連載

Fashion&きもの

2024.11.11

大阪・法善寺横丁は馴染みのエリア。風情ある石畳に映えるデニムコーデ【竹本織太夫 着こなしの美学】6

文楽の太夫として活躍している竹本織太夫さんの、舞台上の肩衣に袴姿は華があって素敵♡と大評判。実は普段のファッションも洗練されていて、ファンから注目されています!! そんな唯一無二のこだわりのファッションを、織太夫さんのホームとも言える、地元大阪の法善寺横丁で披露していただきました。

▼法善寺でお聞きした文楽の奥深いお話はコチラ
竹本織太夫 大阪・法善寺で有吉佐和子『一の糸』との深い縁を語る【文楽のすゝめ 四季オリオリ】第6回

法善寺横丁は、馴染み深い場所

法善寺横丁とは、法善寺の北側にある路地のことを指します。ミナミの繁華街にありながら、静かな情緒が漂う場所です。東西両端にある門には「法善寺横丁」の文字が掲げられていますが、西は藤山寛美※1東は三代目桂春団治※2が揮毫(きごう)したものです。「この善の文字を見てください。何か違うのがわかりますか?」と、織太夫さんが指し示した藤山寛美の看板の文字を見ると……。あれ、棒が1本足りない!? 『私は1本抜けた人間やから』と、あえて1画抜かして書いたとのエピソードが残っているそうです。大阪が誇る喜劇王のしゃれっ気を感じますね。

この路地の両側には、老舗の割烹やバー、お好み焼きや串カツ店などが並び、地元の人から観光客まで多くの人に親しまれています。弟で三味線弾きの鶴澤清馗さんの同級生が開いているお店もあるそうで、ふらっと気軽に立ち寄れる場所なのだそうです。

※1 天才的な間の良さで、阿呆(あほう)役で一世を風靡した喜劇役者。
※2 上方落語の発展に貢献した落語家。

石畳に映えるセットアップのデニム

細い路地は石畳が続いているので、どこか懐かしいような風情。元々はアスファルト舗装だったのを、昭和57(1982)年に南海電車から敷石を譲り受けて、この石畳になったそうです。これを記念して、毎年8月10日、11日は法善寺境内を会場に、各店が手作りの夜店を出店し、演芸や文楽の奉納で賑わう「法善寺横丁まつり」が開催されます。

織太夫さんに路地の中央に立っていただきました。上下のデニムをすっきりと着こなしたコーデが映えますね!! 法善寺横丁は、この場所を舞台にした小説や映画、歌謡曲が誕生したことでも知られています。このショットは、映画の一場面のようではないでしょうか!?

お待ちかねの編集長の解説!!

今回も、ファッション誌を歴任してきた和樂web鈴木深編集長が解説します! 大阪の情緒溢れるスポットに合わせたコーデは、いかがでしょう? 皆様、編集長渾身の解説を、お楽しみください!!

ファッション解説・鈴木深
はい、今回はデニムの上下(いうなればこれもスーツ姿)でご登場です。
一見、街の風景に溶け込んでしまいそうなインディゴの上下は、実はいつも以上にデンジャラスな匂いをプンプンさせているのにお気づきでしょうか!?
シロウト目にはフツーのオジさん(いや、オリさん)に見せかけたデニムの上下は、デニムマニアやリーバイス・ポリス(笑)が愛してやまない、いわゆる「大戦モデル」のデニムジャケットとパンツです。

「大戦モデル」とは、第二次世界大戦下で生産されていたリーバイスのジャケットとパンツのことで、資材節約のためデザインが簡素化されているのが特徴。
ジャケットの前立てにつけられたボタンは通常より1個少ない4個で、ボタンの形も真ん中に穴の開いたドーナツ型で、ディテールはいたってシンプル。
「さすが織太夫さん、わかって着てるよね」と言って、軽~く記事をしめくくるとお思いでしょうが、そうは問屋が卸しません!
ここまでの話はデニムマニアであれば、まぁよくある話しです。
しかしですよ! 織太夫さんのド変態値がすごいのはここからなんです!

※たぶんまたまた今回も長くなると思いますので、お時間のない方は以下読み飛ばしていただいてOKです。

「大戦モデル」を着る人はそれがオリジナルアイテムであれ復刻アイテムであれ、ことさらヴィンテージ感をアピールしたがるものです。そして一度でも「大戦モデル」を着たことがある人はよく分かると思いますが、デニムジャケットのサイズ感が日本人の体に合うことは稀で、どうしても身幅があまり、中で体が泳いでしまいます。
でもオリジナル感やヴィンテージ感を重視するデニムマニアは「これこそが大戦モデルの醍醐味❤」とか思っちゃったりするわけです。
リーバイス・ポリスから見ればデニムの経年変化はリスペクトの対象で、手直しを加えたりするなんて言語道断! なわけです。
ところが!
我らの太夫の着こなしをよーく見てください。
「大戦モデル」のジャケットにしては、妙に体にフィットしていると思いませんか?

第一ボタンまでキチッと留められた首元は、まるで「ビスポークのシャツですか?」と聞きたいくらいにベストフィット。
アームホールが狭い肩まわりもコンパクトで、アームの細さも思わず「モード系ジャケットですか?」と聞きたいくらいのタイト感!
つまり…われらが太夫は「大戦モデル」のジャケットを、あろうことかなじみのテーラーに持ちこんでバラバラに解体して、自分の体にピッタリ合わせて作り直しているんです!!
もうこの時点で、いわゆるデニムマニアとは一線を画し「オリジナル感やヴィンテージ感をありがたがるより、俺の体にぴったり沿っていることの方が重要なんだよ!」と、またしても織太夫節が炸裂です。

そしてさらに!
注目すべきは、このインディゴの色合いです。
デニムマニアがありがたがるヴィンテージ感とは真逆の、ノンウォッシュかと見まごうほどのクリーンで深みのあるインディゴブルーです。
「大戦モデル」のジャケットとパンツを、あえてノンウォッシュなインディゴブルーの上下でまとめ、なおかつ第一ボタンまできちんと留める潔い着こなしはさすが!

ちなみにパンツのロールアップはきっちり1インチ(=2、5cm)で、いつもながらブーツにかかるかかからないかの絶妙な丈。
「大戦モデル」であっても、それを着こなす織太夫さんの美意識は、1ミリたりとも揺るぎません。カシミアのスーツを着こなすときもしかり。デニムの上下を着こなすときもまたしかり。
「俺だってヴィンテージの良さは大好きだよ」
「でも、古いモノをただありがたがるのはつまらないよね。何よりも譲れないのは、ジャケットもパンツも俺にベストフィットしていることなんだよ!」
「この温故知新の俺の美意識、どうせ誰もわからないでしょ」
とおっしゃっているのが、着こなしからまるで大音量で聞こえてくるようです。

取材・文/ 瓦谷登貴子

竹本織太夫さん情報

Spotifypodcast 『文楽のすゝめ オリもオリとて』
X文楽のすゝめ official

Share

竹本織太夫

竹本織太夫(たけもと おりたゆう)人形浄瑠璃文楽 太夫。1975年生まれ。大阪市出身。大伯父は四代目鶴澤清六。祖父は二代目鶴澤道八。伯父は鶴澤清治、実弟は鶴澤清馗。1983年、8歳で豊竹咲太夫に入門。初代豊竹咲甫太夫を名乗る。1986年、10歳で国立文楽劇場小ホールにて初舞台。2018年六代目竹本織太夫を襲名。実業之日本社から『文楽のすゝめ』シリーズを3冊既刊。NHK Eテレの『にほんごであそぼ』に2005年からレギュラー出演するなど多方面で活躍。国立劇場文楽賞文楽優秀賞等受賞歴多数。
おすすめの記事

マスタード色のジャケットに込めた思い【竹本織太夫 着こなしの美学】2

連載 竹本織太夫

緑豊かな神戸にマッチするキャンパスコーデ...実は超ストイックスタイル!?【竹本織太夫 着こなしの美学】3

連載 竹本織太夫

編集長待望のファッション対談!スーツ愛♡が止まらない【竹本織太夫 着こなしの美学】5

連載 竹本織太夫

自分史上最高級の肌に! 石井美保さんがライン使いする「クレ・ド・ポー ボーテ」の最高峰スキンケア「シナクティフ」

PR 和樂web編集部

人気記事ランキング

最新号紹介

12,1月号2024.11.01発売

愛しの「美仏」大解剖!

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア