山形県湯田川温泉 『甚内旅館』
近隣の宿が共同して在来作物や土地の味を残そうと、おかみ乃おへぎで奮闘している山形県鶴岡市の湯田川温泉。
湯田川温泉町は、孟宗竹林、梅林公園と、緑豊かな丘陵に囲まれた土地。
板折(へぎ)と漢字をあてるへぎとは、神事の際に供物をのせた食台のこと。お膳より以前に用いたもので、庄内地方では食事時に使う銘々のお盆をこう呼びました。おかみ乃おへぎは、江戸中期にはじまった湯田川温泉の伝統の食スタイルを、山海と畑の幸に恵まれた食材と庄内の味で…と、6つの旅館が、月替わりの共通献立3品をおへぎにのせ、夕食に提供しています。
その働きの中心人物ともいえる女将、大塚せつ子さんの宿が、創業300年、客室10の「甚内旅館(じんないりょかん)」です。
江戸時代から残るおへぎは神事に使ったものゆえ簡素なつくりですが、そこにのせられる料理は女将の心づくし。甚内旅館では300年もの間、女将を中心に家族の手による料理でもてなしてきました。料理人が交替するといくばくかは変わるプロの料理ではなく、代々受け継がれる土地の味、宿の味。おへぎは素朴な郷土食ですが、夕食の会席膳も、小鉢がずらりと並ぶ朝食膳も、決して素人料理ではありません。
地元産のお米、「はえぬき」と「つや姫」を料理によって使い分ける。15ものおてしょ(お手塩の方言、小皿のこと)が並ぶ朝食膳にはつや姫を。
ユネスコの創造都市ネットワークへ食文化部門での加盟を目ざしている鶴岡市。その奥座敷湯田川の、斎藤茂吉や竹久夢二、種田山頭火(たねださんとうか)に横光利(よこみつりいち)一などが逗留しにぎわった、小さな温泉町の女将たちによる土地の味を、たっぷりどうぞ。
夏のおへぎ料理の一例。市内の外内島地区で栽培されてきた外内島きゅうりは、初夏のひと月程度しか収穫できない希少な在来野菜。苦みとシャキシャキ感が特徴で、油と醬油で炒めつけるけんちんという調理法で提供。夏イカとじゃがいもの煮付け、はっこいかぼちゃ(冷たいかぼちゃのポタージュ)とともに。
湯田川温泉のお湯ガイド
加水、加温、循環をしない、源泉かけ流しのお湯。無色透明の硫酸塩泉で、入浴にも飲泉にもよく、特に美白・美肌効果が期待できるという。由豆佐賣(ゆずさめ)神社の正面にあるその名も「正面湯」でも、宿泊客は無料で入浴できる。