日常から離れて小宇宙へ。茶会の心得
冬のある日、雨上がりの澄んだ空気の中、石井美保さんが体験したのは「小間」と呼ばれる小さな和室での茶会。ぴしっと背筋が伸びた、裏千家教授の北見先生が点てるお茶を心ゆくまで楽しみました。非日常の世界をのぞいてみましょう。


石井美保(以下、石井):実は私、中学校のときは3年間、茶道部に所属していました。でも、ほとんど覚えておらず、毎回お菓子をいただくのだけが楽しみだった記憶が……。
北見宗雅(以下、北見):お菓子の楽しみはもちろん、茶道はおいしくお茶を味わう時間でもあるのです。あまり堅苦しく考えなくても大丈夫ですよ。
石井:とても気がラクになりました。とはいえ、茶席に入る前からお作法があるのですね。
北見:はい。客として茶席に入る前は、いわば「みそぎ」の準備が必要です。飛び石をあしらった露地に歩を進めながら世俗を離れ、手水を使って心身ともに清らかな気持ちで席にのぞみます。
石井:確かに、日常から離れて清廉な気分になりますね。
四季に合わせた亭主のおもてなしを感じる




石井:躙口がとても小さいのですね。本当に〝小宇宙〟に入るような感覚がありました。
北見:扇子をまず前に置きますね。この扇子がとても重要で、扇子はあおぐものではなく、「結界」を表しているのです。
石井:え、「結界」ですか?
北見:もともとは仏教用語で、修行の場を区切る「聖域」の意味ですが、茶道では茶室の聖なる空間と、俗世を隔てる境界のこと。
と同時に茶席に入る前や、床の掛物拝見などの際に膝前に扇子を置くのは、自分と相手の間に境目をつくることで、自分と相手に対して敬意を示す意味とへりくだる意味があります。
石井:扇子1本にそんな深い意味があるなんて、知りませんでした。でも、北見先生に教わったように、躙口で扇子を前に置くと、これから静謐な〝小宇宙〟に入ります、と気分が切り替わるのがわかりました。
北見:亭主と客、または客同士の間でも扇子を置くことで、ことばを交わさなくても敬意を示すことになります。
石井:お互いに尊敬の心、へりくだる心が〝おもてなし〟に通じるのですね。
北見:神聖な茶室という空間で、どうすれば客人に喜んでいただけるかと、亭主側は相手を思いやる心が大切です。
石井:季節を取り入れた掛物、花とそれに合わせた花入など、しつらいもひとつひとつ意味がありそう。
北見:本日、石井さんのためにしつらえた茶席です。この一期一会が大事だと考えています。
石井:ありがとうございます。
菓子と薄茶をいただき、心まで澄みわたる
シュンシュンとお湯が沸く音と、北見先生の茶筅を振る音が耳に心地よく響く中、茶会が進みます。季節を意識した緑と白が鮮やかなお菓子の後にいただく一服は、本当に美味。美保さんの感動を伝えます。






石井:本日はありがとうございました。日々忙しく過ぎゆく中、異次元でゆったりした時間を過ごすことができました。
北見:茶会を楽しむということは、さまざまな形で四季を感じることができる時間だと思います。季節に合わせた着物の装いもそうですし、茶席に入る前には外の景色を楽しんだり、茶室に入ってからはそのしつらえに季節を感じたり。
石井:お湯が沸く音や、北見先生が柄杓から茶碗にお湯を注ぐ音、茶筅でお茶を点てる音なども心に響きました。
北見:日常からふっと離れる時間は貴重ですよね。
石井:お菓子もお茶もおいしくいただき、見ることも香りを楽しむことも、清らかな音も、研ぎ澄まされた空間での体験。五感で楽しめました! ありがとうございます。

北見雅子:茶名・宗雅(そうが)
裏千家正教授、茶道文化振興会講師、伝統芸術振興会「子どものための日本文化教室」講師、みやび流和装道教授、華道師範、書道六段、剣道二段。茶道誌、教本のモデルの他、テレビやラジオ、雑誌などへの出演・指導経験も豊富。

