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Culture

2025.09.23

近江の自然を映す菓子や農、ものづくり 「叶 匠壽庵」本社を里山に移して40年

代表銘菓「あも」で知られる「叶 匠壽庵(かのうしょうじゅあん)」は、創業地・滋賀に根ざした菓子と日本文化の継承を信条として今に至ります。「寿長生の郷(すないのさと)」と名づけた里山に本社を移して40年。里山の保全と共にある菓子づくりの取り組みを紹介します。

里山全体を菓子工房と考えた独自の取り組み

「叶 匠壽庵」の創始者である芝田清次(せいじ)氏は、前職は滋賀県大津市の観光課職員。近江を表現する菓子がつくりたい、との思いから和菓子店を立ち上げるという異色の経歴をもちます。昭和33(1958)年、大津市三井寺(みいでら)の近くで創業。御所で使われた女房詞(ことば)にちなんで棹(さお)菓子に「あも」と名づけるなど、一貫して近江の歴史と日本文化を結ぶ菓子をつくり続けてきた背景には、こんな理由もあるのです。

2代目・芝田清邦(きよくに)氏は先代の信念をさらに発展させ、6万3千坪の人が住まなくなった森に本社を移しました。「寿長生の郷」は、里山の自然と菓子製造の共生を試みる場。敷地の約10分の1を農園が占めます。梅、柚子(ゆず)、山椒(さんしょう)などの農作物を育てて菓子の材料とし、ヤギの飼育で堆肥(たいひ)をつくり循環させる。自然と近い場所にいることで、菓子の発想や表現も独自のものになる。「菓子づくりは農のなかにある」という考えは3代目・芝田冬樹(ふゆき)氏にも受け継がれ、今に至ります。

社員に加えて、里山を支える専門職はさまざまですが、珍しいのは陶工がいること。陶房「十〇地(とわぢ)」でつくられる器は、たとえば全国の店舗のディスプレイや苑内の食事処・カフェの器に活用されています。作陶に使う土は、信楽(しがらき)と「寿長生の郷」の土を混ぜたもの。苑内の落ち葉をそのまま器の模様にあしらうこともあるとか。自然を生かすとは、単に里山の景色を器に描くだけではないのです。

訪れるお客様と直接言葉を交わすことはなくても、苑内を彩るあらゆるものを通して、先人より受け継いできた知恵や思いが菓子から伝わるはず。「叶 匠壽庵」のものづくりにはこんな思いが込められています。

上/あん炊きに欠かせない6升の銅釜。やわらかな丹波大納言の粒をつぶさないように、職人が手で炊く。右上/寿長生の郷で育てられている果樹は菓子材料になり、郷の景観を美しく保つ。苑内に植わる120本の柚子は、茶室で供される菓子や「あも(柚子)」に仕立てられる。右下/ 苑内の紅葉は例年11月下旬から12月上旬が見ごろ。左下/陶房「十〇地」の器は、苑内の「Bakery&Café野坐(のざ)」などにて購入可能。「あも(栗)」を載せた大皿も「十〇地」で製作。左上/寿長生の郷の中心に位置する「長屋門」。

代表銘菓「あも」に加わった秋の味覚「あも(栗)」

「叶 匠壽庵」のものづくりのこだわりが結集したのが、代表銘菓の「あも」。糸寒天をつなぎに蜜漬けした大粒の丹波大納言小豆をみずみずしく炊き上げたあんで、羽二重(はぶたえ)餅を包んだ小豆菓子です。羊羹(ようかん)とは別物のあっさりした甘みと、丹波大納言小豆のほどけるような食感は、唯一無二の味わいです。

その「あも」で四季の巡りを感じてもらいたいと生まれたのが、季節限定の「あも」。秋から冬に登場する「あも(栗)」は、ダイス状にカットした栗が羽二重餅の中に入ります。実は商品化にはかなりの時間を費やしたそう。栗はそれだけで旨(うま)みが強いので、手をかけすぎると「あも」本来のおいしさが消えてしまう。そこで糖漬けした栗を焙煎(ばいせん)し、さらにフランス産ゲランドの塩をふることで、あんとの調和がとれたとか。ほっくりした栗の食感ととろける餅、小豆との贅沢な味覚をどうぞお楽しみください。

季節限定の「あも(栗)」が発売


「あも(栗)」1本1,404円。販売期間は2025年9月1日から2026年1月上旬。
※「叶 匠壽庵 あもや」伊勢丹新宿店・三越日本橋店では通年販売中。
※価格表記は税込価格です。
問い合わせ先
叶 匠壽庵 お客様センター 0120-257-310

叶 匠壽庵 寿長生の郷
滋賀県大津市大石龍門4-2-1
TEL 077-546-3131
10時〜17時※各施設により営業時間が異なる
水曜定休・年始など変更あり
JR石山駅より1日4便往復送迎バスがある
(無料)。駐車場あり。kanou.com

撮影/石井宏明
スタイリスト/城 素穂
デザイン/澤田 翔
構成/藤田 優、後藤淳美(本誌)

※本記事は『和樂(2025年10・11月号)』の転載です。

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和樂web編集部

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