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2019.12.18

広重の降りしきる“雨”ときらめく“しずく”を表現したダイヤモンドジュエリー

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叙情豊かな風景版画で名高い江戸時代の絵師・歌川広重(うたがわひろしげ)。日本中、あまたの名所を描いた広重が、生涯にわたり愛してやまなかったのが、生まれ育った江戸の景色でした。最晩年に版行された「名所江戸百景」では、そうした江戸の名所を、自らの画業の集大成といわんばかりにさまざまなテクニックを駆使して描いています。

その「名所江戸百景」のなかでも傑作として知られ、アメリカのフリーア美術館も所蔵する木版画「大はしあたけの夕立」は、降りしきる“雨”を無数の直線で大胆に描写。その斬新な表現方法は、ヨーロッパの画壇に衝撃を与えました。

【連載】日本美術とハイジュエリー 美しき奇跡の邂逅 第12回 CARTIER

一方、自然から多大なインスピレーションを得てきた宝飾デザインの世界においても、“雨=水”は重要な題材のひとつ。雨をきらめく“しずく”でモダンに表現した「カルティエ」のダイヤモンドジュエリーは、その代表的なものといえるでしょう。同じ雨が、直線と曲線、黒と白、力強さと優美さといった対極の美で表現される面白さ。そのコントラストが両者の魅力を一層際立たせます。

圧倒的な輝きを生み出すセッティングの妙法

「プリュイ ドゥ カルティエ」ブレスレット[ダイヤモンド計11.91ct×WG]¥16,200,000(カルティエ)※文中のWGはホワイトゴールド、ctはカラットを表します。

先端を尖らせた楕円形のマーキースとしずく形のペアシェイプの台座に、ブリリアントカットのダイヤモンドを数個ずつセッティング。それを交互に連ねて、圧倒的なきらめきを放つブレスレットに。すべてのダイヤモンドを最高に輝く角度で石留めした、シンプルなようでこだわり抜いたデザイン。色の濃淡や線の幅によって雨足の強さまでも表現した“雨に”、至高の技を極めた彫師(ほりし)と摺師(すりし)の矜持が宿る。

すべてのパーツが動く巧緻な仕事が光を味方に

「プリュイ ドゥ カルティエ」イヤリング[ダイヤモンド計4.35ct×WG]¥6,300,000(カルティエ)

無数の斜線で構成され“動き”を強調した歌川広重の“雨”。この「カルティエ」のイヤリングもすべてのパーツが動き、ダイヤモンドに取り込まれた光をまばゆい輝きに変えて放つ。ダイヤモンドは光とともにある宝石で、身にまとう人が光のなかで動いてこそ、その本領を発揮できる。

輝きの連鎖から生まれる想像を超えた華やかさ

「プリュイ ドゥ カルティエ」リング[ダイヤモンド計4.50ct×WG]¥5,268,000(カルティエ)

ペアシェイプの台座に6石、マーキースシェイプに4石のダイヤモンドをあしらったリング。大小のダイヤモンドから放たれる光が、隣接する石に取り込まれては再び放たれ、表情豊かな輝きを生む。そうしたこだわりは、繊細な色と“ぼかし”の技を探求し続けた広重の木版画を思わせる。

優美な光をまとった幾何学的でモダンな意匠

「プリュイ ドゥ カルティエ」ネックレス[ダイヤモンド計2.20ct×WG]¥3,156,000(カルティエ)

ペアシェイプをシンメトリーに配した、幾何学的なデザイン。アールデコの先駆者として知られる「カルティエ」ならではのモダンデザインでありながら、その印象は極めてエレガント。モチーフを繋ぐワイヤーは、正面からは細くて目立たず、光のしずくが胸元に浮き上がって見える。

CARTIER公式サイト

ヨーロッパに衝撃を与えた歌川広重の斬新な“雨”

19世紀後半、フランスを席巻した芸術運動「ジャポニスム」によって、一世を風靡した日本の浮世絵と、パリの宝飾メゾンの意外な接点とは?

伝統を継承するコレクションの数々

19世紀半ばからヨーロッパ各地で開催された万国博覧会を機に、日本の美術品や工芸品を知った欧米の人々は衝撃を受け、やがてフランスでは「ジャポニスム」と呼ばれる日本趣味が注目を集めます。葛飾北斎や歌川広重、喜多川歌麿などによる多色刷りの木版画は、その大胆な構図と鮮烈な色彩でパリの芸術家たちを魅了。クロード・モネやフィンセント・ファンゴッホをはじめ、多くの偉大な画家に影響を与えました。

今回取り上げた「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」は、広重の木版画作品のなかでも傑作と名高く、アメリカのフリーア美術館にも所蔵されています。

「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」歌川広重 大判錦絵 34.9×324.1cm 1857年・江戸時代 フリーア美術館Freer Gallery of Art,Smithsonian Institution,Washington,D.C.;Gift of Alan,Donald,and David Winshow from the estate of William R.Castle,F1994.29

自然に対する広重の細やかな観察眼が発揮されたこの作品は、“雨”の表現を可能にした彫師と摺師の技も見どころといえるでしょう。

一方、「カルティエ」の“しずく”をモチーフにしたジュエリーは、水のきらめきをダイヤモンドから放たれる輝きで表現しています。

19世紀後半、やはりジャポニスムの影響を受けた「カルティエ」は、日本の浮世絵をはじめ、きもの地の染めに使われる型紙を数多くコレクションし、ジュエリーデザインに生かしていました。今回の「プリュイ ドゥ カルティエ」コレクションの優美でいて幾何学的な意匠は、その時代の伝統を継承しているのかもしれません。

フリーア美術館とは? 1年にわたり開催される注目の「葛飾北斎展」

アメリカ・ワシントンD.C.のフリーア美術館では、2019年11月23日から翌年11月まで約1年間にわたり、日本ギャラリー全4室にて、「葛飾北斎展 Hokusai:Mad about Painting」を開催します。

フリーア美術館の創設者チャールズ・ラング・フリーアは、北斎の肉筆画に早い時期から関心を寄せ、肉筆画92点、素描124点を蒐集。すべてを同館に寄贈しました。現在、フリーア美術館は、北斎の世界最大の肉筆画コレクション有しています。

「雷神図」葛飾北斎 紙本着色、掛幅 129.9×53.8cm 1847年・江戸時代 フリーア美術館 Freer Gallery of Art,Smithsonian Institution, Washington,D.C.;Gift of Charles Lang Freer,F1900.47

そうした作品の一部は2006年、隣接するサックラー美術館の「北斎展」で紹介され、国内外で高い関心を集めました。

それから10年以上、北斎に関する研究はさらに進み、今回はフリーア美術館での開催が決定。世界が注目する同館の北斎コレクションの全貌が初めて明かされます。

◆フリーア美術館
住所:1050 Independence Ave SW,Washington, DC 20560, U.S.A.

公式サイト

ー和樂2019年・2020年 12・1月号よりー
※商品の価格はすべて掲載当時のもので、変更されている可能性があります。表記は、本体(税抜き)価格です。
※掲載されている商品は、現在購入できない場合があります。

文/福田詞子(英国宝石学協会 FGA)・吉川純(本誌)
協力/フリーア美術館
撮影/唐澤光也

【連載】日本美術とハイジュエリー 美しき奇跡の邂逅