北斎がジャポニスムに与えた影響も!ヨーロッパで描かれた山の絵4選

北斎がジャポニスムに与えた影響も!ヨーロッパで描かれた山の絵4選

富士山を主題にした葛飾北斎の「富嶽三十六景」は、“山”を主題にした絵画シリーズの世界最高峰ともいわれます。では、それまでの人々は、山をどう描いてきたのでしょうか。絵画の原初から東洋、西洋における山、そして北斎にいたるまでの山の絵を検証! 今回は、西洋で山が主題の作品が誕生するまでの歴史をたどります。

自然が主役の絵画は認められていなかった…

古代ローマ時代、キリスト教が絵画の価値観を決めていました。すべての頂点に神がいて、人間はその下、自然はさらにその下と位置付けられ、絵画の主題は神の世界のみに限られていました。

西洋絵画アンドレア・マンテーニャ「オリーブ山の祈り」テンペラ、板 1455年ごろ 63×80㎝/キリストが弟子の聖ペトロ、小ヤコブ、聖ヨハネを連れ、磔刑を退けられるよう神に祈りを捧げる「オリーブ山の祈り」の場面。マンテーニャはリアルな風景描写を加味。写真提供:Album(PPS通信社)

イタリアのルネサンス期になると、神のみならず、神を敬う人々や背景も丹念に描かれるようになります。想像力とともに遠近法を駆使したマンテーニャや、万能の天才として知られるダ・ヴィンチが、背景に山を描き、絵画の中で神と人間社会と自然との関わりが感じられるようになるのです。

西洋絵画レオナルド・ダ・ヴィンチ「聖アンナと聖母子」油彩、板 1508~1510年 168×112㎝/青白く背景をぼかした「空気遠近法」や、自身が考案した「スフマート(ぼかし技法)」で神の世界の背景を表現。この技法は後の画家たちに多大な影響を与えた。写真提供:Album(PPS通信社)

しかしこのように、絵画の中に山が描かれるようになっても、それは依然として主題を引き立てるためのものであり、山や自然が単体で描かれることはありませんでした。西洋絵画においては長らく、山や自然を主題にするという発想は禁じられていたのです。

産業革命によって、自然が身近なものに

19世紀を迎えた頃、キリスト教の政治的な勢力が弱まっていきました。それに従い、絵画表現も新たな時代を迎えることになります。

18世紀後半に始まった産業革命によって、近代化した都市部では暮らしにくさを感じる人々が増えてきます。科学技術の発展によってかつて脅威だった自然も、親しみやすいものと見なされるようになり、人々は自然に対する憧憬や親しみを強くするようになっていました。

ジャポニスム旋風が巻き起こる!

そんな時代背景のヨーロッパにもたらされたのが、浮世絵などの日本美術。思いもよらなかった絵画に接した芸術家たちはたちまち魅了され、“ジャポニスム”という芸術における一大ブームが起こるのです。

中でも芸術家たちを驚かせたのが、葛飾北斎の「富嶽三十六景」に代表される、山や自然を主題にした、思いがけない絵でした。

西洋絵画葛飾北斎「富嶽三十六景 凱風快晴」2017年和樂10・11月号より

北斎の自然描写にいち早く感応したフランスでは当時、絵画の主題は神話や聖書、という厳密な決まりがあって、それを外れると絵として認められないという状況がありました。

対して、古き伝統から逃れたいと考えていた画家たちは、北斎の絵に表された日本的な自然観に感銘を受け、模作や習作を繰り返すうちに明確な方向性をつかみ取っていきます。

“山”作品がついに誕生!

それが、自然に眼差しを向けた近代西洋画の誕生であり、19世紀の後半になってようやく、山を主題にした作品が描かれるようになったのです。

西洋絵画ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山」油彩、カンヴァス 1900年 78×99㎝/くっきりと稜線を描いた山を中心にして、色面構成によって風景を表した本作から、セザンヌが北斎の「凱風快晴」や「山下白雨」などを研究した跡が見て取れる。写真提供:Album(PPS通信社)

北斎の「富嶽三十六景」にならって、故郷のサント=ヴィクトワール山のさまざまな表情を描いたセザンヌや印象派の画家たちは、それまでの縛りから解き放たれた喜びを託すかのようにして、山や自然を画面いっぱいに活写。同時代のルソーは山や自然とともに生きる人を独自のタッチで描き、西洋絵画に革新的な変化をもたらしたのです。

西洋絵画アンリ・ルソー「牛のいる風景」油彩、カンヴァス 1886年 51×66㎝/日曜画家として風景などを描いていたルソーは、デッサンの技術、遠近法や明暗法を学ぶことなく、独学によって色鮮やかな画風を確立。写真提供:Bridgeman Images(PPS通信社)

西洋絵画の中で冷遇を受けていた“山”が近代になって初めて主題となったのは、実は北斎の功績が大だったのです。

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