
「展覧会のタイトルに〝永遠なる〟と付けたのはそこです。タイムレスなんです」
──アレクサンドリン・マヴィエル=ソネ
ヴァン クリーフ&アーペル パトリモニー&エキシビション ディレクター
「宝石って、ある種 永遠なものですからね」
──坂東玉三郎
女形歌舞伎俳優・人間国宝
東京都庭園美術館の本館2階の妃殿下居間に展示された「ホワイトジュエリー(ダイヤモンドとプラチナがあしらわれた作品)」を眺める玉三郎さんとアレクサンドリンさん。アール・デコ建築と作品が対話するかのような絶妙な展示空間をつくり出したのは建築家の西澤徹夫氏。
100年前のパリ、アール・デコ博覧会でグランプリを受賞したブレスレット。
「100周年をお祝いする最適な機会だと思いました」──アレクサンドリン
「それぞれがとても大事にされていたんだろうな」──玉三郎


絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット 1924年 プラチナ、エメラルド、ルビー、オニキス、イエローダイヤモンド、ダイヤモンド / ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©︎Takashi Okamoto
雫の形をしたエメラルドが美しい

コルレット 1929年 プラチナ、エメラルド、ダイヤモンド / ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©︎Takashi Okamoto
ロングネックレスからの脱却

コルレット 1928年 プラチナ、ダイヤモンド / ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©︎Takashi Okamoto
坂東玉三郎さんが出合うヴァン クリーフ&アーペル――フランスと日本「美の対話」【後編】はこちら >>
アール・デコ博100周年を祝す、世界注目の展覧会のバックストーリー
文・福田詞子(英国宝石学協会 FGA)
「ヴァン クリーフ&アーペル」のハイジュエリーとアール・デコ建築の対話をテーマに開催された注目の展覧会「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ─ ハイジュエリーが語るアール・デコ」も、いよいよ終盤へ。このかつてない試みを実現へと導いた東京都庭園美術館学芸員とセノグラファーのふたりに、あらためて本展の見どころと、とっておきのバックストーリーを伺いました。
この展覧会の目的は、生活を豊かにする
〝アール・デコの真の魅力〟を現代に伝えること
語り・方波見瑠璃子 東京都庭園美術館学芸員
「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ─ ハイジュエリーが語るアール・デコ」は、東京都庭園美術館の学芸員である方波見瑠璃子さんの探究心と情熱によって意義深いものになった展覧会だといえます。彼女は、「ヴァン クリーフ&アーペル」が擁す膨大なアーカイブの資料・文献を丹念に読み込み、アール・デコの本質を最もよく伝える作品を選びました。
本展の準備段階では、「ヴァン クリーフ&アーペル」のパトリモニー&エキシビション ディレクターであるアレキサンドリン・マヴィエル=ソネさんとそのチームとの対話が重要な鍵になったといいます。方波見さんは、〝アール・デコとは何かを伝える〟という明確な目的を示しながら、1作品ずつ出品の可能性を探り続けました。本人が「臆せず意見をぶつけた」と語るように、その揺るぎない姿勢は交渉の場において確かな説得力をもたらし、特別に展示が許された作品もあるほど。本展の内容が充実した背景には、こうした見えない信頼の積み重ねがあったのです。
本展では、アール・デコ期のハイジュエリーだけでなく、当時の女性たちの新たな生活様式を映し出したエレガントな実用品にも光が当てられました。その代表的なものとしては、女性の社会進出が進んだ時代に生まれた、密かに時間が確認できる「カデナ リストウォッチ」や、外出に必要なものをカスタマイズして携帯できる「ミノディエール」が挙げられます。それらに息づくのは、機能と美を軽やかに融合させたアール・デコの精神だといえるでしょう。
さらに、1910年代のアーカイブの資料のなかには、素材と色の実験的な組み合わせに試行を重ねたアール・デコ確立前夜の痕跡も…。方波見さんは、それらの資料を手掛かりに展示作品を絞り込んでいきました。こうして選び抜かれた作品と資料は、単に美しいだけでなく、当時の人々の暮らしに息づくアール・デコの多様性と自由な精神をも現代に伝えてくれます。

会場風景 東京都庭園美術館 本館 正面玄関 ©Van Cleef & Arpels

ロングネックレス 1924年 プラチナ、エメラルド、ルビー、サファイア、オニキス、エナメル、ダイヤモンド / ヴァン クリーフ&アーペル コレクション ©Van Cleef & Arpels

カデナ リストウォッチ 1943年 イエローゴールド、ルビー / ヴァン クリーフ&アーペル コレクション © Van Cleef & Arpels

試行の末に生まれた独自の空間演出が、歴史的建築とハイジュエリーの対話を実現
語り・西澤徹夫 建築家
本展のセノグラフィーを手がけた建築家の西澤徹夫さんは、来館者から寄せられた「最初からここにあったかのようだ」という声を、最大の賛辞として受け止めています。会場に新たに設置した展示ケースや床材が、旧朝香宮邸の建築に違和感なく溶け込み、建設当時からそこに存在していたかのように…。それは、この仕事の依頼を受けた当初から掲げていた目標でした。
特に注力したのは、建築とジュエリーのスケールの違いをどう橋渡ししていくかという点。邸宅の広い間口や高い天井がつくり出す伸びやかなスケールから、数センチ単位のジュエリーへと視線が自然に移るよう、西澤さんは展示ケースを大きな塊にせず、複数のブロックに分けて配置。この構成が空間にリズムを生み、来館者の視線を段階的に導く役割を果たしています。その展示ケースに使用する木材や石材、ファブリックも、部屋ごとに色や質感を変え、各部屋の内装に呼応するよう、考え抜かれています。
それが最もよく表れているのが、本展の導入となる小客室です。緑色を基調とした室内にはアンリ・ラパンによる壁画が広がり、暖炉には深い緑色を帯びた蛇紋岩が据えられています。展示ケースにも同じ石を用い、土台部分には緑がかったグレーベロアを組み合わせることで、空間が生み出す色調との連続性を実現しました。
そして、文化財建築での展示には、多くの技術的な制約や困難が伴います。200キロを超える展示ケースを安全に設置するため、建物の床下の梁の位置を構造専門家とともに綿密に調査したうえで配置場所を決定。しかし、さまざまな事情によって数センチ単位の位置修正が求められることもあり、そのたびにすべてを再調整する作業が繰り返されました。また、セキュリティの問題で展示ケースには防弾ガラスを使用。ガラスの接合部にはステンレススチールによる補強も施されています。
こうした難題のひとつひとつを解決することができたのも、西澤さんならではの「チューニング」と呼ばれる〝整える力〟があればこそ。建築、展示、作品のすべてが調和する最適点を探り続け、その結果が冒頭の来館者の言葉へと繫がっているのです。

会場風景 東京都庭園美術館 本館 妃殿下居間
© Van Cleef & Arpels

会場風景 東京都庭園美術館 本館 小客室
© Van Cleef & Arpels

Information
「永遠なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ─ ハイジュエリーが語るアール・デコ」
会期:2026年1月18日(日)まで
会場:東京都庭園美術館 東京都港区白金台5-21-9
開館時間:10時~18時(入場は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜および年末年始(12/28~1/4)
祝日の月曜日は開館、翌日の火曜日は休館
※日時指定予約制。観覧料など詳細は、下記の展覧会特設サイトでご確認ください。
https://art.nikkei.com/timeless-art-deco/
構成/新居典子(対談分)、高橋木綿子(本誌)
※本記事は『和樂』2026年2・3月号の転載です。

