伊豆でしか会えない日本画の傑作!上原美術館「伊豆をめぐる名画」【展覧会紹介】

伊豆でしか会えない日本画の傑作!上原美術館「伊豆をめぐる名画」【展覧会紹介】

10月に入り、猛暑と台風が去って、ようやく待望の紅葉の季節がやってきた日本列島。秋の味覚や紅葉狩りを求めて郊外へお出かけを予定している方も多いのではないでしょうか?

でもせっかく観光地に行ったらレジャーだけでなく美術鑑賞も楽しみたいよね、とつい考えてしまうのがアートファン。僕もこの秋「紅葉狩り」と「温泉」と「日本美術」を一挙に楽しめる場所はないかな・・・と虫の良いことを考えながらなんとなくネットを検索していたら・・・。

ありました!「紅葉」「温泉」「日本美術」が一度に楽しめる奇跡的な場所が!

それが、この秋、企画展「伊豆をめぐる名画-横山大観、安田靫彦を中心に-」を開催する上原美術館です。同館は伊豆半島最南端の下田市にある「隠れ家」的な美術館。高原で紅葉狩りや滝巡りを楽しみつつ、秋の味覚と温泉を満喫し、お腹も満たされたところで翌朝ふらっと美術館へ立ち寄ってみる・・・。そんな贅沢な楽しみ方ができるのが観光地にある上原美術館の強みなのです。

上原美術館「伊豆をめぐる名画-横山大観、安田靫彦を中心に-」の概要

上原美術館は、「仏教館」「近代館」と2つのモダンな展示室を擁し、伊豆半島との関わりを大切にした丁寧な展示がうれしいアットホームな美術館です。2017年秋にリニューアルされ、ストレスなく快適に美術鑑賞が楽しめるモダンな展示施設は目の肥えた美術ファンからも高い評価を受けています。

そんな上原美術館でこの秋10月12日からスタートする企画展が、日本画の名品を多数所蔵する伊豆市との共同企画展「伊豆をめぐる名画-横山大観、安田靫彦を中心に-」です。本展では、伊豆市が所蔵する近代日本画を前後期でまとまって43点紹介する力の入った展覧会。

今村紫紅「枇杷叭叭鳥」大正元(1912)年頃、伊豆市蔵 ※前期展示

通常、同館の「近代館」では所蔵品を中心とした近代の西洋絵画・日本画が展示される一方、「仏教館」では仏像や古写経など仏教美術が展示されるなど、2つの館で2つの展示企画が並行で開催されていましたが、本展では「近代館」「仏教館」のほぼ全てのスペースで近代日本画の大作をズラリと展示。同館では開館以来史上初となる大胆な展示構成となっています。

意外?!多数の名画を所蔵する伊豆市

ところで、伊豆市が日本画を所蔵・・・と聞いて、少し意外な気がしませんでしたか?伊豆市は、2004年に修善寺町、土肥町、天城湯ヶ島町、中伊豆町がいわゆる「平成の市町村大合併」でできた新しい「市」なのですが、横山大観ら日本美術院にゆかりのある画家の作品を中心に、実に117点もの作品を所蔵しているのです。

しかし考えてみれば伊豆は風光明媚な風景美が楽しめる自然遺産と冬でも温暖な温泉地があります。こういうところには自然と文化人が集まってくるものですよね。実際、文豪・川端康成は随筆『伊豆序説』において伊豆は「海山のあらゆる風景の画廊」であると絶賛していますよね。

中でも修善寺には戦前、日本画の巨匠が集結。横山大観(よこやまたいかん)をはじめ、安田靫彦(やすだゆきひこ)、小林古径(こばやしこけい)、速水御舟(はやみぎょしゅう)、前田青邨(まえだせいそん)、川端龍子(かわばたりゅうし)など錚々たる日本画家の巨匠が静養のためたびたび訪問し、伊豆の詩情あふれる自然風景にインスピレーションを受けて作品を同地に残してきたのです。

なぜ院展の巨匠たちは修善寺に集まって作品を多数残しているのか?

では、なぜ院展の巨匠たちは中伊豆の地を好んで集まってきたのでしょうか?それには、修善寺の老舗旅館のある「キーマン」の存在が大きかったのです。

日本画をこよなく愛した老舗宿「新井旅館」の当主・相原沐芳

明治42(1909)年、新井旅館にて。左から安田靫彦、相原沐芳、中村吉右衛門(なかむらきちえもん)

巨匠たちを修善寺に引き寄せたその人物とは、修善寺の老舗宿「新井旅館」の三代目当主・相原沐芳(あいはらもくほう)でした。東京で美術を学んだ沐芳は、「新井旅館」の一人娘と結婚後、美術で身を立てることをあきらめ旅館の経営に専念。しかし美術への情熱を失うことはなく、旅館に戻ってからも友人・安田靫彦や横山大観らの療養をサポートし、彼らの作品を購入するなど、有力なパトロンとして長年彼らの芸術活動を支えたのです。

ちなみのこの新井旅館ですが、現在でも健在。国の登録有形文化財にもなっている昭和初期の風情あふれる建物と、風土に根ざした和風懐石が人気の高級旅館なのです。毎日Twitterやブログがしっかり更新されており、四季折々の修善寺の風情が感じられる記事が多数読めますので、ぜひ覗いてみてはいかがでしょうか。

★新井旅館HP(http://www.arairyokan.net/
★新井旅館公式ブログ(https://ameblo.jp/arairyokan/
★新井旅館公式Twitter(https://twitter.com/arairyokan

安田靫彦との友情

安田靫彦「萬古天風」昭和5(1930)年 伊豆市蔵 ※前期展示

近代日本画の重鎮として戦後1970年代まで息長く活躍した安田靫彦ですが、意外なことに若年時は非常に病弱でした。岡倉天心の援助で奈良で古画を学ぶ画家修業に励んでいた明治41年(1908年)、靫彦は結核にかかってしまいます。そこで、志半ばで帰京せざるを得なくなった靫彦に声をかけ、伊豆へ招いて新井旅館での温泉療養を勧めたのが相原沐芳でした。

結局安田靫彦は同館で数ヶ月過ごしますが、その後、生涯にわたって修善寺を訪れるようになります。療養期間中、ゆっくりと画業の構想を練る時間を得た安田靫彦は、修善寺の地で自身の新たな作風の方向性を見出すなど、新境地を開拓。同館で多数の作品を仕上げています。また、これをきっかけとして、安田靫彦と共に後に「院展三羽烏」と呼ばれた小林古径、前田青邨、そして紅児会(こうじかい)、の仲間だった今村紫紅、速水御舟など靫彦の同志も足繁く新井旅館へ通うようになったといいます。

横山大観には専用の特別室も!

横山大観「神州第一峰」昭和5(1930)年、伊豆市蔵 ※後期展示

また、同じく明治末頃から横山大観もリューマチの療養のために新井旅館にたびたび逗留。英気を養いつつ同地で作品制作に励むようになりました。そこで昭和3年(1928年)、相原沐芳は大観のために敷地内に客室兼画室「山陽荘」という書院造の離れまで建設。以後大観はいつでもこの特別室で思うままに制作に打ち込めるようになったのです。ちなみにこの山陽荘ですが、大観没後も取り壊されることなく活用され続け、現在は国の登録有形文化財となっています。

昭和5(1930)年、新井旅館中庭にて、日本美術院の渡欧同人壮行会の記念写真。著名な巨匠が何人も含まれていますが、誰が映っているか分かりますか?

そして圧巻なのは新井旅館に残るこの写真。昭和5年(1930年)1月に横山大観が総代を務めるローマの日本美術展のために、日本美術院の壮行会が新井旅館で開催されました。そこには大観や安田靫彦は勿論、多数の日本画家が参加しています。本展でも出品される大観「神州第一峰」、安田靫彦「萬古天風」はその時に描かれたものと言われています。

こうして、修善寺は日本美術院の画家たちにとって馴染み深い制作地となり、伊豆には伊豆市所蔵の117点をはじめ、修善寺の宝物殿や新井旅館などにも多数の作品・資料が残されることになったのです。

同館初!「近代館」「仏教館」両館を使って日本画を一挙紹介!

さて、前置きが長くなりましたが、ここからは本展で出品される作品から、一部を紹介していきたいと思います!順番に見ていきましょう!

横山大観「松竹遊禽」(右隻)大正元(1912)年頃 伊豆市蔵 ※後期展示

今村紫紅「枇杷叭叭鳥」(左隻)大正元(1912)年頃、伊豆市蔵 ※前期展示

川端龍子「湯浴」昭和2(1927)年 伊豆市蔵 ※後期展示

安田靫彦「鴨川夜情」昭和9(1934)年頃、伊豆市蔵 ※後期展示

速水御舟「手向」大正2(1913)年 伊豆市蔵 ※後期展示

菱田春草「秋郊帰牧」明治42(1909)年 伊豆市蔵 ※後期展示

これ以外にも、小林古径、前田青邨といった巨匠から、石井林響(いしいりんきょう)、広瀬長江(ひろせちょうこう)など惜しくも急逝した知られざる個性派日本画家まで多数の良作が揃っています!

修禅寺の至宝「独鈷杵」も!

その他、上原美術館ならではの展示として、伊豆の仏教文化や地形にも注目した展示も要注目です。たとえば、空海が修善寺において温泉を湧出させたという伝承にちなみ、修禅寺の裏から出土した「独鈷杵」(とっこしょ)も展示されます。全国各地で超人的な逸話が多数残されている空海ですが、伊豆半島にもあった空海伝説に思いを馳せながら愛でてみたいですね。

独鈷杵 平安時代 修禅寺蔵 ※通期展示

また、2018年、伊豆半島はユネスコの世界ジオパークにも認定されました。本展では、伊豆半島のなりたちについての解説パネルとともに修善寺の紅葉スポットとしても名高い、落差100m以上の「旭滝」に関係する平安時代の不動明王坐像が展示され、伊豆半島におけるダイナミックな造山運動に思いを馳せながら仏教文化が体感できそうです。

人里離れた秘境的な雰囲気もある上原美術館。観光とセットでぜひ!

下伊豆の人里離れた丘に建つ上原美術館。秘境的な雰囲気もある観光地に近い美術館ですが、2017年秋のリニューアル後は近代館・仏教館ともに最新鋭の展示施設で非常に快適な鑑賞体験が味わえるようになりました。

企画展を担当する土森学芸員は「当館は“作品に会いに行く美術館”をコンセプトとして、毎回特別展では、伊豆半島ゆかりの【ここだけでしか観られない】作品の展示に力を入れています。今回は、地元・伊豆半島ゆかりの巨匠たちの優れた日本画作品を多数ご用意しました。ぜひ、伊豆の自然やグルメを堪能しながら、気軽に上原美術館へ作品に会いに来てくださいね」と和樂Webにコメントを寄せてくださいました。

海、山、温泉、グルメ、紅葉と全てが揃った伊豆半島。あとはこれに「美術鑑賞」を付け加えるだけですね。ぜひ観光とセットで楽しんでみてくださいね!

展覧会基本情報

展覧会名:伊豆市共同企画展「伊豆をめぐる名画」-横山大観、安田靫彦を中心に-
会場:上原美術館(〒413-0715 静岡県下田市宇土金341)
期間:2019年10月12日(土)~2020年1月13日(月・祝)
※日本画作品は全て中間展示替えあり。
※11月25日、26日は中間展示替のため休館(その他は会期中無休)
公式HP:http://uehara-museum.or.jp/

※台風19号の影響により道路・交通事情が悪くなっている可能性があります。お車でお越しの方はお出かけ前に交通情報をご確認ください。電車でお越しの方は伊豆急下田駅よりバスまたはタクシーをご利用ください。

伊豆でしか会えない日本画の傑作!上原美術館「伊豆をめぐる名画」【展覧会紹介】
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