Art
2019.10.23

コンテンポラリーアンティークって?世界を熱狂させた骨董店tatami antiquesの新たなアートのかたち

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ほつれかけの水引、いびつな形の壺、塗料のはがれたお面……。tatami antiquesが選ぶ骨董は、どれも独特のオーラを放つ。それは用途の分からない前世紀の産物であるにも関わらず、現代の感覚にも通じる、時空を超えた贈り物のようなもの。淡々と並んだ姿はまるで、独自の旋律を奏でているかのように個性的で美しく、私たちに新たなものの見方を教えてくれる。俗にいう“骨董”と少しニュアンスの異なるものを扱う彼らの実態とは。世界中に熱狂的なファンを持つ、彼らがよしとする骨董ってなんだろう。コンセプトの“コンテンポラリーアンティーク”の意味、骨董にかける想いなど、代表の奥村乃(だい)さんに話を聞いた。

リサイクルショップのアルバイトで骨董に目覚める

tatami antiquesのインスタグラムにはこうある。

“tatami antiques is an independent online marketplace for “Contemporary Antique” as the remix selection from applied mingei folk art pieces, high-end traditional antique items, or other uncategorized unknown awesome stuff presented directly from Japan to you. Each item has been individually digged out across the nation by each tatami’s unique dealer. Nothin’ but a zen thang. May the inspiration be with you.”

言語はすべて英語(日本語にも対応可)。日本の骨董を扱っているが、一瞬海外のwebサイトかと戸惑う。英語が不得意な人からすると、ミステリアス極まりないだろう。でもそこが、tatami antiquesをよりユニークな存在に引き上げ、一部の層から熱狂的に支持されている理由だ。基本的に彼らは日本の骨董を海外に向けて発信しており、世界中にお客さんを持つ。ここまでの形態になるまで、どのような経緯があったのだろう。

ー 奥村さんが最初に骨董に興味を持った経緯を教えてください。

奥村:16、5年前にリサイクルショップのアルバイトで骨董の市場に通うようになってから興味を持ちました。当時も今もですが、コレクターでもなんでもなく、ただ直感的に茶碗や陶器、ツボ、仏像などに興味を持ったんです。それから、インターネット上で骨董を販売するようになりました。1人でやっていくにうちもっとバリエーションが欲しくなり、仕入れで一緒になる海外にも受けそうな同業者の方に声をかけました。現在はジャンルがバラバラの8名のディーラーが、それぞれ扱っている骨董を販売しています。

tatami antiquesに所属するディーラー

三坂堂
1955年に現オーナーの祖父が創業した老舗骨董商。骨董界ではなかなかのビッグネーム。古美術、特に神道、仏教美術を扱う。奥村さんが最初に声を掛けたメンバーのひとり。現オーナーの白土さんは元プロスノーボーダーなんだとか。奈良県在住。

Sezuan antiques & art
tatami antiquesの妖怪。鉛筆書きの遺影から奉納経まで日本のディープでアウトサイダーなものを扱い、圧倒的な在庫数を誇る。仕入れで京都から東京によく来ており、その度に奥村さんと飲みに行く関係。かつてはインディーの映画監督をやっていた。

titcoRet
清澄白河で「幾何」というギャラリーを開いている。通称「骨董界のイケメン」。近代の児童画や人形の首といった前衛的なもののほか、幽霊画なども扱う。見せ方がポップでおしゃれ。骨董好きの若者にファンが多い。

新しい古本屋
川崎で自宅を解放して「新しい古本屋」というショップをやっている。古本や紙ものを得意とし、本のバイヤーとして有名。もともとは古着関係の人。

南方美術店
二子玉川で「南方美術店」というショップを開いている、イケメン正統派古美術商。李期を中心とした古陶磁、木、鉄の他、西欧のものを得意とする。もともと映画関係の仕事をしていた。

rust + antiques
民家や施設などへ直に買い取りに行く、いわゆる”うぶ出し屋”。普段は買い取りで動き回っているが、イベントがあるときは必ず顔を出す。関西の骨董界では“兄さん”と呼ばれており、彼から仕入れる人も多い。

Jinta
彼も奥村さんが最初に声を掛けたうちのひとり。一字一石経や人体模型の足といった前衛的なものから自分で手を加えたものを販売している超感覚派。この前は現代アート作家。文化屋雑貨店社長の息子さんでもある。

hotoke
代表・奥村乃さんの屋号。前衛なものとクラシックなものの両方を取り揃える。tatami antiquesのベースとなる感覚の持ち主でもあり、全体のバランスを取る存在。

ー 最初のお客さんはどのようにしてtatami antiquesを知ったのでしょうか?

奥村:見つけてもらったという感じです。自分でもよくわからないんですが。一番はじめは全然食べていけず、アルバイトをしながらやっていました。そのうちに人の紹介だったり、SNSの発達とともにお客さんが増えていくようになりました。

選ぶ基準は自分の価値観の先にあるもの


SCRAPBOOK OF JAPANESE ADVERTISING GRAPHIC DESIGN 1920-30S
1920〜30年代の日本の広告図案のスクラップブック。ポップなカラーリングが目を引く。


OPEN-AIR HOUSE
手作りの檻のないブリキの家。こちらも鮮やかなブルーが美しい。昭和のもの。


OCTOPUS TRAP
昭和時代、蛸漁に使われていた漁師の手作りの仕掛け。それぞれのマテリアルの組み合わせが絶妙。


CLAY INARI FOX AND VOTIVE STONE
粘土の稲荷と奉納石。藁を混ぜた粘土を焼かずに造られた、とても珍しい狐。経年変化によって曖昧になった輪郭が美しい。江戸期の静岡県のもの。

先にも話したように、tatami antiquesは海外向けに発信しているため、お客さんはほぼ外国人。その中でも8〜9割がアーティストだという。彼らは骨董の知識を持ち合わせておらず、アートを選ぶように感覚的に骨董を選び、購入する。そんな彼らに響くように、正統派の骨董から、訳のわからないものまでバランスよく取り揃える。tatami antiquesはそれをひとくくりに“コンテンポラリーアンティーク”と呼ぶ。

奥村:うちのお客さんはほぼ8、9割がアーティストで、コンテンポラリーアートのようなことをやってる人が多いです。その人たちがゴリゴリの骨董を直感的に買っていく。やっぱりある程度伝承されているものは力があって、それが向こうの人にも分かるんですね。でもそればかりだと若い子にはダサいと言われるし、逆に前衛的なものだけだとおじさんたちにゴミだと言われる。僕は両方いいところがあるし、一緒に並べることでより互いのよさが出てくるんじゃないかと思っています。そしてその多様性が今っぽい。その有様を体現する言葉を探しているときに“現代アート”という言葉を思い出して。あれもわざわざ頭に“現代”と付けているわけだから、“アンティーク”にも付けてもいいかなと。そういう枠組みでここで取り扱っているものを“コンテンポラリーアンティーク”と名付けました。

ー 奥村さん自身は骨董のセレクトにこだわりはありますか?

奥村:骨董というと「なんでも鑑定団」的なものと思われがちですが、僕は自分の価値観の先にあるものであると考えます。自分が本当に感動するもの。セレクトする基準は今はあやふやです。昔は売れるものが分かったんですが、今は正直わからない。最近は本当、訳のわからないものばかりやってますね。気持ちとしては、ものを売ってるんだけど、もののバックグラウンドを売ってるというか。


書の落書き帳
所有欲のあまりない奥村さんが、今まで扱った骨董の中で唯一売って後悔したもの。某書家の落書き帳のような筆使いがおもしろい。購入者はニューヨークのとあるアーティスト。

ー 奥村さんの美意識のベースとなる、影響を受けたアーティストやカルチャーはあるのでしょうか。

奥村:かなり大きく影響を受けたのは80年代のものやこと。幼少期に見ていた音楽番組「ベストヒットUSA」に出ていたさまざまなミュージシャン、アーティストは好きですね。 その他では、千利休、マルセル・デュシャン、イサム・ノグチ、デヴィッド・バーン、ロイ・エアーズ、ジョエル・チューダー、アンドリュー・キッドマン、レオス・カラックス、井上有一などでしょうか。

ー tatami antiquesをやっていて嬉しかったことはありますか?

奥村:ものが売れたときは、同じような感覚の人と巡り会えたとき。お客さんと友達になることが多いんです。骨董をやりはじめた頃にウィーンのMACという美術館の茶碗展に参加したのですが、その展覧会を紹介してくれたお客さんともまだ繋がっています。あと、英語が喋れなくても、欲しいからというので連絡をくれるのは嬉しいですね。ものが言語になるじゃないですが、言葉じゃないところでつながっている。ものを買うという行為は、ブランドになってないと起こりえないですから。


Reflection
逆さまで売った油絵。大正〜昭和のもの。

ー 骨董を選んでいるときに起こったおもしろいエピソードはありますか?

奥村:朝暗いうちから仕入れに行くんですが、ある日そこで一枚の絵画を見つけました。構図が訳のわからない、あまり見たことないもので、他の業者さんも狙っていたり、販売していた業者さんも「これはすごい」と言っていたぐらいのもので。最終的に先に唾を付けた僕が買ったのですが、家に帰ってうちの奥さんが「これ逆さまだよ」と。確かにサインの通り見れば逆さまなんです。でも本来の向きでは全然よくない絵で、結局逆さまで売りました。思い返すと、逆さまだということに気付かず、暗闇で3人のおじさんが懐中電灯で照らしながら「いい絵だ」と言い合ってる姿は悲しいようで感慨深いというか。

熱狂的なファンによる予期せぬハプニングも


TOFU-DRAINBOARD AND STICKS
昭和の豆腐の水切り板と棒。まるで現代アートのような佇まい。

お客さんの中には、熱狂的なファンも多いという。しかしwebのみで展開しているのに、どのようにして関係を作るのだろうか。彼らとのコミュニケーションについて話を聞くと、以下のような答えが返ってきた。

ー お客さんと友達になるとおっしゃっていましたが、どういうきっかけで仲良くなるのでしょうか?

奥村:まず向こうから連絡があり、東京で会って飲んで、意気投合したり。僕の住んでる千葉の田舎まで遊びに来たりすることもあります。2016年にニューヨークで展示会をやったときも、お客さんのひとりが泊めてくれました。中には結構すごい人がお客さんでいたり。インタビューに載せることはできないのですが(笑)。

ー どのようなお客さんが購入されるのでしょうか?

奥村:連絡が多いのは、やはりアメリカやヨーロッパの国の人です。ブラジルやパラグアイの人からも連絡があったことがあります。ある程度の額のものをどこの馬の骨か分からない人から買うわけだから、みんな普通じゃないですね。彼らはインスピレーションが正直というか、いいなと思ったらすぐに買う。みんながそうだったらいいのにな(笑)。


NEW KOKESHI
20世紀日本の創作こけし。無機質な質感が特徴。

ー 今までで一番驚いたお客さんとのエピソードがあれば教えてください。

奥村:アーティストが多いので毎回びっくりしてします。ミュージシャンで、長期ツアーに出て荷物を受け取らなかったり。ポルトガル人のアーティストが受け取った商品に感動して、夜中に興奮して電話してきたことがあります。彼は写真家で、あのロバート・フランクとも友だちだったようです。おもしろいのが、彼が経営しているアートセンターを立て直すために、ロバート・フランクからもらったサイン入りの写真の売り先を探していて。僕にも連絡があって、いろいろ動いてみたのですが、日本では信じてもらえませんでした。結局ニューヨークで高額で売れて、ロバート・フランクにもバレてしまったようですが。

tatami antiqueが目指す新たなアートのかたち


WOMAN IN THE BATH
江戸末期の短冊・女人入浴図。色あせた質感や女性の表情が美しい。

世界中のアーティストに、さらなる創造性を喚起させる力。彼らは大昔のガラクタを、現代の宝石へと変えてしまう魔法の目を持っている。そしてその力は、日本の新たな骨董文化の道を切り開いていると言っても決して大げさではないのかもしれない。彼らはこの先の活動について、どのように考えているのだろうか。tatami antiqueが思い描く未来とは?

奥村:tatami antiqueの活動はDJみたいなものだと思って、ものだけじゃなく、背景にある“こと”も売ってる。リミックスの概念を骨董で体言化してるというか。そこまで見てもらえると嬉しいです。生活の必需品じゃないですが、欲しいと思わせるストーリーが隠れている。あとは、もっと他ジャンルの人たちとコラボレーションしたいですね。ちなみに来年の1月に蔵前にある「水犀」というギャラリーで展覧会を行うので、ご興味ある方はぜひ来てください。

今まで開催された展示会の一部

カツラ利休
ニューヨーク在住のヘアアーティスト・河野富広さんとのコラボレーション企画。中目黒にある古い廃工場を使い、骨董やカツラを展示した。搬入時の最初の2、3時間はただ飲んでいただけだったとか。シュールな中に並々ならぬセンスを感じる。

面 mask
面だけに特化した展示会。さまざまな面が壁一面に並んだ様子は、どこか現代アートのよう。

PHOTOGRAPHS OF SUISEKI 2
hotokeが取り扱っているファウンドフォトを展示。奥村さん自身がコンセプチュアルなものが好きで、あえて展示会という空間で写真を売るという行為に挑戦。写真から漂う物語性をより深く感じ取れる。

ー 最後に、いつか成し遂げたい夢があれば教えてください。

奥村:骨董の枠組みや既成概念にとらわれず、アートのジャンルのひとつとして、“コンテンポラリーアンティーク”を確立したいです。“音楽”、“映画”、“ファッション”のように、当たり前の存在として認知されたらいいですね。

tatami antiques

公式サイト:https://tatami-antiques.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/tatami_antiques/

書いた人

服が好きだった母や祖母の影響を受けて、ファッションデザイナーの夢を抱き上京、文化服装学院に入学。その後編集者の方がおもしろそうだと路線を変更。ファッション系の編集プロダクション、web媒体を経てフリーに。興味を持つとどこまでも掘っていくオタク気質。和樂webではファッション文脈にある日本文化を追いかけたい。