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Fashion&きもの

2025.08.19

ふたたびの京都・伏見稲荷、散策ファッション&激推しグルメに密着!!【竹本織太夫 着こなしの美学】11

文楽の太夫・竹本織太夫さんの肩衣と袴姿に、熱視線を送っているファンはたくさんいます! また、がらっと印象が変わる普段コーデも素敵♡と大評判。そのこだわりファッションを紹介する連載の11回目は、前回に引き続き伏見稲荷へ。度々この地を訪れている、織太夫さんお勧めのお店に同行させていただきました!

文楽の魅力を伝える【文楽のすゝめ 四季オリオリ】最新回は、コチラ

織太夫さんイチオシ豆大福が絶品!

お稽古や公演の合間に、よく和菓子を召し上がっておられる織太夫さん。伏見稲荷へ来た時に必ず立ち寄るのが、『稲荷ふたば』だそうです。こちらのお店は、出町柳の名店『出町ふたば』から暖簾分けをされて、現在創業約90年。純和風のレトロなたたずまいが、なんだかほっとくつろいだ気分にさせてくれます。

いつも購入されるのが、人気の豆大福だそうです。甘さ控えめのこしあんが絶妙なのだとか! 「今日は、このあとお稽古があるんですよ」と話されていた織太夫さんは、お弟子さんたち用に大人買いをされていました!

通い続けるお気に入りバーガー店

次に織太夫さんが案内して下さったのが、『ドラゴンバーガー伏見稲荷店』。スタイリッシュな外観の店先に、貴族が腰掛けるようなゴージャスなソファーが置かれていて、先ほどのお店から急に雰囲気が変わります。海外からの観光客が多く、どこか異国へ紛れ込んだような…。 

「年が明けてすぐで、空いているお店がなくて困っていた時に、たまたまこちらを見つけたんです。そうしたら、ハンバーガーがものすごく美味しくて! すごく美味しいと感想を言っていたら、そばにおられた方が、このハンバーガーを考案されたアダム・ローソンさんだったんです」。ロンドンで開催されるハンバーガーの大会で、2年連続チャンピオンの経歴を持つアダム氏は、世界各地を飛び回る天才シェフ。このお店で出会えることは、珍しいそうです。織太夫さんのスマホに保存された、2人で肩を組んでにっこり笑顔の写真を見たお店の方が驚いておられました。

粗挽きのパテは、肉々しくて存在感があります。

ヘビーリピーターとなった織太夫さんは、全種類のバーガーを制覇されたそうですが、今日は最初に召し上がられた「京クラシック」をチョイス。アダム氏が厳選したお肉と、地元京野菜のハーモニーが唯一無二のバーガーを作り出しているようです。そして伏見稲荷大社をお参りした後とあって、『ジンジャ(神社)』にエールの気持ちを込めて、クラフトジンジャーを注文されていました。

ふたたびの伏見稲荷コーデに注目!!

こちらの連載で継続中の『和樂web』鈴木 深編集長のファッション解説!! 織太夫さんが身にまとうコーデへの熱量が強すぎて、「何を言っているのかわからないけど、面白い!」と、読者の皆さまから戸惑いつつの、応援をいただいてオリます。さて、今回はどうなりますでしょうか…。

ファッション解説・鈴木 深

今回もやります、編集長の「勝手にファッション解説」。
しかし…なかなかに今回は難しいです。
その理由は「白パンツ」にあります。
おそらくいつも以上に長くなりますので、時間のない方は最初から離脱していただいて結構です。

一般的には男性が「白パンツ」を身に着けるとき、多くの人が「夏らしく、クリーンに、さわやかに見られたい」という願望を抱くものです。
なんなら「白パンツ」は、まとうだけで“さわやかさ20%増し”だってかなえてくれる神アイテムとも言えるでしょう。
さらに言えば、「健康的で優しくて明るい人」に見られたい!というよこしまな願望にまみれた輩が手を出す便利な「お手軽変身アイテム」だとも言えるかもしれません。

ところがですよ、われらが大夫の「白パンツ」の着こなしからは、そんな軽~い夏らしさとか、スポーティな(女子うけを意識したような)さわやかさなんて、1ミリも漂ってきません。
むしろ “あふれ出るエネルギー”や“刃物のような鋭さ”がプンプン漂い、そこから立ち上る“えも言われぬ迫力”がビンビンに噴き出していて、何度見ても一般の「白パンツ」スタイルとかけ離れているような気がしてなりません。

今回はその理由を検証していきます。

まずはジャケットです。
オリ(織)ーブカラーが夏らしいこちらの逸品は、素材感がとても涼しげ。それもそのはず、このジャケットは1964年、米軍がヴェトナム戦争に軍事介入、現地の高温多湿な気候に合わせて開発された「ジャングルファティーグ」と呼ばれる戦闘服なのです。戦闘服としての正式名称は「コンバットトロピカル」。初期は薄手のコットンポプリンを使用、我らが太夫が着用しておりますジャングルファティーグはフォース! つまり四代目で、素材は軽くて動きやすく、水に濡れてもすぐ乾き、ジャングルの中でも木の枝やナイフに引き裂かれにくいリップストップに素材変更されたものを着用。
只者でない風情の太夫がこの戦闘服を羽織れば、そりゃぁもう、いくら隠したところでそこはかとなく殺気も漂ってしまうというわけですよ。

お次は存在感抜群のサングラス。
これは“ジャックマリーマージュ”の早坂文雄モデル。早坂氏は映画音楽の巨匠で、黒澤 明監督の「羅生門」や「七人の侍」、溝口健二監督の「雨月物語」など、ドラマティックでスケールの大きな作曲で知られる御仁。若くして結核を患い、命を削りながら一切の妥協を許さず名作を次々と生み出し、41歳で幕を閉じたその生涯はあまりに壮絶。そんな早坂氏の生き方に、我らが太夫が強いシンパシーを感じないわけはありません。

この早坂文雄モデルのアイウエアは、10ミリという厚さの重厚なフレームでありながら素材は華やかなクリアセルを採用、これに太夫はブラウンガラスをセレクトしています。小ロットだけしか生産されないこちらの逸品は、フランス人デザイナーによるLA発のブランドでありながら、日本の福井の熟練した職人たちによる手作業で組み立てられている希少品。

しかしですよ、この工芸品レベルの美しい名品は、静かに見えて相当な暴れ馬です! こんなアイウエアを一般の人が気楽に身につけたら大怪我します。キャラ負けします。こちらを着こなすには、強烈なキャラとアイウエアに負けない相当の自信が不可欠です。

このサングラスをこともなげに身につける太夫は、いわば狂乱の暴れ馬・赤兎馬にまたがった戦場の巨人・呂布の如く、黙ってそこにいるだけで凄まじい殺傷能力を全身からブンブンに発散しています。

そしてシャツです。
太夫のシャツといえば、ご存知イタリア・ミラノで長年シャツをつくり続けるマンデッリおばちゃまによる手縫いの極上シャツです。
太夫にはめずらしく幅白(1cm)×グレー(1.5cm)のいかにもピスボークなストライプシャツですが、100%リネンの夏らしい風合いと、さりげないホリゾンタルカラーが大人の風情。前立てもポケットもない、抑えたデザインが繊細です。これを「白パンツ」にあわせて前をガバーっと開けてしまうと、避暑地のイタリアおやじにありがちな「ビバ!セクシーな俺、アバンチュール大歓迎!」てなことになってしまうのですが、太夫が開けるのはあくまで一番上のボタンひとつだけ。その理由をあえて聞くと、ニヤリと笑って「僕はチョイ悪オヤジではございませんので!」と即答。

はい、その通りです。「ちょっとだけ悪い」などという中途半端な立ち位置で太夫がよしとするはずもありません。単なる「好印象に魅せたい」「あわよくばモテたい」などというよこしまな作戦は太夫には無用です。

ここまで解説してきて、あらためてよくわかりました。
そもそも太夫は「周りから印象よく見られたい」なんて微塵も思っていないのです。そんな理由で「白パンツ」を選んだわけでは全くないのです。文楽と同様に、生き方も装いも自分の進むべき道を邁進するだけなんです!

そんな太夫の着こなしに、一般的な「白パンツスタイル」を重ねて語ろうとした僕が愚かでした。ド変態的なこだわりで(褒めてます、褒めてます!)独自の道を突き進む太夫のスタイルは、その存在の仕方がダンディズムそのものであり、他と比べるという行為自体が意味をもたないのです!
この着こなし連載も11回目にして、今さらながら「織太夫」という存在の大きさを再認識し、そのユニークさには改めて驚愕!です。

でも…そんな織太夫さんでも「白パンツ」の汚れはとても気になるようで、ご自身でこまめに漂白してらっしゃるようです。

取材・文/ 瓦谷登貴子
取材協力/ 稲荷ふたば、ドラゴンバーガー伏見稲荷店

竹本織太夫さん情報

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竹本織太夫

竹本織太夫(たけもと おりたゆう)人形浄瑠璃文楽 太夫。1975年生まれ。大阪市出身。大伯父は四代目鶴澤清六。祖父は二代目鶴澤道八。伯父は鶴澤清治、実弟は鶴澤清馗。1983年、8歳で豊竹咲太夫に入門。初代豊竹咲甫太夫を名乗る。1986年、10歳で国立文楽劇場小ホールにて初舞台。2018年六代目竹本織太夫を襲名。実業之日本社から『文楽のすゝめ』シリーズを3冊既刊。NHK Eテレの『にほんごであそぼ』に2005年からレギュラー出演するなど多方面で活躍。国立劇場文楽賞文楽優秀賞等受賞歴多数。
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