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2025.07.25

被爆八十年を迎える広島の〝今〟。写真家・三浦憲治がとらえた故郷、被爆地 広島の人々の日常

写真家・三浦憲治がとらえた故郷、被爆地広島の人々の日常

『和樂』の誌面をはじめ、雑誌や広告などで半世紀以上、ミュージシャンや俳優を撮影してきた写真家・三浦憲治さんは、11年前から故郷・広島の街や人を撮り、毎年、「ミウラヒロシマ」という写真展を開催しています。

昭和20(1945)年8月6日8時15分、三浦さんのお母様は広島に落とされた原子爆弾の爆心地から2・5キロの自宅で被爆しました。三浦さんが生まれたのはその4年後。子供時代は至るところに原爆の惨禍の跡が残っていたといいます。故郷に身を置き、子供のころの記憶を辿るように、三浦さんが街を歩いて撮影した広島の“今”。被爆80年の今年、写真集『ミウラヒロシマ』として出版されることになりました。この夏、あらためて平和を思う、写真の一部を紹介します。

広島市の中心街、基町から望む平和記念公園と原爆ドーム。広島の人たちにとっての日常の街は、毎年8月6日、国内外から多くの人々が訪れて、祈りの場所となる。

三浦憲治 みうら・けんじ
1949年、広島市生まれ。1971年、英国のレッド・ツェッペリンの初来日公演時の撮影をきっかけに、ピンク・フロイド、サンタナ、クイーンなど来日ミュージシャンを次々に撮影。松任谷由実、矢沢永吉、坂本龍一、井上陽水、奥田民生など多くのアーティストの撮影を数十年続けている。主な作品に、YMO写真集『OMIYAGE』、奥田民生写真集『TAMIO GRAPHY 1994-2024』、吉永小百合写真集『吉永小百合』(共著)などがある。

私が知らなかったヒロシマ

文・酒井順子

三浦憲治さんは、芝居を共に観にいくお仲間です。日本の、そして世界の名だたるミュージシャンや俳優を数多く撮影している三浦さんには写真界の大御所イメージが漂いますが、実像は、いつも上機嫌、かつ写真を愛してやまない永遠の写真少年。

そんな三浦さんのライフワークである「ミウラヒロシマ」展が広島でも開催されるということで、二〇二二年夏、芝居見物仲間達と共に旅立ちました。

広島に暮らす人の“今”が溢れる「ミウラヒロシマ」。被爆した校舎の一部が保存されている本川(ほんかわ)小学校に通う子どもたち。

到着したのは、八月五日。写真展を見てからお好み焼きやウニクレソンなどを堪能した後、三浦さんは、
「じゃあ明日の朝は、五時頃に集合でいいかな?」
とおっしゃいます。

明日とはすなわち、広島に原爆が投下された日。そんなに早い時間に? と一瞬思ったものの、翌朝平和記念公園へと向かうと、既に大勢の人で溢れていました。広島の方々はもちろんのこと、政治家、外国の要人、平和に対する様々な思いを持つ人々……等々、日本中そして世界中から集まった人が、祈り、歌い、語り合っていたのです。

千羽鶴が捧げられた慰霊碑がある公園で踊る若者たち。

平和を思うエネルギーが結晶化したような荘厳な空気が、そこには満ちていました。その中で読む、
「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」
という原爆死没者慰霊碑に刻まれた文言が、胸に刺さります。

そんな中で三浦さんは、いつものようにシャッターを押していました。普段からたびたび広島へ赴いて撮影している三浦さんは、八月六日も、その目が捉えた瞬間を、撮り続けている。

少女たちが自転車で通り過ぎる店で売られているのは広島特有の盆飾り。暑い夏の広島の、いつもの風景。

祈りを捧げるために来た人々はその後も増え続け、やがて八時十五分。これほど多くの人が集まっていながら、何とその瞬間の静かだったことか。

静寂がほどけた後に三浦さんが連れて行ってくれたのは、引き取り手のない遺骨が納められている原爆供養塔でした。三浦さんは子供の頃、原爆の日に戻って来なかったお祖父(じい)さんと伯母(おば)さんの遺骨を探すために、ここに来たことがあるのだそう。

原爆ドームの前の元安川(もとやすがわ)では、毎年8月6日の夜、とうろう流しが行われている。原爆が投下された80年前のこの日、爆心地に近いこのあたりでは、一瞬にして多くの人が命を落とし、元安川でも亡くなった。色とりどりのとうろうに犠牲者の鎮魂と平和への祈りを込めて、人々が川辺に集まる。

三浦さんと共に歩いた広島は、それまで私が知らなかったヒロシマでした。原爆が投下される前からこの地に流れ続けるすべての時間を愛おしむように、三浦さんは猛暑の中で夜明け前からシャッターを押し続けていたのであり、それは自身を育んだ地を抱擁しているかのような姿でした。

広島を撮る写真家・三浦憲治もまた、広島の一部。「ミウラヒロシマ」には、そんな広島が写っています。
(エッセイスト)

広島の”今”をとらえた写真展が広島と東京で開催されます

三浦憲治氏が撮り続けた広島の写真を、写真集『ミウラヒロシマ』として出版するのに合わせて、広島と東京、計9か所で写真展を開催します。会場によっては特大サイズの展示もあり必見です!

広島会場

広島PARCO
◉会期8月1日(金)〜10月13日(月)
◉住所 広島市中区本通10-1
問い合わせ hiroshima@parco.jp
*メイン会場である広島PARCOでの写真展と前後して、「広島市平和記念公園レストハウス」「おりづるタワー」「広島アンデルセン」「八丁座 ロビー」「ジュンク堂書店広島駅前店」の5か所でも三浦憲治氏の写真を展示します。
*会期は各会場にご確認ください。

東京会場

ギャラリー「AL」
◉会期7月28(月)〜8月10日(日)
◉住所 東京都渋谷区恵比寿南3-7-17
◉03-5722-9799

ギャラリー「@btf」
◉会期8月14日(木)〜9月6日(土)
*木・金・土曜のみ開催 
◉住所 東京都中央区勝どき2-8-19 近富ビル倉庫3階・3B
問い合わせ 03-5144-0330
*7月31日(木)〜8月11日(月)には、新宿の「ビームス ジャパン」(03-5368-7300)
4階にて写真展示と、特製「ミウラヒロシマ」Tシャツの販売を予定しています。
*各会場の会期は、変更になる可能性があります。

被爆八十年の年に「ヒロシマ」を意識し、考えるきっかけとなる写真集

三浦憲治氏が、2014年から毎年8月6日に広島に身を置き撮影した写真を含め、生まれ故郷広島の人々と対峙し、広島の”今”を切り取った写真108点を掲載する写真集。被爆80年となる本年夏、発売です。

『ミウラヒロシマ』
A4変形180ページ 定価4,950円(税込)
7月25日頃発売予定 小学館刊
詳しくは「ミウラヒロシマ」特設サイトへ!
https://dps.shogakukan.co.jp/miurahiroshima/

構成/橋本記一、高橋亜弥子
※本記事は『和樂(2025年8・9月号)』の転載です。
※本記事に掲載した写真の著作権はすべて三浦憲治氏に帰属するか、著作権者より許諾を得て使用しているものです。本記事の掲載内容の一部および全てについて、事前の許諾なく無断で複製、複写、転載、転用、編集、改変、販売、送信などの二次利用を固く禁じます。

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和樂web編集部

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