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2022.03.24

しぼりたての醤油のおいしさ、知ってる?今話題の「手作り醤油キット」あふれる魅力を紹介します!

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我が家の味。それは世界にひとつの味であり、自分の心身に染み込んでいく味でもあり。ここに我が家流の自家製調味料があったら、どうでしょう。いつもの料理がぐっと奥深い味わいになりそうです。

そこで今回紹介するのは、じわじわと注目を集めている「醤油づくり」。醤油づくりと聞くと「ハードルが高そう!」と思う人も多いかもしれません。つい先日まで私自身もそう思っていましたが、「手作り醤油キット」という画期的な商品との出会いにより、念願かなって醤油を仕込むことができました。

仕込むだけでなく、完成を待つ時間も楽しみのひとつ。変化していく様子を眺めていると、何とも愛おしい気持ちになります。そこでその魅力を深堀りすべく、キットを開発した醤油蔵にインタビュー! この記事では、醤油づくりの奥深さと楽しさをたっぷりお伝えします。

手軽だけど本格的! 話題の「手作り醤油キット」とは

私が今回利用したのは、大徳醤油株式会社さんが制作・販売している「手作り醤油キット」。自宅で手軽に醤油を作れるように開発されたものです。

キットの内容は、麹(こうじ)と塩、しぼり布、説明書。これら一式がシンプルなデザインの巾着袋に入っています。あとは、保存容器や水、軽量カップ、ボウル、木べらなどを用意すれば、準備完了。

作り方は、大きく4つのステップです。

1. 食塩水づくり……塩に水を加えて溶かし、濃度23%の食塩水をつくる
2. 醤油麹を仕込む……麹をほぐして保存容器に入れ、1の食塩水を加えて混ぜる
3. 酸素を与える……最初の1週間は毎日よく混ぜる
4. もろみを包んでしぼる……好みの味に熟成されたら、しぼり布でもろみをしぼる(目安は、仕込みから1年後)

麹や塩などの材料は、計量された状態で届きます。まさに、至れり尽くせり。仕込みにかかる手間が少ないので、初心者でも挑戦しやすい! 「材料の余りが出ない」というのもうれしいポイントですね。

我が家では3才の息子と一緒に仕込みました。私も息子も、初めての醤油づくりに興味津々。いつも食べている醤油がどうやって作られるのかな? 理科の実験のような気分で、何とも楽しかったです。完成した醤油を見ることはあっても、素材に触れるのは今回初めて。息子は、麹と塩水から醤油が作られるということが不思議でたまらない様子でした。

最初の1週間は、様子を観察しながらよくかき混ぜます。見た目も少しずつ変化してきて、全体的になじんできました。今年1月に仕込んだので、来年の正月頃に完成予定。「できあがった醤油を何に使おうか?」と聞くと、「納豆にかけたい」「焼きおにぎりにしたい」などいろんな答えが返ってきて、イメージがどんどん膨らみます。私自身はおせち料理に自家製の醤油を使いたいなぁと。完成が楽しみで仕方がありません。

醤油づくりの魅力をより深く知るべく、醤油蔵にインタビュー

醤油づくりにすっかり魅了されてしまった私。醤油キットや醤油づくりについてもっと深く知りたいと思い、醤油づくりキットを制作・販売している大徳醬油株式会社さんにオンライン取材。同社の代表取締役社長である浄慶拓志(じょけい たくし)さんにお話を伺いました。

ーーまず、醤油づくりがとても手軽にできることに驚きました。

麹のプロの人でも「醤油づくりはハードルが高い」と思っていることがあります。かつての農村部では、おばあちゃんたちが集まって醤油を手作りしており、そこまで難しいものではありません。キットでは「手軽さ」を大切にしながら、伝統的な醤油づくりを体験してもらいたいと思い、開発しました。

ーー伝統的な醤油づくり、というのは?

私たちの醤油蔵では「天然醸造」という方法で、原料や製法にこだわり、ゆっくり時間をかけて醤油を作っています。キットでは、こうした作り方を再現しています。たとえば、キットの塩は長崎県の崎戸島の平釜塩「海はいのち にっぽんの海塩」を使用するなど、厳選した素材を使っています。醤油づくりにおいて大切な工程は「一麹(いちこうじ)、二櫂(にかい)、三火入れ(さんひいれ)」。キットを通して、こうした古くからの食文化にも触れてもらえるとうれしいですね。

ーー醤油づくりキットを始めてみよう、と思ったきっかけは。

実は、醤油づくり自体は1910年頃のひいおじいさんの代からやっています。父の代では、手作り醤油キット「麹くんともろみさん」というものを作っていました。現在のキットに至ったきっかけは、私が会社に入ったときに、伝統的な醤油づくりが少なくなっていることに危機感を覚えたこと。醤油がペットボトルの水よりも安い価格で売られており、それが当たり前になりつつある。これは消費者と生産者の距離が離れてしまっていることとも、関係しているのではないか、と感じました。

ーーなるほど。その後、どんな流れでキットの開発に至ったのでしょうか。

醤油を一度でも作った経験のある人であれば、あまりに安い価格で売られていると「それはおかしい」とわかる。でも経験がなければ、不思議に思うことすらありません。その結果、スーパーで売られている価格が唯一の基準となり、生産者はコストを落とした生産を余儀なくされています。こうした悪循環を何とか改善したい。そこで、より親しみやすくたくさんの人に知っていただけるように、キットを含めた「醤油じかん」というプロジェクトを2008年からスタート。2017年にクラウドファンディングでキットの開発費などを集め、2018年から「手作り醬油キット」の販売を始めました。

「醤油じかん」ーーしぼりたての味やもろみも楽しめる

ーー実際にキットの販売を始めてみて、お客さんの反応はいかがでしたか。

キットを販売する前も、料理教室の先生や醤油づくりを経験したことのある年配の人たちなどから「醤油づくりをしたい」「麹をわけてほしい」という依頼があり、対応していました。キットを販売してからは、一般の人たちの購入がぐっと増えました。特に最近では、コロナ自粛による「おうち時間」を楽しむために活用する人も増えています。私たちはゆっくり時間をかけて醤油をつくることを「醤油じかん」と呼んでいるのですが、おうち時間の響きとも似ていて上手に共鳴したようです。

ーー「醤油じかん」というのは、とても惹かれる言葉ですね。

醤油をゆっくり仕込むことで「優しい気持ちになれた」「貴重な体験ができた」という声もよく聞きます。幼稚園や保育園、小学校などが休園・休校になったときには、親子で醤油を仕込む人もたくさんいました。Instagramでは「#醤油じかん」としてその様子を投稿する人もあり、一躍話題に。作る工程も楽しいですが、しぼりたての醤油が味わえるのも好評のようです。

ーーしぼりたての醤油、ですか。

一般的な醤油では、「火入れ」といって酵母の働きを止めるために60°以上の熱を加えます。「生醤油」と書いている場合は、「膜ろ過(まくろか)」という方法で酵母をとることもあります。それに対して、しぼったままの醤油は「生揚げ(きあげ)醤油」と呼ばれていて、これがとてもおいしい。いろんな微生物が生きていて、奥深い味が楽しめます。どの時期にもろみをしぼるかによっても味が変わります。たとえば、早めの時期は甘味が残っていて旨味が少なく、味にキレがある。熟成が進むと、だんだん旨味が出てまろやかになっていく。こうした変化を楽しむのもおすすめです。

ーーなるほど。しぼった後のもろみもおいしそうです。おすすめの食べ方はありますか。

これが何でもおいしいんです! ポイントは、醤油を少量だけ使うこと。少し使っただけでもコクが出て、料理が味わい深くなります。トマト系のパスタに加えたり、卵かけごはんに使ったり。サラダや焼き菓子に使う人もいます。ほかには、肉などの下味として「もろみに漬けておく」という方法もあります。醤油の麹は大豆と小麦から作られており、たんぱく質を分解する働きがあります。肉が柔らかくなり、旨味を引き出すことができるんですよ。いろいろと紹介しましたが、なかには「しぼらずにそのまま使う」という人もいます。

作る人によって、醤油の味が変わる

ーーいろんな楽しみ方がありそうです。醤油を手作りする面白さをひとつ挙げるとしたら?

味が毎年変わること、ですね。作る人によっても味が変わります。もちろん醤油蔵で仕込んだ場合でも仕込みの時期や環境、微生物の状況などにより味が少しずつ変わりますが、手作りするとその変化がより大きくなるようです。

ーー作る人によって味が変わる、というのは。

家庭の環境や部屋の温度、部屋に住んでいる酵母、作る人が持っている菌などいろんな要素によって味が変わります。醤油づくりのワークショップなども開催していますが、持ち帰った後の状況で発酵の具合なども異なってくる。たとえば、ご夫婦で参加した場合、奥さんと旦那さんのどちらが混ぜるのかによって味が変化することもあります。

ーーまるで、生き物みたいですね。

生き物そのものなんです。どう味が変わるのかは、私たちですらまったく読めません。でも、そこが面白いと思っています。

ーー貴社のサイトでは手で混ぜている様子がありました。

木べらなどで混ぜる人が多いですが、手を使っても問題ありません。塩で生きられる菌だけを残すのが、醤油づくりの技術。微生物には耐塩性のものとそうでないものがいて、塩に耐えられる菌だけが残ります。もし手に雑菌が付いていたとしても、醤油の発酵に悪いものは死んで、良いものだけが残っていくんです。お子さんが手で混ぜても大丈夫。醤油を素手で混ぜていたら手がすべすべになった、という話も聞いています。

醤油を混ぜるのは、昔は子どもの仕事だった

ーー昔と今では、醤油の味なども変化していますか。

昔の醤油は高級品でした。味はかなりしょっぱくて、塩分20%を超えていました。現在の一般的な濃口醤油は16.5%なので、ずいぶんと違いますよね。そのため、素材の味を引き立てるために少量だけ使われていました。料理に溶け込んで、醤油の味は消えていく。それが昔の醤油の使い方で、脇役的な役割だったんです。

ーーそういえば。先日、おでんの仕上げに醤油を少しだけ加えたら味がピタリと決まりました。

醤油はそれひとつで味のバランスが取れている。「フランス料理の隠し味として使われていたのは醤油だった」という話も聞いています。フランス料理のシェフはなぜかそれを隠していたようですが(笑)。醤油は、万能調味料なんです。フランス料理だけでなく、どんな料理に使っても合うと思っています。

ーー醤油づくりを長年行うなかで、印象に残っているエピソードはありますか。

印象深いエピソードはとてもたくさんあります。そのなかでひとつ紹介するとしたら、あるワークショップに参加してくれた年配の女性の言葉です。彼女の参加動機は「自分の世代でやめてしまった醤油づくりをまた再開したい」ということでした。お話をしていると「昔は醤油を混ぜるのは子どもの仕事だった」とのこと。私はよく「醤油を混ぜると体にいい菌が付くので、体が丈夫になりますよ」とお伝えしていたので、彼女の言葉がすごく腑に落ちたんです。

ーー醤油を混ぜるのは、子どものお手伝いであり、体の健康を保つためでもある、と?

そうですね。醤油を混ぜるという行為には、いろんな意味が含まれているんだぁって。昔の人はこんなことまで考えて醤油を作っていた。思いがけないところで、醤油づくりの素晴らしさを再確認しました。

「人生に一度は醤油を手作りしてほしい」

ーーお話を聞いていて、醤油づくりの奥深さや楽しさがよくわかりました。

私は長年醤油づくりに携わっていますが、世界的にみても優れた調味料だと思っています。どんな料理との相性も良く、体にもやさしい。一緒に暮らし、育てることで「私だけの醤油」になる。こうして出来上がった醤油は、いろんな料理に活用できて我が家の味を引き立ててくれます。作った人の体にやさしいことは言うまでもありません。

ーー醤油づくりはいつ始めても大丈夫ですか。上手に管理するコツなどがあれば教えてください。

醤油づくりは、真夏以外はいつ始めても大丈夫です。3月など春先からは温かくなるので、発酵が進みやすい。産膜酵母という白い膜が表面に付きやすくなります。よく観察して膜が出てきたら、混ぜるようにしてください。できるだけみんなの目に留まるように、リビングなどに瓶を置いておくのもおすすめです。直射日光を避ければ、少しぐらい温かい場所でも大丈夫。1年を目安に、ゆっくりゆっくり熟成させてくださいね。

ーー最後に、和樂web読者に向けてのメッセージを。

人生に一度は醤油を手作りしてみてほしい。たとえば、子どもが「醤油作ったことあるで」と言ってくれたら、とてもうれしいです。安いものが求められていくという悪循環ではなくて、昔ながらの醤油の魅力や価値をより多くの人と共有し、質の高いものを作り続けていきたい。まずはキットを通して、醤油作りの楽しさを気軽に体験してもらいたいです。日本が世界に誇る醤油づくりを、未来の子どもたちにもぜひ残していきたいと考えています。

◆大徳醤油株式会社
住所:兵庫県養父市十二所930-3
営業時間:AM8:30~PM6:00
公式サイト:https://daitoku-soy.com/

書いた人

バックパッカー時代に世界35カ国を旅したことがきっかけで、日本文化に関心を持つ。大学卒業後、まちづくりの仕事に10年以上関わるなかで食の大切さを再確認し、「養生キッチンふうど」を立ち上げる。現在は、風土食をのこす・つくる・伝える活動をしている。好奇心が旺盛だが、おっちょこちょい。主な資格は、国際薬膳師と登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。https://www.kitchenfudo.com/