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2019.11.01

日本最大の公募展「日展」とは?どんな作品が展示されるの?楽しみ方を徹底解説!

この記事を書いた人

日本最大にして国内No.1の公募展「日展」。毎年、新作が登場する東京展が始まる日は、テレビや新聞などで取り上げられることもあるので、たとえ美術ファンでなくても「日展」という名前自体は知っている、という人は多いのではないでしょうか。

しかし、ゴッホやモネといった西洋美術の巨匠の美術展には並んで見に行くことがあっても、日展をじっくり見て回ったことがある・・・という人は意外に少ないような気がします。

僕も、会社を引退した父が数年前から日展での入選を目指すようになったことがきっかけで、そこからはじめて日展を見始めました。最初は「公募展なんてそんなにいい作品ないんじゃない?」と斜に構えていたのですが、じっくり見てみると出品作が粒ぞろいで、レベルの高さにびっくり。通常の美術展以上にたくさん開催される各種イベントも好感でした。それで「ああこれはちゃんと見ておいたほうがいいな」と思って、それ以来毎年通うようになりました。

そこで、今回は2019年も11月1日から開催される、今秋の「改組 新 第6回日展」について簡潔に紹介してみたいと思います。

そもそも日展ってどんな団体なの?

2018年東京展・展示風景(日本画)

日展は、明治40年(1907)に国主導の「官展」、つまり日本版「サロン」として始まった「文部省美術展覧会」=「文展」がその発祥です。発足時は、日本画・洋画・彫刻の3部で構成されていました。各部門で当時国内最高峰の芸術家達が出品を目指したため、明治期における日本の美術界に非常に大きなインパクトを残しました。

たとえば、第1回展の審査委員を見てみると、非常にゴージャスです。橋本雅邦、横山大観、下村観山、竹内栖鳳、川合玉堂、黒田清輝、岡田三郎助、和田英作、浅井忠、小山正太郎、中村不折、高村光雲、長沼守敬、新海竹太郎・・・等々、現在各地の美術館で作品が展示されている名だたる巨匠たちが審査員に名を連ねています。発足当時の「文展」の重要性がよくわかりますよね。

「古今絵画鑑賞評価便覧」尾崎晩雪 編(大正11年)洛陽美術社 国立国会図書館デジタルコレクションより引用 /文展作家を相撲に見立てた採点表&星取表なども出版されるほど、戦前の文展は注目されていました。

その後、文展は時代が下るにつれ「帝展」「新文展」と少しずつ組織・名称を変えながら存続。戦後となった1946年を機に、今と同じ「日本美術展覧会」=「日展」という名称に改められ、1958年には純粋な民間団体へと移行しました。2019年現在でも、日本最大の美術団体として美術界に大きな影響力を持っています。

2019年秋の日展について

2018年東京展・展示風景(彫刻)

日展でその年の新作が発表されるのが、毎年国立新美術館で10月下旬~11月上旬頃に行われる東京展です。今年度は、2019年11月1日~11月24日の3週間の間、日本画、洋画、彫刻、工芸美術、書の5部門にて、約3000点の新作が展示室に集結。その圧倒的な物量と非常にレベルの高い作品群を見ていると、まさに国内最高の公募展なのだな、と思い知らされます。実際、公募展の中では観覧者の動員数も桁違いに多く、昨年の東京展では約3週間の会期中、合計107,412名が来場しています。

展覧会は、東京だけでなく、その後国内の主要都市をゆっくりと半年以上かけて巡回予定。2019年度は、京都、名古屋、大坂、安曇野、金沢、長崎で楽しむことができます。東京展に来ることができない人でも、最寄りの会場まで足を運べば作品を観ることができるのは嬉しいですよね。あるいは、東京展で見逃した!という人も、別の会場に行くと再び作品に会えるわけです。

各部門の作品を紹介!

2018年東京展・展示風景(工芸美術)

2019年秋の展示に向け、各部門では作品審査が完了。たとえば、Twitterで「日展 入選」などと検索してみると、各作家たちが入選した喜びを報告しているツイートがたくさんアップされています。中には審査通知書の現物画像を投稿している作家もいて、審査過程の裏側をちょっと垣間見られる面白さもありますよ。

それでは、せっかくなので日展で入選を重ね、無鑑査で出品できる「会員」の中から、ベテラン中のベテランによる届いたばかりの2019年の「新作」を紹介しましょう。

奥田小由女「令和に明けゆく」(彫刻部門)

奥田小由女「令和に明けゆく」2019年 改組新第6回日展出品作

日展で現在理事長を務める奥田小由女(おくださゆめ)の作品。(日本画の巨匠、故・奥田元宋の奥様です)自宅の庭で、これまで一度も咲いたことがなかった椿が日当たりがよくなったことがきっかけで、2019年の春に一斉に赤く鮮やかに咲いたことから、「赤」に包まれる作品を着想したとのこと。そういえば夫の元宋も「赤」の名手でした。紅白の取り合わせも令和新年をお祝いするかのようですね。

中井貞次「旅の時空に」(工芸美術部門)

中井貞次「旅の時空に」 2019年 改組新第6回日展出品作

毎年出品される染織作品のモチーフには、20代、40代で巡った中東諸国やヨーロッパでの思い出がインスピレーション源になっているそうです。特にイランを中心に、西はギリシャ、東はインドまで、美大の在外研修員として1年がかりで4万キロにも渡るフィールドワークを行った20代後半での経験は、作家として自身のアイデンティティに決定的な影響を及ぼしています。

黒田賢一「梅花」(書部門)

黒田賢一「梅花」2019年 改組新第6回日展出品作

22歳で日展初入選を果たし、戦後生まれではじめて審査員に選出されるなど、若くして書道界のスターとなった黒田賢一。今年度の出品作は、万葉集の第5巻梅花三十二首の序文から引用。本作は「梅の花 今盛りなり百鳥の声の恋しき春来るらし」と書かれています。ダイナミックで独特なリズム感が感じられる一方、墨の濃淡や余白にも気が配られた繊細さも注目点。「絵画を観るような目でなんとなくいいな」と感じてもらえればいい、と語る黒田氏。気軽に楽しんでみたいですね。

橋本堅太郎「いのち」(彫刻部門)

橋本堅太郎「いのち」2019年 改組新第6回日展出品作

欄間彫刻が盛んな福島県二本松市出身で、木のぬくもりが感じられ、愛情・詩情豊かな作品が高く評価されている橋本堅太郎。日本近代彫刻の巨匠・平櫛田中(ひらくしでんちゅう)から直接指導を受けた最後の世代の一人。2008年まで務めた日展理事長を退いた現在でも、年間10点ペースで精力的に活動を続けている大ベテランによる、温かみにあふれた印象的な作品です。

鈴木竹柏「晨」(日本画部門)

鈴木竹柏「晨」2019年 改組新第6回日展出品作

2019年で101歳となる今も、年間10枚以上を精力的に描く現代日本画界最長老の一人。中村岳陵(なかむらがくりょう)に弟子入りし、19歳で院展に、25歳で新文展にそれぞれ初入選を果たすなど、これまで80年以上のキャリアを日本画一筋に捧げてきました。本作は、柔らかい空気感の中、霞んで見える穏やかな山々がモネの積みわらみたいで、印象派の作品に通じるような趣がありますね。非常に抽象化された造形から、色々なものを連想して楽しむのも面白そう。

たくさんあるので、宝探し感覚で楽しむのもあり!

全5部門で約3,000点もの作品が出品される日展。たとえば1点1分ずつじっくり鑑賞したとしたら、全部観終わるのに50時間もかかる計算となり、まるで耐久レースか滝修行をしているような感じになってしまいます。さすがに絵が好きでもそこまではできないですよね。

そこで僕が編み出した日展ならではの鑑賞法を、2つご紹介します。

まずひとつ目は、「気になった作品に絞って観ていく」。現実的に、全作品に対して均一に力を入れて観ることはできませんよね。だから、ここは思い切ってメリハリをつけた鑑賞が有効です。会場をザーッと歩いて何周か回っていく中で、瞬間的に自分の目に飛び込んできた作品に絞って、特にじっくり観ていくと良いでしょう。3,000点もの作品が集まっているのですから、そのうちの何点かは自分のアンテナや嗜好にぴったりの作品がみつかるはず。そして、そうした「光っている」作品は、向こうからあなたの目の中に飛び込んできてくれます。自分のアンテナを信じて、「宝探し」的な面白さを味わってみてくださいね。

もう一つのオススメは、「テーマ」を決めて見て回る鑑賞法です。たとえば昨年度、僕がプレス内覧会(撮影OKでした)で作品を拝見した時は新たな美人画の名手がいないか「美女」に注目して展示室を回ってみました。

するといるわいるわで大収穫(笑)気になる作家の名前をその場でしっかりとスマホ上のメモに書き留めておいたので、今年無事にまた同じ作家の美人たちと再会できるかどうか楽しみにしています!それ以外にも、たとえば「水のある風景」「紅葉」「静物」「ネコ」などモチーフ別に注目して作品を見ていくのもいいですね。

イベントやお得なチケットもあります。ぜひ気軽に楽しんでみて下さい!

「わくわくワークショップ」の様子。親子で参加する鑑賞と制作体験イベント。日展作家が直接指導してくれます!

日展の凄いところは、期間中に開催される、バラエティに富んだ様々なイベント。期間中、トークイベント、ワークショップ、出品作家と一緒に回れる「らくらく鑑賞会」、一人からでも解説を受けられる「ミニ解説会」、彫刻に触って鑑賞できる「『触れる鑑賞』プロジェクト」など非常に充実しています。

ミニ解説会(会期中の平日限定開催)。平日に開催され、1名からでも参加可能。少人数なので、質問もしやすいです!

また、午後4時から午後6時までの夕方限定チケットなら、一般400円/高・大学生300円とワンコイン以下で入場できる思い切った割引サービスもあります。会社帰りに気軽にリピートできるのも嬉しいですね。ぜひ、自分だけの楽しみ方をみつけていってくださいね。

展覧会基本情報

展覧会名:「改組 新 第6回日展」
会期:2019年11月1日(金)~24日(日)
会場:国立新美術館(〒106-8558 東京都港区六本木7丁目22-2)
展覧会公式HP:https://nitten.or.jp/

書いた人

サラリーマン生活に疲れ、40歳で突如会社を退職。日々の始末書提出で鍛えた長文作成能力を活かし、ブログ一本で生活をしてみようと思い立って3年。主夫業をこなす傍ら、美術館・博物館の面白さにハマり、子供と共に全国の展覧会に出没しては10000字オーバーの長文まとめ記事を嬉々として書き散らしている。