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2018.10.11

「上村松園・松篁・淳之三代展 画家の仕事」松伯美術館

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2018年12月2日まで、松伯美術館で「上村松園・松篁・淳之三代展 画家の仕事」が開催中です。松伯美術館学芸員の原口祥子さんにみどころを解説していただきました。

美・知・心を満たす展覧会

気品ある女性像を格調高く描いた日本画家、上村松園。松伯美術館は、松園と、松園の子・松篁、松篁の長男・淳之の三代にわたる作品を収集、保管、展示する美術館です。この秋の展覧会では、「画家の仕事」と題して、三代の作品を、素描、小下絵、下絵とともに紹介します。

「素描や下絵というのは、本来は人の目に触れないもの。画家にとっては、自身と、描く対象の二者だけで語り合った世界です。そこに、画家としての日ごろの仕事のすべてが語られているのではないか、そう確信して、この展覧会では、本画ができるまでの制作過程に焦点を当ててご紹介をしています」(原口さん)

松柏美術館上村松園 「花がたみ」松伯美術館蔵

なかでも、松園の代表作「花がたみ」に関しては、芸妓をモデルに表情や手の動きを写生した素描から、人物のポーズを試行錯誤した小下絵、切り貼りがされた下絵と、本画に至るまでの道のりの長さと険しさに改めて感嘆します。

松柏美術館上村松園 「花がたみ」下絵 松伯美術館蔵

「松園は、本画は筆で描くのだから、と、写生をするときも筆を用いることにこだわり、日本画としての“筆の線”を大切にしました。『彩色をしなくても絵は画に成り得ますけれども、線なくしては画に成り得ません』という松園の言葉からも、線の修業にいかに重きを置いていたかがわかります。松園自身が『全生涯の思ひ出が籠ってゐる』とした縮図帖もご覧いただきますが、美しい本画の背後にある、松園の不断の努力の跡を見ていただくことによって、松園の作品への理解をよりいっそう深めていただける機会になればと思っています」(原口さん)

松篁も、生涯、飽くことなく、鳥や金魚、自然といった、描く対象を観察し続けました。

松柏美術館上村松篁 「雁金」松柏美術館蔵

「『雁金』の素描では、さまざまなポーズをした小さな雁金が、画用紙一面に描かれています。を前に1か月以上は座って写生していたであろうことがわかります。そのうちに、絵にしたいポーズが見つかり、小下絵で吟味に吟味を重ねて、最終的に本画は、3羽の、シンプルな構図に…。表現したいことを画にするために、ここまで削ぎ落とすのか、と、本画からだけではわからない感動が必ずあります」(原口さん)

松柏美術館上村松篁「雁金」松伯美術館蔵

現役作家である淳之は本画のみを展示。自宅で1000羽以上の鳥を飼育しながら描いた作品には、深い愛情と優しさに加え、鳥たちが生きる自然環境への想いも込められています。

松柏美術館上村淳之「鵲」松柏美術館蔵

「画家の仕事」が心を打つ、必見の展覧会です。

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