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Craft
2019.12.13

新品同様に復活?中古の柳刃包丁の修復レポート!刺身がスッと切れる快感を味わおう

この記事を書いた人

柳刃包丁で刺身を切る。正直、現代人にはあまり縁のない行為だ。

スーパーマーケットに行けば、綺麗にカットされた刺身がパック詰めで並べられている。もちろん、その光景があること自体はいいことだ。昔と違い、現代は飢饉で餓死する心配はない。小売店に行けば、いつでも可食状態の食品が置かれている。それに対して文句をつける人はそうそういないだろう。

ただ、いや、だからこそ「自分で食材を切る」という行為を見直してみるのはどうだろうか。

ボロボロの刃、曲がったブレード

筆者は子供の頃から刺身が好きだった。

割と早い時期から醤油にワサビを入れていたと思うし、そもそも筆者は醤油を小皿に入れ過ぎるきらいがある。これはちゃんと自覚している。おかげで「もう少し塩分を控えたら?」と周りに指摘されてしまうほどだ。

それはともかく、今回は刺身の話である。

たまには自分の手で、ブロック状の魚の切り身から刺身を作ろう。しかし、それをするための適当な包丁がない。筆者の部屋にあるのは肥後守やらオピネルやら鉈やら鉞やらボウイナイフやらで、料理用途の包丁というものは実はあまり置いてないのだ。この前研いだ出刃包丁で刺身を作れないこともないが……。

仕方ない、買うか。だが、普通に新品を買っても面白くない。ここはネットオークションで錆包丁を取り寄せ、それをリユースしてしまおう。

ということで、筆者はこのようなものを購入した。柳刃包丁であるが、刃はところどころ欠けている。特に柄に近い部分の刃が、かなり大きく欠損していた。ブレードも曲がっている。今回は、これをどうにか使える状態まで直してみたい。出刃包丁の時にもやったことだが、ナイフをリユースすることで具体的な構造や機能を考察することもできる。

柄を自作してみた

さて、今回の柳刃包丁は柄がついている。

錆包丁の場合、まずは柄を落とさないといけない。中のタングが赤錆びているはずだからだ。思った通り、見事に錆びついている。これをヤスリがけで綺麗にする……という手法は今回は採らない。代わりに、錆転換剤を使って赤錆から黒錆にする。黒錆は鋼材表面を保護する役割を果たす。場合にもよるが、錆は完全に落とすよりもそれを活かす方法が存在する。

こうしてタングの錆の問題は解決したが、次は新しい柄を用意しなければならない。これはAmazonで売っている。しかし、その選択肢では前回の出刃包丁と流れが同じになってしまう。

だから、柄は自作してしまおう。筆者が採用したのは、3枚重ねの木材を削り出す工法。コンシールドタングの柄に近いやり方だ。正統的な和包丁のリユースではないというのは重々承知しているが、別にそれを販売するわけではない。自分のためだけに使うものだから、自分の好きにやらせてもらう。ボンドとパテで内部を固め、接着する。これが硬化したら、木材の上下左右から上手いこと削って形成してやる。その際に使うのは、これだ。筆者の切り札、ディスクグラインダー。金属の切断から木材の研削までこなせる文明の利器である。これを使って、自分が持ちやすい形に柄を削って削って削りまくる。柄の側面、木材同士の隙間をパテで埋めているから、正直見栄えは良くない。だが、今回はこれで許していただきたい。時間に追われつつ迷走しながら作業した、というのが本当のところだ。フリーライターも楽な仕事ではない。その代わりというわけではないが、柄に明確なポメル(柄頭)をつけてみた。この部位は、いざという時には武器として利用できる。もしも長髪の美食家のオッサンが「この刺身を作ったのは誰だぁっ!」と怒鳴り込んできた際、ポメルでガツンと迎撃してやることができるわけだ。

こういう工夫も、料理包丁には大事である。

何度も研ぎ直し……

ここからが正念場だ。ボロボロの刃を研がなければならない。

ブレードの歪みだが、これは案外簡単に解決した。万力を使って歪みを直すことに成功したのだ。無理に作業すると亀裂が出ることもあるが、その辺の問題は幸いにも発生しなかった。さあ、刃を研いでいこう。今回の柳刃包丁はかなり素材を硬くしていたため、それを研ぐのにかなりの時間がかかってしまった。あの虫食いのような欠けの部分は、ディスクグラインダーを使って修正。そこから120番の砥石に刃を垂直に立て、並びを整える。無論、この時点で包丁の刃は完全になくなっている。エッジラインを綺麗に修正し、その後いつもの角度で研削開始。

この作業を一言で表現すると、辛かった!120番、240番、400番、1000番という具合に順序を守って研いでいくのだが、何度120番からやり直したことだろうか。おかげで1日が潰れてしまった。が、その甲斐はあったと思う。何とかここまで持って行くことができた。写真を並べてみると、研ぐ以前と以後とではだいぶ違う。

問題は、筆者の苦心のエッジが機能を果たすか否かということだ。

魚を切ってみよう!

今回用意した食材は、ビンチョウマグロのブロック。これをリユース間もない柳刃包丁で切っていく。自分でも美しいとは思えない、パテだらけの柄の柳刃包丁。これが今の筆者の全力である。こういう部分は、とても見栄を張れるものではない。

だがそれでも、作業していて楽しかったとは胸を張って言うことができる。確かに辛かったが、その分だけ前回の出刃包丁より充実していた。そう思えただけでも、今回のナイフリユースは良しとしたい。幸い、切れ味に支障はない。完璧ではないものの、この程度であれば日常使う分には問題ないだろうというレベルだ。それに、柳刃包丁はブレードの端から端を使うことで恐ろしいまでの切れ具合を発揮するものだと、筆者は実感することができた。

板前は、普段からこんな凄いものを扱っているのか……!

引き切りの技術

柳刃包丁は「引き切りの極致」かもしれない。

力のある者が食材を無理やり押し切ろうとすると、食材の繊維が崩れて味が変わってしまうという。一方、引き切りは力ではなく技術の問題だ。長年磨いた技術があれば、魚の身の繊維を崩すことなくそれをカットすることができる。

引き切りを追求したからこそのブレードの長さは、時として見た者に恐怖を与えてしまう。「こんな長い包丁、危なっかしくて扱えない!」と。しかし、それは誤解だ。柳刃包丁を手に取って分かる意外な使いやすさと便利さは、とても文字だけで表せるものではない。

筆者はこの記事を通じて、ぜひ一度本物に触れてみることをお勧めする。

書いた人

ノンフィクションライター、グラップリング選手、刀剣評論家。各メディアでテクノロジー、ガジェット、ライフハック、ナイフ評論、スタートアップビジネス等の記事を手がける。