日本文化の入り口マガジン和樂web
12月9日(金)
柴扉暁に出づれば 霜雪のごとし(廣瀬淡窓)
日本文化の入り口マガジン 和樂web
日本文化の入り口マガジン 和樂web
12月8日(木)

柴扉暁に出づれば 霜雪のごとし(廣瀬淡窓)

読み物

サンリオを崇め、美人画に恋する。平井“ファラオ”光が惚れた、日本文化の「カワイイ」に迫る!

この記事を書いた人

お笑いコンビ「馬鹿よ貴方は」ではボケ担当、その独特の〝間″使いが魅力のお笑い芸人・平井“ファラオ”光さん。大のサンリオ好きで知られる存在ですが、実は日本文化好きとしても有名。愛する日本文化を芸人仲間に説いてまわり、日本美術をネタにしたトークイベントも開催しています。カワイイがみっちり詰まったサンリオにはまる一方で、どこか間が抜けた江戸の絵画や可憐と艶がゆらぐ美人画に琴線をかき鳴らされるとか。

和樂web編集長セバスチャン高木が、日本文化の楽しみをシェアするためのヒントを探るべく、さまざまな分野のイノベーターのもとを訪ねる対談企画『編集長が行く!』。今回は日本文化のカワイイにはまった平井“ファラオ”光さんに迫ります。

ゲスト:平井“ファラオ”光(ひらいふぁらおひかる)
1984年、神奈川県生まれ。2008年、お笑いコンビ「馬鹿よ貴方は」を新道竜巳(しんどうたつみ)と結成。お笑い芸人だけではなく、俳優やナレーターとしても活躍。大のサンリオ好きであり、日本美術のなかでも特に絵画が好き。落語は三遊亭圓生&柳家小三治ラブ。
公式Webサイト:https://www.sunmusic-gp.co.jp/talent/bakayoanatawa/

斜に構えずに愛は広く公言していくべき!

セバスチャン高木(以下、高):日本文化は高尚なもの! という先入観に支配された人びとを解放しようと、この秋に出演させていただいたトークイベント「日本文化スナック」。そこで解放運動の旗手のひとりであるファラオさんとも出会ったわけですが、ファラオさんってそもそもお笑い芸人さんですよね。

平井“ファラオ”光(以下、平):はい! お笑い芸人をやらせていただいております。コンビでの活動が中心ですが、最近はひとりでの活動も増えています。サンリオ好きだとか、日本文化好きとか、いろんなところで公言していますので、それが仕事へとつながることもあります。「日本文化スナック」もそうですが、自分の好きなことを書いたり、話したりするのって、ネタをやるのとは違う楽しみがあります。

「サンリオのキャラクターもそうですが、ファッションやアートでも、ひとたびカワイイとなれば、簡単に世界を越えていきますよね」とファラオさん。

高:なるほど。笑いとはまた違う部分で、好きなものを表現しているんですね。日本のカワイイ文化の一翼、いや主翼を担ってきたともいえるサンリオですが、ファラオさんはいつごろからはまりはじめたのですか。

平:サンリオ好きになったのは34歳のころ、十分に大人になってからです。たまたま同社のwebサイトで見ていて、キャラクターのかわいさや設定(性格や名前)のおもしろさにはまりました。どのキャラクターも個性があって好きなのですが、やはり尊敬しているのは“マイメロディ”ですね。彼女のかわいさを追求するためにInstagramで個人的に応援活動もしています。

高:あの、マイメロディって、どんなキャラクターなのでしょうか。実は私、知らなくて……。

平:なんと! マイメロディは世代問わず誰もが知っているキャラクターですよ(笑)。ハローキティは、いまや世界のアイドルですが、マイメロディもそれに次ぐ人気を誇っています。高木さんのような日本文化の語り手には、ぜひ知っていただきたいです。そして僕が一番好きな子は、アニメ「おねがいマイメロディ」にも登場する、こちらのクロミです。

お気に入りのクロミについて話がとまらない。「クロミは、こうみえても純でね。いい子なんですよ」

高:額にドクロがついていたり、全体的に悪っぽい感じだったり。クロミはサンリオには珍しいキャラクターでしょうか。クロミに惹かれる理由って、ずばり何ですか?

平:おそらくサンリオでは初の悪い系女子のキャラクターですね。パステルカラーでいかにもカワイイじゃなくて、黒耳でドクロマークがついている。でも心根は純情で愛らしいところも。そんなクロミのギャップ萌えに惹かれるのかな。一見わかりにくい、そんなところがいいのかもしれません。

高:「俺だけにわかるクロミの魅力!」みたいな感じでしょうか。あとはサンリオピューロランドにもよくおひとりで訪れているそうですね。キャラクターのショーをSNSでも絶賛していますが。

平:年間パスポートをフルに活用しています。大人の男性なのに、ひとりでピューロランドを楽しんだりサンリオ愛を公言することに抵抗はないのか?と訊かれますが、斜に構えずに壁を破ってしまったほうが絶対にいい。サンリオはもちろん、日本美術にしても、愛するものは公言したほうが楽しいですよね。

間や余白に惹かれる日本美術、サンリオに通じるカワイイも

高:日本美術に興味をもたれるようになったのは、いつごろでしょう。何かきっかけがあったのですか?

平:昔から絵を観ることは好きで、美術館へよく訪れていました。20代のころは西洋画が好きでしたね。でも30代を越えたあたりから、キャンバスをもので埋め尽くすような西洋画を観ると、疲れを感じるようになってしまい。日本画に感じる“間”とか“余白”に心惹かれるようになりました。奥ゆかしいもの、どこか引き算されているもの。そのような作品は観ていて落ち着くし、肌にあうんです。

「日本の絵画に感じる間や余白、そこに魅力を感じるようになっていきましたね」

高:ファラオさんのおっしゃっている「日本画」は明治以降のものでしょうか? ちょっとだけ専門的な話になってしまいますが、「日本画」という言葉は、西洋画の対立概念として誕生したものなんですよ。ですから、正確には「日本画=明治期以降に描かれた絵画」を指します。「日本画」という名がつくまで、日本の絵といえば、屏風やふすまや軸に描かれる「装飾」でしたからね。

平:確かにそうですよね。僕は、平安絵巻や江戸絵画なども含めて、日本画としてお話ししています。美術に詳しくないひとも、そのほうがイメージがつきやすいので。

高:なるほど。カジュアルに日本文化を語るためには、用語の使い分けはもっと曖昧でいいのではないか? と私も思うことがありますね。もちろん理解をしたうえで、ですけどね。

超タイプ! 美人画のグッズ化を熱烈リクエスト

高:山種美術館にもよく足を運ばれているそうですね。蒐集しているミュージアムグッズなどもお持ちいただきましたが、お好きな日本画ってどういうものですか。ファラオさんがおっしゃるように、余白や間を感じる作品も多いですが「カワイイ」系も多いですね。そこはサンリオに共通するのではありませんか?

平:山種美術館、サントリー美術館、根津美術館などは、気になる企画展が多いので、よく観に行きますね。最近、あるトークイベントでお話ししたのですが仙厓(せんがい)の絵は、間が抜けていて愛らしくて、とても好きです。サンリオに「ぐでたま」というキャラクターがいるのですが、それに似ている絵があって、いや、ぐでたまが似ているんですけどね(笑)。

ほかにも円山応挙(まるやまおうきょ)が描くコロコロとした子犬、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)の茶目っ気のある虎なども愛らしくて好きです。『鳥獣戯画』のウサギやカエルもカワイイですよね。対象物を描くなかにも、ふわっとした間やどこか余白があるのもいいんですよ。

自身が手掛けた『和樂』(2015年11月号)の特集「カワイイ日本美術大行進」を見ながら、「国宝にもカワイイものが多い。ファラオさんが好きなものもあるはず」と高木。

高:そのあたりの作品は、当時の人もカワイイって、きっと思っていたでしょうね。私がカワイイと思うのは、鍬形蕙斎(くわがたけいさい)が描いた『鳥獣略画式(ちょうじゅうりゃくがしき)』。この虎って、今見てもカワイイでしょう? 葛飾北斎の『北斎漫画』は、鳥獣略画式から着想を得たと言われています。カワイイものって自然に心がつかまれるし、それがどんどん波及していきますよね。ファラオさんには、日本画のカワイイからサンリオのカワイイへとつないでいく“ファラオ流カワイイ史”を語っていただきたいですね。

平:いいですね、カワイイ史! 語れるようになりたい。それから、上村松園(うえむらしょうえん)や山川秀峰(やまかわしゅうほう)の美人画にも惹かれているんです。超タイプ! と衝撃を受けたのが、秀峰のシリーズ作品のひとつ『十二ケ月図 三月の雪姫』です。あまりにも雪姫にはまって美術館にリクエストを送り続けて、オリジナルグッズに加えていただいたぐらい好きです(笑)。あとは荒木十畝(あらきじっぽ)や川端龍子(かわばたりゅうし)の作品も好きですね。

ファラオさんが美術館にリクエストした山川秀峰『三月の雪姫』のミニ色紙を手に取り「なるほど、ファラオさんはこういう女性が好きなんですね」と高木。「自分の好みを知られるようでなんだか恥ずかしいですね」と照れるファラオさん。

高:本当だ! 『三月の雪姫』のミニ色紙が何枚もあります(笑)。リクエストをするなんて、ファラオさん、かなり雪姫に惚れ込みましたね。山川秀峰は、鏑木清方(かぶらぎきよかた)の門下生であり、美人画でも名を馳せた画家です。上村松園も美人画を多く残している。山種美術館の館長からは、松園の美人画は生え際に注目するといいと教えていただきました。美人画はどこ観るべきか、それもトークテーマになりそうです。こうしてお持ちいただいたものを見ていると、ファラオさんは、はんなりと柔らかな近代の美人画、動植物がちらりと描かれた風景画が好きなんですね。

日本文化の魅力はわかりにくさ。簡単にわからないからおもしろい!

高:落語もお好きなんですね。芸人の多くは、笑いの頂点に落語をあげると言いますよね。ファラオさんにとっての落語の魅力ってどういうところなんですか?

平:音楽で言えば落語はブルースであり、笑いの基礎みたいなものです。そこには笑いのすべてが詰まっている。僕もそうでしたが、芸人の若い世代ってあまり落語を聴かないのです。だから新鮮だったし、単純におもしろかった。表現力の凄さ、それこそ絶妙な間の使い方とか、ものすごく勉強になっています。僕は三遊亭圓生(さんゆうていえんしょう)師匠と柳家小三治(やなぎやこさんじ)師匠が大好きで、小三治師匠の高座は数回は観ています。どちらももうお亡くなりですので、今ではCDで聴いていますけどね。

寝る前に必ず落語を聴いているファラオさん。「僕ら世代以降は、ダウンタウンさんの漫才に憧れてお笑い芸人を目指した世代。だから落語に触れていない芸人も多いです。だけど、やっぱり笑いの基礎だから聴いておきたい」

高:ふたりが表現する“間”にも惹かれるわけですね。僕も圓生師匠は好きだなあ。同時代に生きて圓生師匠の高座を観てみたかったですね。あとは津軽三味線の高橋竹山(たかはしちくざん)もお好きなんですね。竹山の三味線って聴いていると泣けてきちゃいません?

平:ホント泣いちゃいます。なにがすごいって三味線一本、楽器ひとつで音楽として成立できるってすごいなあって。

高:僕が思うに高橋竹山は、世界にスパニッシュ旋風を起こして、スペインにジャズカルチャーを広めた、フラメンコギターのパコ・デ・ルシアと対をなす存在。互いに弦楽器の最高峰と称される人物です。パコ・デ・ルシアを聴くことで、竹山の凄さもわかる。ファラオさんは、パコ・デ・ルシアはご存じですか?絶対に好きだと思いますよ。またどちらも知らないひとはふたりの楽曲を聞いて欲しいですね。

平:知らなかったです。パコ・デ・ルシアも聴いてみますね。ほかには筝曲家・宮城道夫の姪であり、人間国宝の宮城喜代子(みやぎきよこ)さんの筝のCDもよく聴いています。

高:落語の話でも語っていただきましたけれども、ファラオさんの好きな日本文化に共通するのは、“間”を感じられることでしょうか?

平:海外文化って、絵でも音楽でも話芸でも、多くが派手で華やか。とにかくわかりやすくて入りやすい、そんなイメージがありますよね。でも日本文化、特に僕の好きな日本画は物静かで地味な印象をもたれがち。でも静けさの奥には、豊かで鮮やかな無限の世界が広がっているんです。入口は狭いけれどもぐっと奥行があるというか、そのわかりにくさに惹きつけられるんです。まあ、クロミちゃんもひと癖ある子ですしね。

日本文化から吸収できる“笑い”は多い。だから芸人仲間にも日本文化の魅力を伝えていく。

高:ファラオさんの言うように、わかりにくさが日本文化の最大の魅力なのです。平安絵巻なんて、すぐにわかるわけがないですよ。でも絵巻に描かれた表現の意味するところが、ちょっとでもわかったときの歓びと言ったら、ねえ(笑)。ノーベル文学賞を受賞した川端康成先生だって、『美しい日本の私―その序説』で、そんなことを言ってらっしゃいますからね。

平:わかりにくさが魅力っていいですね! まるで僕がつくるネタみたい(笑)。まだまだハードルが高いと言われる日本文化ですが、どのように楽しむのかがわかると、もっと身近に感じられるはずです。時代や世代を超えて愛されるカワイイ作品だって多い。

高:次回のトークイベントでは「カワイイ担当」として国宝を語り尽くしてください。国宝には、かなりのカワイイが潜んでいますからね。和樂webのオーディエンスのみなさんのように日本美術に興味や関心がある人はもちろん、まったく興味がない人たちにこそ楽しんでいただきたいですね。

平:ファラオ流のカワイイ史語れるようにしておきます(笑)。

書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。