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国は力で支配することはできるが、人の心は力で支配することはできないんだ。(チンギスハン)
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Art
2022.02.04

描かれたのは、猫が導く禁断の恋。江戸時代の着物に込められた壮大な物語とは?

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日本の着物は雅やか。そして…むむ!? 猫まで描かれている! 根津美術館の「文様のちから 技法に託す」展に出品された江戸時代のたくさんの着物を目にしたつあおとまいこの二人は、現代の着物のルーツとも言える華やかで味わい深い表現に魅入られてしまいました。

みやびやか〜〜〜

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

着物に描かれていた禁断の恋

根津美術館「文様のちから 技法に託す」展 会場風景

つあお:江戸時代の武家の礼服になっていた豪華な金襴の狩衣(かりぎぬ)や雅やかな小袖などが並んだ最初の展示室、インパクトがすごかったなぁ。

まいこ:「着物の力」に満ちあふれていました!

つあお:もちろん日本の着物は美しいなと前から思ってるんですけど、この展覧会が開かれているのは、東洋の絵画や茶道具などで有名な根津美術館ですからね。これほどたくさんの着物が見られるとは、けっこう意外でした。きっと知る人ぞ知るだったんだろうと思います。

まいこ:まるで着物の形をした絵画を見ているようなものもたくさんありましたね!

つあお:それでね、たわくし(=「私」を意味するつあお語)としては、まずやっぱりこの着物に注目したいなと思いました。「猫」という文字がタイトルに入っているやつです。

『紫絽地御簾に猫草花文様単』 江戸時代 19世紀 根津美術館蔵 展示風景

まいこ:ふふふ。目のつけどころが猫好きのつあおさんですね。私も猫がチラリと視界に入って、「これはきっとビビッと来てるに違いない」って思いましたよ(笑)。

えっ猫? いったいどこにいるの〜?

つあお:とは言っても猫は脇役。全体としてまず目に入るのは、桜っぽい花の美しさかな。

まいこ:上のほうでは、雨が斜めに降っていたり川の流れがあったりと、動きもありますね!

『紫絽地御簾に猫草花文様単』 部分

つあお:着物に雨が描かれるって、特にすごい! 雨って普通はうっとうしいじゃないですか。それをあえて着物に描いたんだ。

まいこ:浮世絵の中には、「にわか雨に驚いた人々が、雨やどりをしようと走り回っている」って感じの絵もありますね。

つあお:雨の絵には動きや人々の気持ちが表れていることが多いから、物語を感じます。この着物にも物語がありそう!

まいこ:確かに! 御簾(みす)や几帳(きちょう)のような間仕切り用の調度品がはためいていたりするから、人の存在が漂っている!

几帳=公家(くげ)調度で屏障具(へいしょうぐ)の一種。T形の几に帷(かたびら)とよぶ帳をかけて垂らし、目隠しや風よけ、あるいは間仕切りとして用いた。(出典=小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

『紫絽地御簾に猫草花文様単』 部分
几帳の陰に箏が描かれている。

つあお:おお、はためいている! ただの風景画じゃないってことだ。几帳(きちょう)の影には楽器の箏が見えてる。あゝ雅! これはもう、必ずや、物語が隠されているな。

まいこ:物語といえば、恋でしょうか!

つあお:おお、キタキタ!

まいこ:でも人影はどこにもないんですよね。

つあお:そうか。だから猫影があるんだ(笑)。

まいこ:猫影って面白い(笑)。探すと猫が2匹いる。


『紫絽地御簾に猫草花文様単』 部分
いました、にゃんこ♡

つあお:猫は、女性を象徴しているのかも。かつては猫を女性の象徴として描いた画家もいましたからね。2匹いるということはひょっとすると「異時同図法」で、場面の移り変わりを示しているのかな。どちらにも同じような御簾があって、猫の模様も似てるし。

まいこ:つあおさん、解釈が凝ってますね! 私は単純に男性猫と女性猫なのかなと思いました。

つあお:ん? 御簾の向こうに男がいるのではないのかなあとか想像してみたりして。

まいこ:なるほど! よく見ると猫には首輪が付いていますよ! 自由に出かけられる感じでもないところが昔の女性っぽい!

つあお:なるほど、深い。

まいこ:「ちょい深」くらいでしょうか(笑)?!

つあお:それでもって、解説パネルを読んだら驚き桃の木! 何と、この着物の上の部分は「平家物語」の「小督(こごう)」の段を、下の部分は「源氏物語」の「柏木」の段を題材にしてるって書いてありました!

一枚の着物の中に二つの物語を閉じ込めるなんて、自由すぎます!

まいこ:うわっ! それで艶っぽい空気が感じられていたのですね。納得!

つあお:そう、どちらも禁断の恋の物語らしいんですよ。この二つの物語を表現した着物を身にまとうと、一体どういうことになるんだろう? たわくしとしては、ぜひ、まいこさんに着て欲しいです。

まいこ:じゃぁ、この着物も紫色だし、紫の上(「源氏物語」に出てくる女性。光源氏の妻の一人)にでもなってみようかな。

つあお:まいこさんも雅の世界にタイムワープ!

人の気配が描かれた雅やかな屏風


『誰が袖図屏風』 江戸時代 17世紀 根津美術館蔵 展示風景

つあお:この展覧会ではとてもいっぱい美しい着物を見ることができて、目の保養になっているんですけど、『誰が袖図屏風』という少々変わった屏風が1点展示されてるのがとっても気になりました。

まいこ:たくさんの着物が衣桁(いこう)に無造作にかかってる。いろんなデザインがあって楽しいですね!

つあお:それでいて、人が誰もいない。これは結構おしゃれな気がします。

ちょっと西洋の静物画っぽい雰囲気もあるような!?

まいこ:先ほどの着物に描かれた絵もそうでしたけど、人の気配があるのに描かれていないのって、想像をかき立てますね!

つあお:そして雅。やっぱり平安時代の貴族のおうちとかを描いているのかなあ?

まいこ:男性と女性、それに子どもの着物が散乱しているようなので、もしかしたら江戸時代かも?

つあお:江戸時代にもこんな雅なおうちがあったんだ!

まいこ:個人宅というよりは、非日常の遊びの場かもしれませんよ!

つあお:おお、右の屏風の右下の隅にすごろくなんかがありますね。

『誰が袖図屏風』 右隻部分

まいこ:左の屏風には、硯と筆と長方形のノートみたいなのもある。

つあお:おお、和歌とか書いちゃうのかな?

『誰が袖図屏風』 左隻部分

まいこ:俄然色気が出てきましたね!

つあお:ははは。色気かぁ。人がいない絵ってなんか寂しい気が普通はするんだけど、この絵はすごく想像が膨らんで、むしろ楽しくなっちゃう。

まいこ:衣桁にかかっている着物も、普段着というよりはおしゃれなお出かけ用ですよね。

つあお:こうゆう着物を着て外に出ると、本人も楽しいだろうなぁ。私は特に右の屏風の真ん中らへんにある扇面が描かれた着物がいいなぁと思います。

『誰が袖図屏風』 右隻部分

まいこ:扇の形がたくさん散ちらしてあって、とってもおしゃれ! この展覧会場には、扇面を散らした着物の本物がありましたね!

つあお:ありました! 目に焼き付いてます!

まいこ:その着物は、白地に描かれた青海波文様に金箔を乗せて接着する「摺箔(すりはく)」という技法で施されたものだそうです。全体に散りばめられた扇面は刺繍で覆いつくされていてホントにゴージャス!!

『白地青海波に扇面散模様縫箔』 江戸時代 17〜18世紀 根津美術館蔵
扇の一枚一枚にも物語が込められていそう♪

つあお:そうそう、扇ってそもそも日本生まれの道具らしいんですけど、なんだか本当に優雅だと思いませんか? 当時、ファッションショーがあったら、こんな着物が次から次へと出てきたかも。すごかっただろうなぁ。

まいこ:うわー、見てみたい! 江戸時代のスーパーモデルはやっぱり着物が映える体型なのでしょうね。

つあお:ビバ! 江戸時代の着物!

まいこセレクト

『水浅葱地鱗模様摺箔』 江戸時代  1857年 展示風景

たっぷりと金を使った三角が無数に輝くキラキラぶりにときめきました。型紙を用いて布の上に模様の形に糊(のり)を置き、その上に金箔を乗せて接着する摺箔(すりはく)を用いているとのこと。『白地青海波に扇面散模様縫箔』と同じ技法です。ということは白抜きになった三角の部分から落ちた金が余ることになるから、もう一着同じデザインが作れたりして!
とても優雅でぜいたくな着物だなと思ったのですが、実はこれ、能装束。
しかもこの三角は竜のうろこや蛇の身体を表現してるので、鬼や鬼女などの異形の生き物や役柄が着る装束なのだそうです! 結構おどろおどろしい着物なのですね。
ファムファタル日本版として登場する時に、着てみようかな! (どんな場面やねん)。
※技法については文化遺産オンラインを参照しています。

つあおセレクト

『黒柿双六盤』 江戸時代 19世紀 根津美術館蔵 展示風景

『誰が袖図屏風』にも描かれていた双六盤ですが、こちらは江戸時代の実物。漆塗りなどの技法で作られた美しいゲーム盤です。何といってもゴージャスなのが、駒を入れる袋。本当に雅やかだと思いませんか。双六は囲碁、将棋とともに「三面」と呼ばれる遊びの一つで、当時の雅な人たちの婚礼道具だったりもしたのだとか。昔の人たちが「遊び」を大切にしていたって、何だかいいなぁと思う今日このごろです。「遊び」万歳!!

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。

Gyoemon『猫にも衣装』

猫に音楽文様の着物を着せてみました。結構愛らしいと思うのは、たわくしだけでしょうか?

展覧会基本情報

展覧会名:文様のちから 技法に託す
会場名:根津美術館(東京・表参道)
会期:2022年1月8日~2月13日
※日時指定予約制
公式ウェブサイト:https://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/index.html

※本記事の写真は特別な許可を得て撮影しています。館内は撮影禁止です。
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書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

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平成元年生まれ。コピーライターとして10年勤めるも、ひょんなことからイスラエル在住に。好物の茗荷と長ネギが食べられずに悶絶する日々を送っています。好きなものは妖怪と盆踊りと飲酒。