平安時代の名作RPG?「酒呑童子絵巻」
帝から勅命を受けた武将・源頼光(みなもとのらいこう)が、稀代の鬼・酒呑童子を退治する物語は、RPGさながらの展開を繰り広げます。
道中、神変鬼毒酒(じんぺんきどくしゅ)などの神アイテムを授かったり、美女の生き血や足の刺身を振るまわれたり。コミカルで個性豊かな眷属の鬼たちとの酒宴、最後は童子の首が飛ぶ残酷な描写を含め、妖怪もののエンタメ要素に満ち溢れています。人気があったのも頷けますよね。
お寺の本堂にイケメン酒呑童子を描いたぞ!
現代の創作でも「酒呑童子」は根強い人気を誇ります。私も2019年、新潟県・国上寺の本堂壁画「イケメン偉人空想絵巻」にて、酒呑童子をオリジナルの姿で描きました。
この壁画では、上杉謙信や弁慶と義経、良寛と並び、国上寺ゆかり五人の偉人が時空を超えて集うという設定です。
酒呑童子は大江山に住み、都で悪事を働いたというのが一般的な伝承ですが、その出自には多くの地方伝説が存在します。国上寺のある新潟県には、酒呑童子が越後国出身であったという興味深い伝承が残されています。
それによると、童子は分水町砂子塚に生まれ、幼名を「外道丸」といい、国上寺で稚児として修行していたとされます。外道丸……なんだか将来を暗示させるような凄いネーミングですよね。
酒呑童子は、才色兼備で超絶美少年だった?
そしてここが重要なのですが、外道丸は超・絶・美少年!だったそうです。国上寺に入山した際には姫君と見紛うほどの美しさに、僧たちがざわめいたといいます。
幼少期から才色兼備だった外道丸は、弥彦神社の神楽舞にも稚児として参加し、優雅な舞を披露。参詣する女人たちのハートを鷲掴みにしていたそうです。当時、女人禁制だった国上寺には、恋文が山のように届いたという逸話も残されています。
美貌ゆえに…酒呑童子は嫉妬され、酷い仕打ちにあう
しかしその美貌ゆえに……他の稚児から妬みを買った外道丸。ある夜、眠っている間に、非モテ稚児からその美しい顔に鬼の顔を落書き、いわゆる鬼メイクを施されてしまいます。目覚めた外道丸、鏡井戸に映る自らの顔が、恐ろしい鬼に変わっているのを見て愕然!
なぜだか洗っても洗っても鬼メイクは落ちず、哀れ外道丸は本物の鬼の顔となってしまいましたとさ……美少年だったのに(泣)。絶望した外道丸は寺を抜け、諸国を巡り巡って酒呑童子として大江山に住み着くようになったと伝えられています。
また別の説では、外道丸に恋文を送っても返事がなかった娘が絶望して命を絶ち、報われぬ情念が恋文より煙となって外道丸を包み、鬼に変えてしまったという怖すぎる展開も。
新潟の伝説は、酒呑童子の生い立ちを元来の悪ではなく、美しさゆえに妬みや情念に呑まれた人間の業と結びつけて語っています。モテすぎるのも罪ということでしょうか……。
酒呑童子、3歳から酒を飲み始めた?
一方、住吉廣行やその息子の弘尚の酒呑童子絵巻では、酒呑童子の幼少期の姿も描かれています。こちらも才色兼備ながら、なんと3歳から!呑み始めた酒好きが災いし、比叡山を追放されるまでの様子がユーモラスに描かれています。特に、宮中の「鬼踊り」イベントを企画し、7日で3,000枚の鬼面を作り上げるなど、アーティスト的な側面も描かれており興味深いです。
しかしそのご褒美として、久々に呑んだ酒で大酩酊!比叡山で大暴れして放逐されてしまうという……こちらは完全に自業自得ですね。
それにしても童子の人間時代のエピソード、いずれもどこか人間臭く、哀れみや(酒好きとしては)共感を感じてしまいます。
「酒呑童子絵巻」を所持する新潟のお寺に、研究者と同行
ところで国上寺には、伝・土佐光信筆「酒呑童子絵巻」三巻が寺宝として納められています。昨年、東京文化財研究所の江村知子さんとご一緒に、国上寺蔵の絵巻の調査に行って参りました。
江村さんによると、国上寺の絵巻はおそらく室町時代ではなく江戸時代のやまと絵の絵師だろうとのことですが、色鮮やかで繊細な筆致の、とても美しい絵巻でした。人物の顔は雅やかで、衣装や室内の表現は装飾的で入念に描かれています。金泥や金砂子が贅沢に使われており、もしかしたら元は越後の姫君の所有品だったのかもしれませんね。
現在は経年によるいたみもあり、宝物館で一部だけ公開されていますが、以前はご本尊ご開帳の折には、絵巻を広げての絵ときが行われていたようです。少しだけご紹介しましょう。
越後で生まれた超絶美少年「外道丸」が、さまざまな因縁を経て酒呑童子へと変わっていく――そんな「越後系酒呑童子絵巻」もいつか、手がけてみたいものです。
欲望の赴くままに……。
今、サントリー美術館で酒呑童子に会える!
実は今、江村さんもかかわった酒呑童子の展覧会が開催されています。サントリー美術館「酒呑童子ビギンズ」展です。館蔵の狩野元信筆「酒伝童子絵巻」、海を渡りドイツ・ライプツィヒで発見された住吉廣行筆の「酒呑童子絵巻」など、室町から江戸時代にかけて製作された数多くの「酒呑童子」作品群が展示されています。ぜひみなさんも足をお運びください!
参考文献:山田現阿著「絵巻 酒呑童子 越後から大江山へ」
取材・協力:国上寺、江村知子氏(東京文化財研究所)
酒呑童子ビギンズ/サントリー美術館
開催期間
2025年4月29日(火・祝)~6月15日(日)
会場
サントリー美術館
公式サイト
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2025_2/index.html
国上寺(新潟県燕市)
私、木村了子作の本堂「イケメン偉人空想絵巻」は現在も展示中!いつでもご覧いただけます。そして、国上寺のご本尊ご開帳は、来年、2026年の春に予定されております。新たな作品の展示も予定しておりますので、ぜひぜひ越後のイケメン酒呑童子にも会いに来てくださいませ。
酒呑童子の伝説が色濃く残る国上寺付近には、酒呑童子神社が地元有志により建立されています。毎年9月最後の日曜日に「越後くがみ山酒呑童子行列」と称したイベントが開催されていますので、ご興味ある方、是非ご参加してみてください!
https://event.tsubame-kankou.jp/sake/legend/#sec01_h4
木村了子 インフォメーション
【展覧会】
アートフェア出品
ART OSAKA 2025
大阪市中央公会堂(eitoeikoより)
https://www.artosaka.jp/
2025年6月6日(金)〜6月8日(日)