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2017.03.15

伊藤若冲VS河鍋暁斎!!ふたりの天才絵師の画業きもかわ対決!

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18世紀の京都画壇において、だれにも真似のできない超絶技巧を駆使し、独自の絵画世界を確立したのが、天才の名をほしいままにする伊藤若冲です。モダンな感性で描かれた若冲の作品は、類を見ない輝きを放ちながら、今現在も多くの人々を魅了し続けています。翻って、若冲が没して31年後にこの世に生を受けた河鍋暁斎もまた、その技巧の確かさとユーモアのセンスにかけては、決して引けを取ることはありませんでした。ふたりの絵師に共通しているのは、画業の一歩を踏み出す際に狩野派の絵師に学んだことがあるということ。さらには、さまざまな古画を徹底的に研究し尽くしたという点にあります。

技巧もアイディアもケタはずれ!! 伊藤若冲と河鍋暁斎の作品を比べてみた

和樂webでは、そんなふたりの奇才の作品を比べてみました。題材は「蛙」と「妖怪」。若冲と暁斎のユーモアとセンスが爆発しています。

蛙で対決!!

墨の濃淡と筆勢の緩急を自在に操り、単純でありながら表情豊かな蛙の姿を描き出した若冲。ユーモラスな表情づくりにかけては、やはり右に出る者はいません。暁斎もまた、奇抜なアイディアを駆使して動物たちを愛らしく擬人化しましたが、その方向性は似て非なるもの。京都人と江戸っ子の違いが、こんなところに出ているのかもしれないですね。

スクリーンショット 2017-03-15 11.47.19伊藤若冲『蛙図』一幅 紙本墨画 107.9×29.4㎝ 18世紀・江戸時代 個人蔵

蓮の実の太鼓を打ち鳴らす蛙と、蓮の葉の扇子を片手に茎で曲芸を見せる蛙。その上では別の蛙が三味線をひいています。写実的な蛙の姿が逆に可笑しみを生む一作。速筆でひかれた確かな墨の線は、若冲の描く水墨画の戯画にも共通する点であり、ふたりが高いスキルを宿していたことが如実に伝わってきます。

スクリーンショット 2017-03-15 11.50.19河鍋暁斎『蛙の放下師』一幅 紙本淡彩 132.7×45.5㎝ 明治4~22(1871~89)年 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection,London
Photo:立命館大学アート・リサーチセンター

妖怪で対決!!

「付喪神」とは、長い年月にわたって使われてきた茶碗や湯のみなどの古物につく精霊のこと。いわば骨董品の妖怪のような存在です。八百万の神を信じて来た日本人の感性が息づく妖怪たちだが、若冲はその姿を見事なまでにユーモラスに描き出しました。暁斎の擬人化によるキャラクターたちもかわいさ満点ですが、若冲の想像力もまた天才的。

スクリーンショット 2017-03-15 11.53.44伊藤若冲『付喪神図』一幅 紙本墨画 129.2×27.9㎝ 18世紀・江戸時代 福岡市博物館

シルクハットをかぶった洋装の骸骨が、日本刀をバックに三味線を弾き、それに合わせて妖怪が踊る……。なんとも奇想天外な発想が暁斎ならでは。ブラック・スーツやシルクハット、三味線の形を、輪郭線をほとんど用いずに墨一色で表現するのは、簡単そうに見えて実は卓越した筆さばきの成せる業。若冲も墨の濃淡で自在に形態を操りましたが、暁斎もまた若冲と同じくらいのテクニックを宿していたことを示す好例です。

伊藤若冲VS河鍋暁斎!!ふたりの天才絵師の画業きもかわ対決!河鍋暁斎『三味線を弾く洋装の骸骨と踊る妖怪』一枚 紙本淡彩 29.7×39.1㎝ 明治14~22(1881~89)年 イスラエル・ゴールドマン コレクション Israel Goldman Collection,London Photo:立命館大学アート・リサーチセンター

伊藤若冲と河鍋暁斎。伝記的な要素はどうでもよいとさえ思えるほどに、その驚異的な描写力と、それを可能にした多彩な技法を完璧に体得していたという共通点が見出されるのです。代表作である『動植綵絵(どうしょくさいえ)』をはじめとした、着色画における細密描写の超絶技巧ぶり、さらには水墨画で見せるケタはずれのアイディアと想像力の高さは、天才若冲の十八番でもあり、また同時に暁斎自身の持ち味でもありました。つまりそれは、暁斎という絵師が若冲に勝るとも劣らない才能を宿した、奇想の系譜に連なる絵師であることの、証でもあると言えるでしょう。