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焦がちね、物病んじすん(読み:あしがちねぇ むぬやんじすん 意味:焦ると物事がうまく行かない 沖縄のことわざ)
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2019.10.17

病院も働き方改革!京都大学医学部附属病院の「バイタルデータターミナル(VDT)」がすごい!

この記事を書いた人

子どもたちに「将来なりたい職業」を尋ねると必ず上位に入っている職業、それは看護師です。

看護師の仕事は幅広く、特に病棟に勤務する看護師は、24時間、入院患者のケアを行うのが主な仕事です。「白衣の天使」とも呼ばれ憧れの職業ではあるものの、その仕事は多忙を極め、実は肉体的にも精神的にも負担が大きいと言わざるを得ません。

1000床を超える京都大学医学部附属病院には現在、「バイタルデータターミナル(VDT)」が導入されています。それは“忙しい看護師の仕事を劇的に改善したシステム”です。その開発を手掛けた京都大学医学部附属病院 医療情報企画部の黒田知宏教授にお話を伺いました。

バイタルデータをとることは重要な日常業務

人間が生きていることを示す値を「バイタルサイン」といいます。

バイタルサインには、体温や血圧、心拍といったものがあり、それらをデータ化したものを「バイタルデータ」といいます。

病棟に勤務する看護師にとって、入院患者のバイタルデータを取ることはとても重要な日常業務です。データを測定する時間は看護師が患者と接することができる貴重な時間。しかし、データの測定は1日数回、患者の状態によっては数十分に1回行わなければなりません。

大きな負担だった電子カルテの入力

測定したデータは、慌ただしい業務の合間にデータの取り違え等に注意しながらミスなく電子カルテに入力する必要があります。

電子カルテとは診療情報を電子化して保存・管理するシステムですが、実はその入力作業が看護師たちにとっては大きな負担となっていました。

そこで導入されたのがVDTです。VDTは、測定した入院患者のバイタルデータが自動的に電子カルテに転送されるシステムです。

看護師が体温や血圧を測定し、測定機器を壁面に設置された端末にかざすだけで、看護師の名前、患者の名前、バイタルデータが紐づけられ集められる仕組み。

現在、日本で唯一、同院に導入されているシステムなのです。

一般病棟の全ベッドサイドにVDTを設置

かつて同院では、ノートパソコンを患者のベッドサイドまで運び、電子カルテを開いて測定データを入力していました。しかし、忙しい場合には、データを手や紙にメモし、その数字をナースステーションに戻ってから入力していたのです。

ところが、それは手間がかかるだけでなく、データの取り違えや入力間違い、入力忘れを招くリスクがありました。

2016年5月に一般病棟の全ベッドサイドにVDTを設置し、運用を始めましたが、VDTを導入することで、看護師が測定データを電子カルテに入力する必要がなくなりました。

その結果、転記ミスも起こらず、安全性も一層高まることとなりました。さらに、測定データがリアルタイムで自動記録されるため、測定した正確な時間がわかるなど、さまざまなメリットが生まれています。

入力作業をなくせば看護師の仕事は軽減する

黒田教授はあるとき、看護師たちが非常に長い時間パソコンに向かっていることに気づきます。

調べてみると、デジタルにでているバイタルデータを紙に書き写し、ナースステーションに持ち帰り、再度パソコンに入力するという作業に追われていることが分かりました。

情報工学のスペシャリストである黒田教授はその一連の作業が“あまりにもムダである”と感じます。そして、困っている看護師たちの仕事を何とか軽減できないものかと方法を探り始めます。

24時間監視されるの?

黒田教授は「看護師の位置情報を測定する仕組み」を使えば「この看護師がこの患者のデータを入力する」という情報が自動的に取れ、すべてが解決すると考えました。

ところが、位置情報を測定する仕組みは「自分たちの行動を24時間監視される仕組み」だと受け止められ、看護師たちの強い反対にあいます。

「アンテナを設置していない場所では一切位置情報を測定できないし、測定した情報を管理・監視のために使うことは絶対にない。あくまでも仕事を楽にするために看護師と患者、バイタルデータを自動的に紐づけるのが本意」だと黒田教授は丁寧な説明を続けました。

VDTで断然仕事が楽になった!

看護師の理解が得られ、導入にこぎつけると、VDTの効果はすぐに表れました。「これまでパソコンに向かっていた時間を他の看護業務に回せるようになり、仕事が断然楽になった」との声が看護師たちから寄せられたのです。

「楽だ、という表現が一番嬉しい」と語る黒田教授。今では診察室や処置室にもVDTを設置してほしいという要望があがっています。

カルテはいずれAIが書くものになる

人間を介在させることなく機械と機械をつなぐと仕事の効率が上がり、質の高いデータを集めることができます。それが多くの産業分野で推進されているIoTの考え方です。

黒田教授は今、看護師と患者、医療機器をグルーピングし“看護師が機械とともに仕事をするシステム”を生み出そうとしています。そして「医療現場にAIやIoTが入り込み、さらにそれが普及すれば、カルテはいずれAIが書いてくれるものになるはず」と予言します。

いずれパートナーになるAI

さらに「管理や監視をするAIは一見良さそうに見えますが、社会的には広がりにくいでしょう。なぜなら、管理・監視しているものとは友達になれないからです」と分析します。

「本当に必要なAIは、やはり業務の効率化を行ってくれるもの。現在、AIは道具として活用されていますが、もっともっと洗練されれば、いつか一緒に仕事をするパートナーになるでしょう」

医療分野で進むIoTが、今後どのような働き方改革をもたらすのか注目です。

京都大学医学部附属病院

住所:京都市左京区聖護院川原町54
TEL:075-751-3111(代表)
公式サイト:https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/

書いた人

医療分野を中心に活動。日本酒が好き。取材終わりは必ず美味しいものを食べて帰ると心に決めている。文句なく美味しいものに出合うと「もうこれで死んでもいい!」と発語し、周囲を呆れさせる。工芸であれ、絵画であれ「超絶なもの」に心惹かれる。お気に入りは安藤緑山と吉村芳生。