日本原産の艶やかな花「椿」をモチーフにしたハイジュエリー

日本原産の艶やかな花「椿」をモチーフにしたハイジュエリー

日本美術と世界のトップジュエラーのハイジュエリー─。一見、まったく接点のない組み合わせのようですが、そこには両者を繫ぐ“美の符合”が存在しています。たとえば、それは時代を超えて受け継がれてきた普遍のモチーフやフォルム、そして息をのむほどに美しい色彩の調和など…。

この連載では、世界一の日本美術の殿堂といわれるアメリカ・フリーア美術館の協力のもと、日本美術の名作とハイジュエリーの、かつてないコラボレーションが実現! 初回を飾るのは、万葉集にも詠まれた日本原産の名花、「椿」をモチーフにした作品です。

【連載】日本美術とハイジュエリー美しき奇跡の邂逅 第1回 CHANEL

18世紀、ヨーロッパに伝わった「椿」は「カメリア」と名づけられ、その艶麗な美しさで貴婦人たちを魅了しました。20世紀を代表するファッションデザイナー、マドモアゼル・シャネルもその花に魅せられたひとりです。彼女が生涯を通して愛した「カメリア」の花をモチーフにしたハイジュエリーと江戸琳派の天才絵師、鈴木其一(すずき きいつ)が描いた「椿図屛風」。両者の“奇跡の邂逅”を通して、そこにある〝美の符合〟をひもといてまいりましょう。

デザインとフォルムをモダンに強調する黒の線

“カメリア コレクション”ブローチ[ダイヤモンド計10.86ct×ブラックスピネル計5.78ct×WG]参考価格¥17,750,000(シャネル)※文中のWGはホワイトゴールド、ctはカラットを表します。

マドモアゼル・シャネルが愛した八重咲きの西洋椿をモチーフにした“カメリア コレクション”。ブーケのようなブローチは、斬新な構図に大輪の「椿」が咲き乱れる江戸琳派(りんぱ)の名作「椿図屛風(つばきずびょうぶ)」を思わせる華やかさ。ブラックスピネルの曲線が軽やかさを演出し、モノトーンの輝きがブローチのモダンな意匠を際立たせます。

まばゆい輝きをまとって手元を彩る一輪の花

“カメリア コレクション”リング〈右〉[ダイヤモンド計4.62ct(センター1.05ct)×WG]参考価格¥7,075,000・〈左〉[ダイヤモンド計2.75ct(センター1.01ct)×WG]参考価格¥6,950,000(シャネル)

幾何学的な意匠へと昇華された「カメリア」の花は、単純なようで完璧な曲線を描き、まばゆいダイヤモンドの輝きをまとったリングに。一方、天才絵師・鈴木其一もまた、花の特徴を巧みに捉え、シンプルな線で「椿」を鮮烈に描きました。

淑女の美意識を継承するシークレットウォッチ

“カメリア コレクション”ジュエリーウォッチ[ダイヤモンド計5.34ct×アコヤパール×WG、クオーツ]参考価格¥11,600,000(シャネル)

女性が人前で時間を確かめることがはしたないといわれた時代に誕生した、ブレスレットと見紛うシークレットウォッチ。「カメリア」の花の中央を回転させると時計が現れます。時代のニーズから生まれた“用の美〟としてのジュエリーは、人々の暮らしを豊かに彩ってきた琳派の美術工芸品を彷彿させます。

「椿」の枝を彷彿とさせる優雅なヘッドジュエリー

“カメリア コレクション”ヘッドジュエリー[ダイヤモンド計4.89ct×ホワイトセラミック×WG]参考価格¥4,875,000(シャネル)

鈴木其一が代表作「椿図屛風」のなかでこだわった、絢爛(けんらん)たる金箔地と純白の花が織りなす大胆かつ洗練されたコントラスト。枝に咲く「椿」を再現したかのような「シャネル」のヘッドジュエリーも、セラミックとダイヤモンドの素材の対比によって可憐なデザインが驚くほどモダンになりました。

CHANEL公式サイト

西洋へ渡り艶麗な意匠へと昇華した日本生まれの格調高き「椿」の花

今回、日本美術とハイジュエリーを結びつける“符合”として着目した「椿」の花。それは古くから日本人に愛され、冬に咲く数少ない花であることから、茶花としても重宝されてきました。そんな格調高き「椿」にまつわる物語を、日本とヨーロッパ、東西の視点からご紹介いたします。

「巨勢山(こせやま)の つらつら椿 つらつらに 見つつ偲はな 巨勢の春野を」

万葉集には、701年に坂門人足(さかとのひとたり)によって詠まれたこの歌を含め、全部で9首の「椿」の歌が収められています。日本原産の花である「椿」は、古くから日本人に愛されてきました。

「椿」は室町中期から彫漆(ちょうしつ)や螺鈿(らでん)の題材として多く見られるようになり、豊臣秀吉は茶事に「椿」を好んで用いました。そして、江戸時代になると園芸趣味が流行。二代将軍・徳川秀忠が「椿」の品種改良に力を注いだことから好事家(こうずか)たちの間で大ブームに。とうとう文化人らによって、「百椿図(ひゃくちんず)」という美しく描かれた一種の椿図鑑のようなものまで誕生します。

琳派をはじめとする日本美術の絵師たちにとっても「椿」は格好の題材となり、多くの名作が誕生しました。江戸琳派の絵師・鈴木其一も、「椿」の名作を残したひとり。明治維新後、海外に渡り、ワシントンD.C.のフリーア美術館の所蔵品となった「椿図屛風」は、彼の代表作といえます。

「椿図屛風」 鈴木其一二曲一双 紙本金地着色152.0×167.6㎝19世紀・江戸時代フリーア美術館 Freer Gallery of Art, Smithsonian Institution,Washington, D.C.: Purchase―Charles Lang Freer Endowment, F1974.35

その一方で、18世紀にヨーロッパにもたらされた「椿」は、学名「カメリア・ジャポニカ」と命名され、19世紀に入ると園芸観賞用の植物として広まっていきました。西洋好みに華やかに改良された「椿」は、貴婦人たちの間で人気を博します。そのイメージは、1848年に発表されたアレクサンドル・デュマ・フィスの小説で、のちにヴェルディがオペラ化した『椿姫』のヒットによって、すっかり官能的なものに。

そんな状況が変化したのは1920年代のこと。伊達男たちがジャケットの襟のボタンホールに「椿」を飾るようになったのです。マドモアゼル・シャネルはその流行にインスパイアされたのかもしれません。彼女が「カメリア」の花をシンボルとしたことで、西洋においても「椿」は艶やかでいて格調高い本来のイメージを取り戻すことができました。
 
最も日本的な花である「椿」と、一方で「シャネル」を代表するデザインモチーフとなった「カメリア」の花。可憐かつ華やかな“美の符合=椿”は、今、洋の東西を超えて非常に興味深い“奇跡の邂逅”を果たしたといえるでしょう。

フリーア美術館とは? 世界一の東洋美術の殿堂はいかにして誕生したのか

アメリカのワシントンD.C.にある「フリーア美術館」は、世界一の“日本美術の殿堂〟として知られています。創設者はデトロイトの実業家であったチャールズ・ラング・フリーア氏で、その私財を投じて東洋美術の収集を始めました。


ワシントンD.C.の中心に位置するナショナル・モール(国立公園)を取り囲むように立ち並ぶスミソニアン博物館群。「フリーア美術館」はその一角に厳かに佇んでいます。

明治から大正にかけて日本を訪れたフリーア氏は、まだ“琳派”という言葉すら存在していないころ、俵屋宗達の絵に着目。西洋で宗達、さらには“琳派”が注目される中心的な役割を果たした人物といわれています。1904年、フリーア氏はその膨大な東洋美術のコレクションを国立スミソニアン協会へ寄贈することを決意。建築家チャールズ・プラット氏に建物の設計を依頼します。

1919年、その完成を見ることなくフリーア氏は亡くなりますが、4年後の1923年に同美術館は開館。2千点を超える日本美術のコレクションのなかには、日本にあれば間違いなく国宝であったといわれるものも多く、琳派の名作も数多く所蔵されています。

◆フリーア美術館
住所:1050 Independence Ave SW,Washington, DC 20560, U.S.A.
公式サイト

ー和樂2018年2・3月号よりー
※商品の価格はすべて掲載当時のもので、変更されている可能性があります。表記は、本体(税抜き)価格です。
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文/福田詞子(Gem-A FGA)
協力/フリーア美術館
撮影/唐澤光也

【連載】日本美術とハイジュエリー 美しき奇跡の邂逅

日本原産の艶やかな花「椿」をモチーフにしたハイジュエリー
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