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天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ

あでやかだけど、懐かしさも感じる色の数々。これが、すべて自然から生み出されるとは驚きです。日本の伝統色を天然の材料で染め上げる、京都の「染司よしおか」。その美しい色彩が誕生する瞬間をご紹介します。

9色の日本の伝統色で“遠山”が現代に蘇る

袈裟(けさ)の制作に密着

京都・伏見に工房を構える「染司よしおか」。天然染料による古代染めを生業としていますが、ここで生み出される色彩は、ハッとするほど鮮やか。だけどどこか落ち着きがあるのは天然だからこその魅力です。5代目当主の吉岡幸雄(よしおかさちお)さんは、日本の伝統色の研究者の一面も。奈良東大寺正倉院に伝わる天平時代の衣装の復元など、古来の色を今に伝える活動にも精力的です。今回、高野山別格本山・三宝院の住職が「検校法印」(高野山内の最高位)に就く「法印転衣式(ほういんてんねしき)」を機に新調される袈裟「糞掃衣(ふんぞうえ)」の染色の現場に立ち合わせていただきました。

「よしおか」の魅力が詰まった自然のグラデーション

天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ左/遠山のデザイン画、右/2003年に「よしおか」が復刻させた東大寺の糞掃衣の模型

「糞掃衣」とは、本来、捨てられた布を拾い集めてつくった袈裟のことですが、現在では、さまざまな裂をパッチワークのように縫い合わせてつくられます。今回のものは、山が連なる姿を連想させる「遠山」という文様。

天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ今回染色に使用する4つの材料。上から時計回りに、蓼藍(たであい)、槐(えんじゅ)、茜、そして紫根(しこん)

赤、黄、緑、紫…全部で9色の絹地をあしらうそうですが、染色に必要な植物は茜、蓼藍、槐、紫根の4つ。1種、ないしは2種の植物をかけ合わせることで、多様な色彩が生まれます。

焦らず、じっくり、丁寧に…手間と時間が美しい色を引き出す

天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ吉岡幸雄さんと、娘の更紗(さらさ)さん

工房を訪れた日に染められていたのは、最も高貴な色、紫。使用するのは、奈良時代から産地である大分県竹田市で育った紫根。栽培が難しく、一時は絶滅の危機を迎えたそうですが、吉岡幸雄さん自ら指導の下、畑を蘇らせることに成功しました。その品質は最高級で「色の美しさはもちろん、色素を多く含んでいるので染め上がるスピードも違うんです」と語るのは、娘の更紗さん。伏見の水は鉄分が少なく染色向きで、地下から汲み上げた井戸水を使用しています。上質な材料と清らかな水。どちらも備わっていることが「よしおか」の技術が守られ続けている理由のひとつと言えるでしょう。

染料づくりと染色。納得するまで数日繰り返す

天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ

染色作業はまず、ひと晩酢水に漬けてやわらかくした乾燥紫根を、石臼で細かく砕くところから始まります。トントントン…木槌の優しい音と紫根の土っぽい香りで工房が満たされ、これから生まれるであろう美しい色彩への期待が、大きくふくらみます。次に、砕いた紫根を麻袋に入れ、60~70℃ほどの湯の中で色素をもみ出す工程に。もみ出しは手と足で10数分。一度ざるで漉したら同じ作業を2回繰り返し、この日使う分の染料ができあがります。

天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ

ちなみに染料自体は、紫ではなく小豆色に近い色調。これが実際に布に浸され、紫へと生まれ変わるかと思うと、自然界の不思議を感じずにはいられません。

天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ

そしていよいよ染めの作業へ。先ほどの染料を漉して容器へ移し、蒸気と火でゆっくり温め、新しい絹地を浸していきます。染料に生地をそよそよと泳がせ、様子をうかがうこと約30分。染まり具合を確認しながら引き上げ、水洗いをしたら媒染(ばいせん)作業に。「媒染」とは染料を固着させることで、今回はミョウバン液の中に15分ほど浸します。この作業を2回。これを5日間繰り返すことで、ようやく理想の紫に仕上がりました。

天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ

植物染めは少しずつ染めることが大切。絶えず人の手で布を動かし、目視することで、ムラのない仕上がりが叶うのです。「引き際も大事なんです。染まりすぎたら後戻りできない。どこで止めるか見極めないと」と語るのは、職人歴22年の小川恒二(おがわこうじ)さん。取材中も手を休めることなく、じっくり絹地と向き合う姿が印象的でした。

天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ職人の小川恒二さん

9色の絹を縫い合わせると遠山が姿を表す

絹地が染まったら、シワが寄らないよう竿にかけて自然乾燥。深みのある色と絹の光沢が織り重なり、高貴できらびやかな絹地ができあがりました。

天然だからこその美しさ。日本の伝統色を訪ねて、京都の工房「染司よしおか」へ

ほかの色と合わせた全9色を、設計図どおりに裁ち、配置し、縫い合わせると「遠山」が完成。伝統的なのに大胆な雰囲気が、かえってモダンです。まだ見ぬ糞掃衣。さぞかし晴れやかなものとなることと、想像するだけで心が高鳴ります。

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