2019年は、日本の皇室にとって大きな動きのある年になりました。両陛下が即位30年を迎えたことを一つの区切りとして生前退位され、GWには新天皇即位・改元というビッグイベントが控えています。
この動きに呼応するように、2019年の春は特に東京都内で皇室をテーマとした美術展が多数開催されます。すでにいくつかはスタートしてますが、いずれも展示が非常に充実していることもあってお客さんの満足度も概ね高いようです。
そこで、本稿では、2019年春に東京都内で開催される、主な皇室関連の展覧会を集めて特集してみました。集中的に見て回れば、皇室文化について相当深くまとまって学べるチャンスかもしれません。それでは早速見ていきましょう。
オススメ展覧会1 「両陛下と文化交流」(東京国立博物館)
宮内庁が所管する皇室ゆかりの作品の中から、皇室文化を象徴する文化財や諸外国との外交交流で対外的に紹介された美術品を選りすぐって展示した特別展です。
入場するとすぐに目に入ってくるのが、両陛下がご正装でお立ちになった、平成21年に撮影された記念写真です。
今よりも幾分かお若く、改めて御成婚60年、御即位30年という時の重みを感じますね。
さて、本展では、酒井抱一の絵画作品や海野勝珉の金工作品、高村光雲の木彫作品など戦前の帝室技芸員たちが手がけた超一流の作品や、皇室外交で両陛下が海外にご訪問された時に外国に紹介された江戸時代の絵画・工芸の傑作などがならびます。
海野勝珉「丹凰朝陽図花瓶」宮内庁三の丸尚蔵館蔵/帝室技芸員にしてレジェンド級の金工職人・海野勝珉の手がけた超絶技巧な銀製花瓶。
岩佐又兵衛「小栗判官絵巻」宮内庁三の丸尚蔵館蔵 ※会期中巻替あり
展示後半では、皇后陛下が毎年取り組まれている「養蚕」をテーマとした展示が興味深いです。古代の絹織物の補修にも使われるという、特別繊細な絹糸がとれる純国産種「小石丸」種をご養蚕される皇后陛下の写真パネルや、収穫された絹糸で制作されたイヴニングドレスなども展示されています。
イヴニングドレス、コート 宮内庁侍従職所管 ※3/31までの展示
また、陛下のご幼少時にそれぞれ誕生日を記念して制作されたお祝いの晴れ着も見どころです。季節や人生の節目に記念として「晴れ着」を送る風習は、だんだんと日本人の間では失われつつありますが、こうしてしっかりと日本伝統文化を守り伝えていくことも皇室の大切な存在意義であるといえるでしょう。
左:赤縮緬地吉祥文様刺繍振袖 宮内庁侍従職所管 右:黒紅綸子地落瀧津文様振袖 宮内庁侍従職所管 ※いずれも3/31までの展示
さすがに東京国立博物館で特集されるだけあって、その展示のクオリティは折り紙付き。江戸時代~近代に制作された美術・工芸の最高峰となる作品を楽しみながら、皇室文化についてじっくり学べる良い展示です。大幅な作品の入替がありますので、前期展示をご覧いただいた方も、4/2からの後期展示をぜひお楽しみくださいね。
展覧会名 特別展 御即位30年記念「両陛下と文化交流―日本美を伝える―」
場所 東京国立博物館 本館特別4・5室
会期 開催中~4月29日(月)(※4/29を除く月曜は休館)
公式サイト
オススメ展覧会2 「華ひらく皇室文化」(泉屋博古館分館)
明治維新・文明開化を経て、明治時代の皇室は西洋文化の影響を強く受けると同時に、古来から伝わる伝統文化を守り伝えようとしました。帝室技芸員を任命して日本伝統の美術や工芸を守り伝えようとする一方で、宮廷での儀式には洋装が登場し、饗宴では華やかな洋食器が使用されるなど、明治の宮廷は西洋文化を少しずつ取り入れていきました。
その結果花開いたのが明治時代独自の優雅な宮廷文化です。本展「華ひらく皇室文化」は、泉屋博古館分館と学習院大学史料館の2館で共催され、明治時代の皇室文化を伝える絵画・彫刻・金工・染織・漆工・七宝などの美術工芸品や、各種資料・文物など幅広い分野から約150点の展示を楽しむことができます。
色絵金彩花鳥文花瓶 6代錦光山宗兵衛 明治17年(1884)以前 霞会館
神鹿 竹内久一 大正元年(1912)東京国立博物館 画像提供:東京国立博物館 Image:TNM Image Archives
泉屋博古館分館の展示で一番目を引いたのが、慶事の際に皇室から引出物として贈られた、砂糖菓子が入った銀製の小さな箱・ボンボニエールです。皇室外交の場で使われ、日本の高い金工工芸技術をアピールするために意匠をこらされた様々なかたちが非常に目を引きます。
洋書形ボンボニエール 久邇宮邦英王成年式 昭和5年(1930)個人蔵
鶴亀形ボンボニエール 明治27年(1894)3月9日 個人蔵
兎置物形ボンボニエール 久邇宮良子女王婚儀につき送別会
大正13年(1924) 学習院大学史料館(筑波家寄託)
釣灯籠形ボンボニエール 昭和大礼 大饗 夜宴の儀 昭和3年(1928)11月17日
学習院大学史料館(高橋家寄託)
また、会場の中央にセットされた有栖川宮家が正餐で使用した超高級食器のセットは圧巻!しかも、よく見てみると単にヨーロッパから食器を直輸入しただけではなく、一つ一つのアイテムに細かく有栖川宮の御紋が入れられているのも凄いです。
有栖川宮家所用の正餐用食器・銀器セット 明治20年(1887)頃
上野の森美術館 保管
また、その他分野の帝室技芸員たちによって制作されたこの時期特有の「超絶技巧」な工芸作品も見どころ満載。前後期あわせて約150件もの充実展示で、明治時代の宮廷を彩った美術工芸をたっぷり楽しめるオススメ美術展です!
展覧会名 「特別展 明治150年記念 華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美-」
場所 泉屋博古館分館
会期 2019年3月16日(土)~5月10日(金)
公式サイト
オススメ展覧会3 「華ひらく皇室文化」(学習院大学史料館)
泉屋博古館分館と共催での開催となる「華ひらく皇室文化」展。学習院大学史料館での見どころは、ボンボニエールコレクション。泉屋博古館分館側で観られる作品は割とオーソドックスなものが多かったですが、学習院大学史料館には牛車をかたどったものや、飛行機、和船の形をしたものなど、非常にバラエティに富んだかたちを楽しむことができます。
牛車形ボンボニエール 学習院大学史料館蔵(高橋家寄託)
和船形ボンボニエール 学習院大学史料館蔵
昭憲皇太后の遺品として残された、藤と鶴の文様が蒔絵で施された超高級なお弁当箱「提重」の展示も明治期の超絶技巧工芸の一つの頂点を示すものとして面白いかも知れません。
藤鶴蒔絵提重 昭憲皇太后遺品 個人蔵
また、4月27日まで昭憲皇太后の洋装着座写真が展覧会にて初公開されます。これまで広く公開されてきた「御真影」は立ち姿だったので、「座った」昭憲皇太后の写真を観ることができるのは非常にレアな機会なのです。
ちなみに、この2館共催で開催される「華ひらく皇室文化」は2館ともに回ってアンケートに回答すると、コンプリート特典として記念品がもらえます。せっかくなので是非2館とも回ってみてください。
展覧会名 「明治150年記念 華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美-」
場所 学習院大学史料館
会期 2019年3月20日(水)~5月18日(土)
公式サイト
オススメ展覧会4 「ようこそ、ボンボニエールの世界へ」(ミキモトホール)
ボンボニエール好きの人は絶対チェックしたいのが、ミキモトホールで開催される「ようこそ、ボンボニエールの世界へ-皇室からのかわいい贈りもの-」です。
八稜鏡形鳳凰文 大正大礼 1915(大正4)年11月10日/個人蔵
ミキモト銀座4丁目本店7階にあるミキモトホールではこれまでも「二代目 中村吉右衛門 写真展」や西陣織の老舗「細尾」が企画協力した「日本の美しい布展」など独自の視点で日本文化を紹介する展覧会を開催してきました。
今回開催される展覧会は、明治から平成にかけての銀製や磁器製のボンボニエールが約60点集結。様々な文様や形のボンボニエールをじっくり楽しむことができます。
入目籠形 大正大礼大饗第二日の儀 1915年(大正4)年11月17日/個人蔵
小槌形 外国賓客の接遇の際下賜 年代不明/個人蔵
犬張子形 継宮明仁親王(今上天皇)御降誕御内宴 1934(昭和9)年2月23日/個人蔵
またボンボニエールと同じく、刀剣や簪(かんざし)に細工を施す錺職(かざりしょく)由来の技術を礎とするMIKIMOTO のアーカイブジュエリーも展示します。
皇室の慶事にて、ボンボニエールが記念品として配布された最古の記録は、1894年。明治天皇の銀婚式にあたる「大婚二十五年祝典」でした。それ以来、皇室文化として独自発展を遂げてきたボンボニエール。その一方、MIKIMOTOの創業者・御木本幸吉が養殖真珠を本格的なジュエリーに仕立てるため錺職工房をスタートさせたのが1907年。ともに日本の金工工芸に源流を持ち、100年以上の歴史を持つボンボニエールとMIKIMOTOのジュエリーを一度に堪能できるまたとない機会です。非常に繊細なアイテムが多いので、単眼鏡をお忘れなく!
展覧会名 「ようこそ、ボンボニエールの世界へ —皇室からのかわいい贈りもの—」
場所 ミキモトホール(ミキモト銀座4丁目本店7F)
会期 2019年4月5日(金)~5月10日(金)※入場無料
主催 MIKIMOTO
監修 長佐古美奈子(学習院大学史料館 学芸員)
協力 華ひらく皇室文化展実行委員会
公式サイト
オススメ展覧会5 「国民とともに歩まれた平成の30年」(日本橋髙島屋)
皇陛下の御即位30年と天皇皇后両陛下の御成婚60年を記念して開催される展覧会です。展覧会は、宮内庁の全面協力を得て、各都道府県から贈られた両陛下への献上品や、ご即位時の装束、儀装馬車などゆかりの品々や写真展示約300点で構成される非常に力の入った内容。
天皇陛下 御即位 御装束 黄櫨染御袍/天皇陛下だけが着用できる御装束。3月12日に皇居・宮中三殿にて行われた「賢所(かしこどころ)に退位及びその期日奉告(ほうこく)の儀」でも着用されていましたね。
皇后陛下 御装束
また、日本橋髙島屋S.C.本館1階正面ホールに特別展示される豪華な儀装馬車も見逃せません。現在宮内庁では様々な儀式や式典で4台の儀装馬車を使用していますが、そのうちの1台が実物展示されます。約100年前に製造され、菊の御紋が入ったクラシカルなデザインの豪華な儀装馬車を是非間近で味わってみてくださいね。
儀装馬車
また、会場では国内外の各地でファインダーに収められた様々な両陛下のお写真を展示。沖縄・硫黄島・パラオなど第二次大戦の戦没者慰霊や、精力的に世界各地で親善外交に従事されるお姿など、約200点が展示されます。
非常に充実した展示にもかかわらず【入場無料】と非常にお得な展覧会。是非、気軽に出かけてみてくださいね。
展覧会名 「御即位30年 御成婚60年記念 特別展 国民とともに歩まれた平成の30年」
場所 日本橋髙島屋S.C.本館8階ホール
会期 2019年4月3日(水)~4月21日(日)
公式サイト
オススメ展覧会6 「-宮廷の服飾-」(共立女子大学博物館)
共立女子大学博物館は、2016年に開館したばかりの比較的ニューフェイスな大学博物館です。しかし、きものや西洋服飾、ガラス工芸、漆工などを中心に、3000件を超える充実したコレクションを形成するなど、その実力は折り紙付きなのです。前身の共立女子職業学校時代から数えて、今年133周年を迎えた歴史の重みを感じます。
そんな共立女子大学博物館が、両陛下御即位30周年、新天皇即位を記念して開催中の展覧会が、「和と洋が出会う博物館 共立女子大学コレクション・5 -宮廷の服飾-」です。昭憲皇太后や貞明皇后が実際にお召しになった洋装をはじめ、所蔵品の中から皇室や宮廷に関連する服飾を展示するコレクション展を開催しています。
「昭憲皇太后着用大礼服」
「昭憲皇太后着用大礼服」(部分図)糸菊の刺繍が非常に細かく、丁寧に縫い付けられています。
本展の一番の見どころは、昭憲皇太后(明治天皇の皇后)が実際の新年拝賀で着用された緑色のビロードの大礼服。昭憲皇太后は積極的に日本の洋装化に取り組まれていながらも、自分でお召しになるものは国産の素材にこだわられていました。当時のヨーロッパでの流行を取り入れた洋装に、純国産の素材だけを用いた糸菊の刺繍が華やかに施された衣装は、まさに和洋折衷の最高級品といえるでしょう。
通常服(貞明皇后御料)
もう一つのハイライトは、貞明皇后(大正天皇の皇后)が日常生活で身につけた通常服です。今見るとこういった略装でさえ非常にクラシカルな印象を受けますが、通路を挟んだ向かい側に展示されている江戸時代までの伝統的な宮廷の和装と比較してみると、明治時代~昭和初期にかけて、宮中での洋装化が一気に進行したことがよくわかります。
江戸~明治時代にかけての宮廷で使用された和装も展示されています。
小川松民作「片輪車螺鈿蒔絵手箱」/服飾とならんで、共立女子大学博物館では優れた漆工作品も多数所蔵しています。
その他、伊勢物語かるたや、美しい蒔絵が施された手箱や硯箱などのハイレベルな漆工芸品なども見逃せません。神保町、九段下、竹橋など、都心の地下鉄最寄り駅からいずれも徒歩5分以内とアクセス抜群で、入場無料で気軽に入れるのも嬉しいところ。皇室文化の象徴とも言うべき昭憲皇太后の大礼服は、一連の皇室展に興味がある人なら見逃せない展示です!
展覧会名 「和と洋が出会う博物館 共立女子大学コレクション・5 -宮廷の服飾-」
場所 共立女子大学博物館
会期 2019年3月13日(水)~5月20日(月)
公式サイト
皇室関連の展覧会にハズレなし! どの展覧会もおすすめです
2018年中にもいくつか開催された皇室関連展を回ってみて強く感じたのは、「皇室関連の展覧会にハズレなし」ということです。なぜなら、普段めったに観ることができない宮内庁で管理されている皇室御物や、三の丸尚蔵館が所蔵する戦前の帝室技芸員たちが精魂込めて制作した超一級の美術工芸品が出品されることが多いためです。
特にこの春開催される皇室関連の美術展では、明治期以降の皇室文化を象徴する銀色の小さな菓子器「ボンボニエール」が取り上げられた展示も多く、どの展示会場も非常に華やかな雰囲気で彩られています。新天皇即位に関する一連の式典が執り行われるゴールデンウィークを前に、本記事で紹介した展覧会で皇室文化について思いを馳せてみるのもいいですね。
文/齋藤久嗣