。今回は、清澄な印象に満ちあふれている作品7つをご紹介します。
降りしきる真っ白な雪の中を行く女性
右の女性の背中は、ふんわりとしたライン。数枚の綿入れを重ねているのだろう。袂に入れた手で傘の柄をつかむしぐさも、襦袢の赤がのぞく様子も、女性らしさを熟知する松園ならではの心憎い表現。帯は表が麻の葉柄、裏は黒繻子。異なる布で仕立てたこれを昼夜帯(ちゅうやおび)と呼び、町人女性に愛用された。
天女のような雰囲気を思わせる令嬢
上村松園の代表作「序の舞」は、令嬢の華やかな舞い姿。総絞りの帯揚げをふっくらと見せ、半襟は菊柄の変わり織り。立て矢系に大きく結った帯も素敵。大振り袖姿からは品格がただよう。
よそゆきのきものを着た母娘の微笑ましい姿
大ぶりな三ツ割梅の女紋を配したお出かけ用のハレのきもの。このふたりは同じ紋なので母娘の関係であることがわかる。眉を落とした母は龍を織り出した前帯(結び目を前にして帯を締めた)の姿で、娘の帯も朱地に向かい鳳凰柄。ともに格式の高いもの。
月の出を待ち望む涼やかな横顔
ほおづえをついて、おすまし顔で空を見上げる「待月」。紗のきものの下に、ほんのりと浮かび上がる紅白の釘抜き繫ぎ模様の襦袢こそ、日本的な透かしの美学。水色の絞りの帯は、流水に楓の模様。長襦袢の袖口と襟の赤、そして唇の紅のアクセントが、女性の華やぎを表現する。
画業を支えてくれた母・仲子への追慕作品
江戸後期から明治初期にかけて、子供を産んだ女性は眉を落とす習慣があった。本作「青眉」は、花盛りの娘とはまた違う、母の美しさを描いたもの。麻の葉の半襟の襦袢と格子柄の単衣を着た上に、黒の掛け襟をつけた千筋のきもの姿がどこか優しい。
働く女性の清楚なたたずまい
縁側で障子の破れた穴を直す女性を描いた「晩秋」。女性の髪型は、明治以降の京都独特のかたちで、若い女性が好んだ「粋書(すいしょ)」と呼ばれるもの。黒の掛け襟をつけた無地のきものに、青磁色の博多織の昼夜帯を洒脱な角出しに結び、帯締めで留めている。淡紅色の襦袢が慎ましい。無地の強さを実感。