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大人だけが知っている!「静寂の京都」

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2016.11.17

モノクロの絵がこんなにかわいいなんて! 伊藤若冲のびっくり水墨画を大研究

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江戸絵画のカリスマ絵師見参‼︎

18世紀の京都で活躍し、空前絶後とも言える傑作の数々を描き出した伊藤若冲は、近年、日本美術の絵師の中でも抜きんでて高い人気を誇っています。若冲が繰り出す水墨画の数々は、そのテクニックの高さはもちろんのこと、描き出されるモチーフのユニークな造形と、思わず「かわいい!」と叫んでしまいたくなる描写がとにかく秀逸。かわいい造形を描き出すことにかけては右に出る者がおらず、天衣無縫(てんいむほう)なるかわいいキャラクターづくりの天才にして、「元祖ゆるキャラ」のチャンピオンと認定したくなる存在なのです。

河豚と蛙が相撲!この発想が若冲でしょう!

描かれている河豚(ふぐ)と蛙の表情など、ほとんど漫画のようでとにかくかわいい。が、しかし、そもそも河豚と蛙が相撲を取るなどという発想自体が若冲らしいユーモアに溢れていて素晴しい!

スクリーンショット 2017-07-06 12.20.53『蝦蟇河豚相撲図』(がまふぐすもうず) 一幅 紙本墨画 101.3×43.0㎝ 18世紀・江戸時代 個人蔵

高山寺に伝わる『鳥獣人物戯画』に見られるように、動物たちが相撲を取る絵画はポピュラーとも言えますが、河豚と蛙という組み合わせになると空前絶後ということになります。河豚は強毒で知られ、蛙も蝦蟇(がま)の油で知られるようにいずれもが毒をもつ生物。若冲は何か意図があってこの組み合わせを発想したのでしょうか。

徹底的な観察眼から繰り出される切れ味,鋭い造形描写がかわいい!

若冲と言えば真っ先に思い浮かぶ鶏の絵。特に水墨画ではユーモラスでウイットに富んだ作品が多い。敵を威嚇(いかく)する雄鶏が頸(くび)周りの羽を広げる描写も若冲の手にかかればご覧のとおりのモダンな造形に早変わりします。鋭い観察眼から繰り出される描写がときにこの鶏のようなかわいさを生んだのでしょう。
スクリーンショット 2017-07-06 12.20.40『花鳥人物図押絵貼屏風(部分)』(かちょうじんぶつずおしえばりびょうぶ) 六曲一双 紙本墨画 各127.5×52.3㎝ 18世紀・江戸時代 エツコ&ジョー・プライスコレクション

虎を見たことがない若冲だったから、こんなにカワイイ?

中国絵画の虎を模写することで、いくつかの虎図を描いた若冲。それにしても、この眉毛と表情のデフォルメは若冲ならではのお茶目さ。この類い稀なる表情づくりの上手さこそが、若冲水墨のかわいさの根源となります。

スクリーンショット 2017-07-06 12.20.29『虎図』一幅 紙本墨画 112.0×56.5㎝ 18世紀・江戸時代 石峰寺

若冲は何点か虎の絵を描いていますが、いずれもが虎の威厳というか恐さを感じません。有名な着色画の虎図に「日本に虎はいないので中国の絵に倣って(ならって)描く」と自ら書いているように、見たことがないからカワイク描いたとも言えるでしょうか。

箒の黒と仔犬の白の対比にウイットを感じる!

パッと見はとにかくかわいい仔犬の姿。でも、その表情はあくまでも眼光鋭く、かわいくはない。しかし、造形全体として見ると不自然に踏ん張った後肢(うしろあし)の線などに、えも言われぬ愛らしさを感じてしまい、やはりかわいい!
スクリーンショット 2017-07-06 12.20.17『仔犬に箒図』一幅 紙本墨画 99.5×27.8㎝ 18世紀・江戸時代 細見美術館 Artefactory/Hosomi Museum/OADIS

一見すると簡略化された墨の線で表現されている仔犬ですが、その実、非常に細くかすれた線描を用いてふわふわとした毛並のやわらかさを表出しています。若冲の高度なテクニックの賜物。

黒目が最高にキュートな亀は若冲の技の見本帳

墨の濃淡を使い分け、亀の甲羅を若冲独特の「筋目描き」(すじめがき)で描いた本作は、彼の水墨テクニックが遺憾なく発揮された傑作。甲羅からニュッと突き出た亀の頭が薄墨で表現され、そこにくっきりと入れられた黒目が最高にキュート!

スクリーンショット 2017-07-06 12.20.03『亀図』一幅 紙本墨画 111.3×28.8㎝ 寛政12(1800)年・江戸時代 鹿苑寺

頭を突き出した亀の上に見える濃い墨の線は亀の尾で、いわゆる蓬莱亀(ほうらいかめ)であることを意味し、正月の縁起物として描かれたと推測されています。款記(かんき)に「米斗翁(べいとおう)八十八歳」と入っていますが、若冲は数え85歳で死んでいるので最晩年に自らの長寿をも願って描いたのでしょうか。

自由自在な水墨画の動物たち

彼は、草木や虫、魚などのありとあらゆる動植物の姿を知り尽くした上で、すべての生命に対する慈愛に満ちた視線によって彼らが放つ神気を紙と墨を用いて描き出したからこそ、若冲オリジナルの「かわいい」造形を生み出し得たのでした。「山川草木悉皆成仏」(さんせいそうもくしっかいじょうぶつ)という仏の教えを体得していた若冲だからこそ成し得た、生命への讃歌が「かわいい」という造形となって表出しているのです。

なぜ若冲は「かわいい」水墨画を描くことができたの?

若冲は絵師として歩み始めた当初、庭に数十羽の鶏を飼って、その姿、形、仕草や表情などの生態を観察し続け、見つめ尽くした上でそれを写し取るという行為を数年にわたって続けました。こうして鶏の姿を見尽くしたところで若冲は“生きもののもつ神気”をつかみ、鶏に限らずあらゆる生きとし生けるものにもその神気を見出して、生命のもつリアルを超えたところにある形態をそのもの以上に描き出すことに成功するのです。