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2020.11.20

スマホの傷よさらば!100均グッズで試して「脱金具」ストラップを作ってみた

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大ヒットアニメ映画「君の名は。」公開が2016年。映画内で重要アイテムとして登場した組みひもが話題になり、100円ショップのダイソーが「組みひもメーカー」を発売していたそうです(知らなかった!)。

そういえば以前、三重県に旅行したとき、金具のない組みひもストラップを買いました。一般的なストラップだと、持ち歩き中に金具が肝心のカメラやスマホの本体などとこすれて傷になる。金具のない、いにしえのひもこそ人体やスマホなどのガジェットに優しいイノベーションなのでは!?

日本古来のひも文化に注目し、あらゆる結び技術を総動員して、ネックレス、ストラップなどの脱金具を目指すことにします。

便利な材料ながらにっくきアイツ(金属)

ウサギ雑誌のフォトグラファーがウサギアレルギーに、蕎麦職人が蕎麦アレルギーに、鳥のトレーナーが鳥アレルギーになど、ある日突然発症するのがアレルギー。

わたしは金属アレルギー。ピアスやネックレスはニッケルフリーなどの金属アレルギー対応のものでないと、肌がカユカユです。懲りずに、ときどき衝動買いしては「もしかして大丈夫かも?」とつけてみるとやっぱりダメ。出番がなくなったアクセサリーが山積みです。

にっくき金属には、別の場面でも悩まされています。それは、カメラやスマホの傷。

金具とカメラの角がこすれて傷ができています

市販のストラップにはたいてい金属パーツがついています。アクセサリーほど肌に密着しないため、金属アレルギーの症状が出ることはありませんが、持ち歩くうちにカメラやスマホとこすれて傷ができるじゃないか!

ないなら作るしかないのスピリット

頭からかぶれるほど長いロングネックレスなら金具で留めなくてもいいのに、これにもたいてい金具がついています。高級感が出るからでしょうか。

その金具部分もぜひパールにしてくれないか……といつも思う

根付風キーホルダーもこんな感じ。知らずのうちにこすれて傷が!

それから、カメラやスマホのストラップも素材全部、シリコンやナイロンなどでいいのに、やはり金具がついていることがほとんど。ねえねえ、設計者は傷が気にならないの?

金具でなくプラスチックの留め具を使ったストラップ(右)や、三重県で見つけた組みひもストラップ(左)。全部これがいいな!

江戸・東京に組みひもが? 浅草桐生堂に聞く

ないなら作るしかないの精神です。ヒントは、日本古来の伝統工芸である組みひもです。明治期に洋装が普及しはじめ和装は廃れ、それに伴い組みひもも存在感が薄れてしまって……はいませんでした。

ここは浅草。仲見世通りに並行し、北は伝法院通り東商店会に通じるメトロ通りに、江戸組みひもの製造販売を行う「浅草桐生堂」があります。創業は明治9年という老舗です。1階がショップ、2階が工房となっており、四代目当主と五代目のほか、通いの職人さんなどが組みひも制作をしています。

四代目の羽田眞治さんにお話を聞きました。

――江戸、東京にも組みひもがあるんですね。

羽田さん:人間は蔓(つる)や草、蛾の吐く糸などの自然の素材を撚(よ)ったり、組んだり、編んだりして利用してきました。そのひとつがひもです。複数の糸を組み合わせた組みひもは奈良時代に仏教とともに伝来したとされ、京都で発達し、伊賀(三重県)などにも伝わりました。江戸幕府開府後は、武士の町である江戸で刀を飾る下緒(さげお)などの需要が増えて、産業として盛んになりました。

職人はこの「丸台」という専用の道具に糸を渡して組んでいきます

――こちらのお店には、どんな歴史があるのでしょうか?

羽田さん:初代の出身地が群馬県の桐生市のため、桐生堂という屋号になりました。着物の帯締めや落語家さんの羽織紐など、和装に使うもののほか、居合道で使う刀の下緒や根付などの小物もたくさん扱っています。

――確かに日本人はひもでぶら下げる小物が大好きですよね。江戸では捕り物「十手」や相撲の行事が使う軍配、現代ではスマホストラップなど。浅草桐生堂で、細めの組みひもと、ナイロン芯入りのコードを購入し、取材と材料調達は終了!

まずは手を動かす! 制作スタート

ウワサのダイソー製組みひもメーカー、もうほとんど売っていないんですね。それでも10軒ほど回った結果、売れ残った四角形の組みひもメーカーを奇跡的に発見し、刺繍糸やレース糸(レース編み用の糸)などとともに買ってきました。

もし、やってみたい方がおられたら、糸は100円ショップや手芸店で買える刺繍糸が手軽でよさそうです(職人は絹糸を何本も束ねて使います)。刺繍糸は何本か合わさり1束になっていますが、その束を1本の材料糸として組んでいきます。レース編み用に市販されている糸も使いやすいです。太さはお好みでどうぞ!

平たく編む平打ち用しか売っていませんでした。丸く編むものはおそらく完売

ダイソー製組みひもメーカーをちょっと使ってみましたが、クセがあります。糸を引っ張る力を均等にするなど、習熟し編み目(組み目)を美しくそろえるには時間がかかりそうなので、これはひとまず終了。

それより、浅草桐生堂で教わった「四つ組み」が使えそう。三つ組み(三つ編み)では野暮ったいけど、四つ組みだと、こなれた華やかさがあります。四つ組みは、その名の通りに、4本のひもで組む技術。4本のひものうち、左端の糸を2本隣のひもの下に組み入れ、右端の糸を2本隣のひもの下に組み入れ……という動作を繰り返します。YouTubeなどに丁寧な説明動画があり、非常に参考になりました。

四つ組みのおかげで「脱金具」に成功!

組みひものような手芸は書籍では習得が難しく、また職人による一子相伝的な部分もありますが、YouTubeなどの動画サイトのおかげで身近になっているようです。便利な時代です。

そんなわけでできあがったのが、以下です。

右から、四つ組みで編んだだけの組みひも(風)ブレスレット。組みはじめは「わ」にして、組み終わりはお釈迦様の髪をイメージした「釈迦結び」で、これらが留め具代わり。右から2、3番目は、ネックレスの金具とチェーンを取り外し、両端から四つ組みのひもを編んでチェーン代わりに。左はコンパクトデジカメのネックストラップで、その下はミラーレスカメラのレンズキャップのストラップ(両端が「わ」になっている)

カメラのストラップの制作手順はおおまかに、以下の感じ。

【1】組みひもの両端を合わせ、ナイロン芯入りコードを組み合わせる。
【2】組み合わせ部分を縫い糸できつく縛り、合わせ目をかがる。
【3】かがり目をボンドで補強し、かがり目を隠すように結び目を作る。

ピンクのひもは、ミラーレスカメラのレンズ紛失防止用です。本体は四つ組みで4本の糸を使いますが、両端は1本だけを「わ」にしました。糸の端は、ボンド補強と結びを組み合わせながら適当に処理(笑)。

ちなみに、著名な写真家の土門拳氏は、組みひもでカメラストラップや露出計のひもをあつらえたらしい。革ひもよりも滑りにくく、服装に合わせてコーディネートできることが気に入っていたようです。

ないなら作ろう! 用の美はそこにある

最初はおっかなびっくりでも、だんだん手が動きを覚えて、四つ組みなら手元を見ずにできるようになりました。浅草桐生堂さん直伝の技術を取り込みつつも、自己流にアレンジしたり、ズボラをしたりで仕上げた作品を見てはニヤリ。処理の甘さなどはありますが、自分用なのでこれで十分。

売っていないから自分で作る……自分のイメージに合わせてさまざまな技術や材料を組み合わせて創作することは、芸術以前の「ものづくり」の楽しさかも。結びや組みの技術を駆使して、糸やひもの形を変幻自在に変えることに、原始的でシンプルな喜びを感じました。日本だけでなく、世界に目をやれば東アジアのアジアンノット、アラビアの房結びから発達したマクラメなど、さらに果てしないひも文化。自然素材からひもを作り、ものを結んだり、飾り結びをしたりといった営みに感嘆を禁じ得ない。

■取材協力=浅草桐生堂
東京都台東区浅草1-32-12
03-3847-2680
https://kiryudo.co.jp/

書いた人

出版社勤務後、編プロ「ミトシロ書房」創業。著書に『入りにくいけど素敵な店』『似ている動物「見分け方」事典』など。民謡、盆踊り、俗信、食文化など、人の営みや祈りを感じさせるものが好き。四柱推命・易占を行い、わりと当たる。