奇跡の瞬間に立ち会おうと約2000人が集合
3月3日はひなまつり。三十三間堂では毎年、無病息災を願う「春桃会(もものほうえ)」が開催される日です。「三」が重なる桃の節句と三十三間堂にちなんだ法要が行われ、境内は無料開放に。庭に面した本堂の舞台では、大道芸人のショーが繰り広げられ、楽しい時間が流れています。
3月に入り、春の陽気も感じられるようになったものの、この日は寒の戻りで、京都の午後の気温は8℃。天気予報は雨でしたが、ありがたいことに雨は降ってはいません。大道芸人のショーが終わり、午後3時を過ぎた頃には、境内の庭はみうらじゅんさんといとうせいこうさんの約束イベントを目当てにした大勢の人たちで埋めつくされ、さながら音楽フェスの大物ミュージシャンの登場を待っているかのような熱気に包まれていきました。関係者調べによると、集まったのは、およそ2000人ほど。舞台上に「みうらじゅん&いとうせいこう 三月三日三時三十三分 京都 三十三間堂で逢いましょう!」の垂れ幕や33年前のお二人の等身大パネルが設定されるたびに、「おお〜っ」と歓声が湧き上がります。
寒空の下、今か今かと、二人の登場を待っているとき、ふと、三十三間堂の本堂の上の空に、一台のヘリコプターが飛んできました。「空撮?」「まさか二人が空から降りてくる演出?」と一瞬、周囲がざわつきますが、ヘリコプターはイベントとは全く関係がなく、素通りして行き、いい感じに気持ちが和みます。
いよいよ約束の3時33分が!
3時29分。会場のスピーカーから聞こえてきたのは、電話番号117で聞こえる、あの時報。「3時30分ちょうどをお知らせします。ピッピッピッピッピーン」10秒ごとの時報に観客の気持ちも最高潮に! 31分、32分、そうして、舞台の左側からブラックフォーマルのスーツと蝶ネクタイ姿のみうらじゅんさん、右側からは白いブルゾンにジーンズ姿のいとうさんが登場。お二人は舞台中央に向かって歩いていきます。握手をするのか 抱き合うのか──? 誰もが固唾を飲んで見守る中、みうらさんは、プロポーズのように片膝をついてバラの花(造花)をいとうさんに捧げ、握手そして抱擁! 境内は大きな拍手と歓声が湧き上がりました。
二人そろって元気に33年を迎えることができたことへのありがたさを確認し合う、いとうさんとみうらさん。楽しいトークの中で、「今回、何をいちばん伝えたいか」といとうさんが言うと、みうらさんは即座に「生きることの大切さ」と答えます。仲の良い“仏友”の二人の姿を見るだけで、幸せな気持ちになります。まさにラブ&ピース!
見仏の旅が始まった頃は、お寺の解説は、カセットテープに吹き込まれた音源が流れることが多かったという話から、今回のイベントに際して、みうらさんが自らカセットに吹き込んだ三十三間堂の解説が披露されました。「このお堂は〜〜〜」と、みうらさんの趣のある声が境内に響きます。5分ほどの解説の音源は、この後、無事、三十三間堂に寄贈されたそうです。
奇跡を実現させた三十三間堂の特別協力
今回、お二人が約束されていることを三十三間堂の方が気づかれて、特別に拝観時間を延長するなどの特別協力をされたそうです。国宝建築の本堂や千体千手観音立像など見どころ満載の三十三間堂は、現在発売中の和樂4・5月号の京都の国宝特集でも大きく紹介しています。
夜7時からは京都劇場に会場を移して、記念のトークイベントが開催されました。懐かしい写真のスライドショー(若き日のお二人がかわいい!)を見ながら、楽しい思い出話が盛りだくさん。雑誌の連載から始まり、テレビ、webなどにも展開していった『見仏記』。いとうさんの鋭い文章と、みうらさんのおかしみのある絵によって、若い世代の人たちが新たな仏像との親しみを知ることになりました。若い世代といっても、33年が経てば、今では立派な中年です。「これで最後ではありません。次は33年後にまたお会いしましょう」とのことですが、33年後は、みうらさんが100歳、いとうさんが97歳! 次回33年後の3月3日も、また、ぜひとも三十三間堂で多くの人たちと一緒にお祝いしたいものです。
トークイベント参加者のお土産には、33年前のお二人の写真と現在のお二人の写真のアクスタが配布されました。余談ですが、33年前のお二人の写真も現在のお二人の写真も、『和樂』でも多くの撮影をしているカメラマンの三浦憲治さんが撮影したものです。現在のお二人の写真は、実は、和樂12・1月号のみうらさんといとうさんの仏像対談のときに撮影されました。三浦憲治さんも元気に33年の約束の日を一緒に迎えられてなによりです!
撮影/三浦憲治、永井峰穂
文/高橋亜弥子