メティエダールの殿堂「le19M」の代表的なメゾンダールのひとつが、1950年代、金細工師のロベール・ゴッサンスによって創設された「ゴッサンス」です。古代の装身具やビザンチン、ロマネスク、バロックなどの芸術様式からインスピレーションを得た、ゴッサンスのコスチューム ジュエリーは、20世紀を代表するファッションデザイナーたちを魅了。彼らとの協働によって、ゴッサンスはパリのクチュール界に新たな美意識と価値観をもたらし、その名声を高めていきました。
なかでも1953年のガブリエル・シャネルとの出会いは、ゴッサンスにメゾンダールとして揺るぎない地位と、創作のインスピレーションをもたらします。一方、シャネルにとっても、ゴッサンスのコスチューム ジュエリーは、スタイルを完成させるうえでいつしか欠かせないものとなっていきました。両者によるコラボレーションは、1953年から彼女が他界する’71年まで続き、現在もふたつのメゾンは特別な関係であり続けています。
模型制作から鋳造、彫金、鍍金、石のセッティング、研磨まで、すべての工程を職人が手作業で1点ずつ仕上げていくゴッサンスの作品。それは高価な金属や宝石が用いられていなくとも、芸術作品と呼ぶにふさわしい美しさと風格を備えています。
現在、メゾンに伝わる卓越したサヴォアフェールはインテリア用のオブジェや家具など、装飾芸術の分野にも発揮されるようになりました。
2005年、ゴッサンスはシャネルのメティエダールの一員に。そして昨年、メゾンのジュエリー部門に新たなアーティスティック ディレクター、キャロリーヌ・ゴティエ・メンデスさんを迎えました。
2021年、アトリエがle19Mに移転したことによって、若い世代からの関心も次第に高まり、現代のラグジュアリーに新たな価値観をもたらすメゾンダールとして世界の注目を集めています。


伝説の金細工師が遺したメティエダールの伝統を進化させて未来へ


豊かな創造性とサヴォアフェールを発展させていく「ゴッサンス」の挑戦
金細工のサヴォアフェールを駆使して、シャネルをはじめとするクチュールメゾンのために独創的な装飾品を生み出してきた「ゴッサンス」。そのアーティスティック ディレクターとして、コスチューム ジュエリーとアクセサリーのクリエイションを手がけるキャロリーヌ・ゴティエ・メンデスさんに話を聞きました。
「私たちのメゾンは、金属を扱う特別なサヴォアフェールに根ざしています。手作業で行う鋳型の制作やロストワックス鋳造(蠟型鋳造)、仕上げの工程は創業時から変わっていません。しかし、3D(三次元)モデリングの導入などにより、技術は時代とともに進化し続けています。私はゴッサンスのジュエリーコレクションのクリエイションを統括し、同時にシャネルのスタジオとも連携してその創作を支えています」
メゾンの創設者ロベール・ゴッサンスは1950年代、独自のコスチューム ジュエリーでシャネルをはじめとする多くのオートクチュールメゾンと協働し、一世を風靡。金属工芸のメゾンダールとして、唯一無二の存在となりました。彼が生み出す作品には、どのような魅力があったのでしょう?
「ロベール・ゴッサンスの作品には、彼の反抗的で陽気な精神が息づき、常に遊び心に満ちていました。私の使命は、その自由で豊かな創造性を受け継ぎ、笑みがこぼれるようなジュエリーをつくること。メゾンには創業時からの型や金属パーツが多く保存されており、それらを再構築して新たな作品を生み出すことも、重要な仕事のひとつだと思っています」
そう語るメンデスさんの首には小さな亀のネックレスが…。それは、創業者の作品を現代のコレクションとして再登場させたものにほかなりません。アーカイブの作品は単なる遺産ではなく、新たな創造の起点となったのです。
「現在、ゴッサンスにはジュエリー部門と装飾部門を合わせて約20名の職人が在籍しています。メゾン全体では80名ほどになるでしょうか。その多くが30代前半で、アトリエは活気に満ちています。彼らには、何よりも楽しんで仕事をしてほしい。そして、創造的であってほしいと願っています」
le19Mへの移転は、メゾンにとって大きな転機になったのでしょうか?
「職人たちにとって、とてもポジティブな変化でした。共通のプロジェクトを通して、ほかのアトリエとコラボレーションを行うこともあり、職人たちは互いに刺激を与え合い、創造性を高めています」
また、職人技の継承には、若い世代への橋渡しが不可欠だと語るメンデスさん。
「今の学校教育では、手を使う職業の魅力があまり伝えられていないように感じます。le19Mでは展示やイベントを通して、手仕事の魅力をもっと可視化できるはず。見せて、話題にすれば、こういった仕事があることに気づく若者が増えると思います。知らなければ選ぶことはできないのですから」
メティエダールの未来は、まさにle19Mの活動にかかっているのです。

Caroline Gauthier Mendes
「ゴッサンス」 アーティスティック ディレクター

