「伝統は常に新しい」京菓子の王道をゆく
-文/植田伊津子和樂スタッフ(茶の湯、和菓子に強い。人物クローズアップ、きもの等)-
歴史の古い京都で、茶人から最も頼りにされるのが、地下鉄五条駅近くに店を構える「末富」。茶会の菓子で困ったときは末富さんという茶人たちの言葉どおり、当代随一の菓匠(かしょう)として知られる3代目主人・山口富蔵(とみぞう)さんに対する絶対的安心感は揺るぎない。NHKをはじめとした各方面から、出演や講演依頼がひっきりなしに舞い込むのは、山口さんの博識ぶりを見込んでのことだ。それほど山口さんの研究熱心な姿勢は、つとに知られてきた。
もともと末富は、老舗の「亀末廣(かめすえひろ)」で修業した初代が1893(明治26)年に暖簾分けを許され、「亀屋末富」を創業したのがはじまり。京都の和菓子店のなかで、100年以上の歴史をもつ店は少なくないが、末富は伝統の和菓子だけではなく、品格の高い現代の茶の湯菓子も積極的に手がけ、新しい和菓子の世界の先駆けとなっている。「古典の意匠や文学もきちんと頭に叩き込んだ上で、創造的な新しいデザインを提案しないといけません」と山口さん。
店の包装紙も、実に京都らしい。大和絵の名手、池田遙邨(ようそん)が手がけた抒情的(じょじょうてき)な末富ブルーと呼ばれる澄んだ色彩造形からも、末富に通底する品のよさや美意識が伝わってくる。贈り物にしたときに、こちらのお店の包装紙を見るだけで喜んでくださる人がいるのも、特別な老舗の証しだ。