茶の湯を気軽に楽しみたいと思ったら、まずは一碗を求めることから始めてみましょう。茶碗茶道具専門店でもいいのですが、ちょっと気がひけるようでしたら、骨董(こっとう)から現代作家まで取り扱っているうつわ屋さんをたずねてみては? センスのいい品々を手に取って確かめられて、的確なアドバイスをいただける東京の4軒をご紹介します。
東京のうつわ店で最初の「抹茶茶碗」を探してみましょう!
寺田美術(南青山)
うつわ好きにとって欠かせないエリアである青山・骨董通りの、奥まった場所にある瀟洒(しょうしゃ)なビルの3階。明るくてモダンな空間の「寺田美術(てらだびじゅつ)」に入ると、端正なうつわが整然と美しく並べられています。
佃眞吾(つくだしんご)さんの神代欅折敷(じんだいけやきおしき)。枝物(えだもの)を置き、お茶を供するアイディアも素敵。
店主の寺田ひと美さんは、娘時代から親しんできた茶の湯を介して骨董と現代作家のうつわの組み合わせの面白さを知り、和洋を問わず新しいものと古いものの共生を提案していきたいと考えたのだそう。
その想いを反映して、店内には立礼台(りゅうれいだい)があり、床の間には時節に合わせた掛け軸と花がさりげなくあしらわれています。
小川待子(まちこ)さんの金釉(きんゆう)茶碗を中心にした立礼の道具立て。お茶の生徒さんが羽ばたいてほしいという願いを込め、守屋松亭(もりやしょうてい)の蝶の棗(なつめ)を添えて。
これからお茶を習いたいと思っている人のためにおすすめしたいのが、利休の時代から茶の湯に用いられてきた高麗(こうらい)茶碗の流れをくむこの一碗(下画像)。
江戸時代初期の呉須(ごす)茶碗
江戸時代初期に清(中国)で焼かれた呉須茶碗は、手になじみがよく、姿が優しくて、お茶がよく映えます。
最初の一碗には、「お稽古をしたいと考えている方には伝統的な高麗茶碗を、気軽に親しみたい方には現代作家のアーティスティックな作品をおすすめします」と寺田さん。
まずは一碗の現代作家バージョン。いずれも骨董に負けない力強さをもっている。手前/村上躍(やく)さんの砂化粧内黒釉盌(すなげしょううちこくゆうわん)、右/吉田直嗣(なおつぐ)さんの白磁鉄釉盌(はくじてつゆうわん)、左/田淵太郎さんの窯変白磁面取盌(ようへんはくじめんとりわん)。
お茶のひとときを盛り上げてくれそうな道具のかずかずにも心を奪われます。
◆寺田美術
住所 東京都港区南青山6-6-22
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而今禾(世田谷)
閑静な住宅街である深沢(ふかざわ)に、うつわ好きの注目を集めている店があります。その名は「而今禾(じこんか)」。今このとき=「而今」と、穀物の総称「禾」を組み合わせた名称は、今を生きるために大切な物を意味するそうで、衣食住を考えた商品がそろえられています。
使いやすく飽きない、温もりのある肌合いがうれしい長谷川奈津さん作の灰釉(かいゆう)茶碗。
こちらのお店で最初の一碗にとおすすめされたのは、長谷川奈津さんの灰釉茶碗。長谷川さんは相模原に窯を開き、日常のうつわを中心にしながら、最近は茶碗も手がける陶芸家です。女性の手でつくられた茶碗は小ぶりで手のひらになじむ軽やかさ。長い時を経てきたような落ち着いた色合いで、使いやすさも抜群です。
エチオピアのテーブルに置かれているのは東南アジアの古い薬瓶(くすりびん)。金平糖など、小粒のお菓子を入れて茶箱とあわせる振出(ふりだし)に見立てたり、花入れとしたりするのに最適。
3階建ての住宅を用いた店舗の、1階は花や煎茶の教室を開くスペース。2階に上がると大きなガラス窓のある広々とした空間にソファが置かれ、アンティーク家具の棚やテーブルには、国内外でセレクトした骨董と現代作家の作品が並べられています。
和室に置かれていた、井戸茶碗のスタイルを継承している茶碗は静岡県伊東市に工房を構える村木雄児(ゆうじ)さんの作。
その奥には茶碗などが置かれた和室があり、長谷川奈津さんの作品のほか、高麗や李朝、中国・宋時代の茶碗などは、いずれも無地で味わい深く、存在感のあるものばかり。比較的リーズナブルなことにも驚かされます。3階にはオリジナルの衣類もあり、眺めているだけでも楽しくなってきます。
◆而今禾
住所 東京都世田谷区深沢7-15-6
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魯山(西荻窪)
昭和57(1982)年に西荻窪にオープンした「魯山(ろざん)」は、うつわ好きの間でつねに注目を集めてきたお店です。店主の大嶌文彦(おおしまふみひこ)さんが「食器店」と称する店には、骨董と作家物が分け隔てなく置かれていて、「いい食器は持った瞬間に、これに何を盛りたいか具体的に浮かぶ」という言葉にかなった品々が並んでいます。
粉引(こひき)に辰砂(しんしゃ)という釉薬をかけて焼かれた内田好美(よしみ)さんの粉引茶盌(ちゃわん)。ピンクがかった色合いに呉須の青が瑞々しく、掌で抱えたときの心地よさも魅力的。
作家さんとは、作品ではなく人を見てつきあうという大嶌さんは、これと見込んだ人には辛口を交えたアドバイスを惜しまないとか。そんな両者の真剣勝負を経てきたものだけが並ぶ店内から、この一碗として選ばれたのは、内田好美さんの粉引茶盌。内田さんは石川県立九谷焼技術研修所を卒業し、九谷の製陶所での絵付師としての活動を経て、岩手県紫波(しわ)町に築窯しました。作品からは、柔和さと芯の強さが感じられます。それは、人や流行におもねることなく、作陶に向かい合ってきた結果でもあったのです。お茶を楽しむための一碗を探している人にとっては、まさに心強い存在です。
たくさんの食器が並ぶ入り口付近から奥へ進むと、古いものと新しいものが、それぞれに所を得ているディスプレイが見られる。野の花が生けられているのは、なんと古い時代の車のジャッキ。店の隅々に秘められた、このような遊び心を見つけ出すのも楽しい。
◆魯山
住所 東京都杉並区西荻北3-45-8
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ギャラリー北欧器(日本橋馬喰町)
モダンな茶碗を探している人におすすめしたいのが、ミッドセンチュリーと呼ばれる1950年前後に北欧諸国で活躍した陶芸家の作品を取り扱う「ギャラリー北欧器(ほくおうき)」。
その時期の北欧の国々は、イギリスの美術工芸運動や、モダンデザインに大きな影響を与えたドイツ工作連盟の流れを汲んだ近代工芸運動が盛んになっていたころにあたります。
マスキングをすることで柄を描いたベルント・フリーベリの鉢。もともと北欧の陶磁器は飾って楽しむためのものであるゆえ、見た目の美しさに機能性を備えているのがフリーベリの作品の特徴。
北欧のミッドセンチュリー時代を代表するのが、スウェーデンの陶芸家ベルント・フリーベリ。彼は、轆轤(ろくろ)の技術に秀で、東洋の古陶器にならって形や釉薬を研究したことで人気を集めました。
そんな背景をもつフリーベリの作品は、日本人好みのものが数多いことから注目されるようになり、茶道具として見立てて使われることが少なくありませんでした。特に小さい鉢は、高台がしっかりしていて縁の口当たりがいいので、茶碗にするのに最適。自分好みの、茶の湯にぴったりな一碗を見つけて出してください。
轆轤の技術の高さを物語る薄いつくりで、青釉の深い色に細い筋目がある、ベルント・フリーベリの鉢。高台径(こうだいけい)が小さいものの、底の部分が厚くて座りがいいので、見た目より機能的でどっしりとしている。お茶を点てていただくのに最適!
◆ギャラリー北欧器
住所 東京都中央区日本橋馬喰町2-4-1 Bakurocactus 3F
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