約50枚の写真でハイライトを一気見してみる?「古典×現代2020」内覧会1万字徹底レポート

約50枚の写真でハイライトを一気見してみる?「古典×現代2020」内覧会1万字徹底レポート

目次

4月7日に発令された緊急事態宣言によって、首都圏や関西圏など、大都市圏の美術館・博物館では休館が続いています。楽しみに待っていた春の大型企画展もすべて開催延期か中止となっていて、アートファンとしてはやきもきする毎日が続いているかと思います。

もちろん、各美術館・博物館も手をこまねいているわけではありません。展覧会に足を運ぶことができないファンのために、Youtubeなど各種配信サービスを活用したオンラインでのギャラリートークや、Twitter、Instagramなど各種SNSで館内の展示風景や作品画像を配信してくれているミュージアムも増えてきました。

そこで、今回和樂Webでも、展示を見ることができないファンの皆様に少しでも楽しんでもらえるよう、現在開催延期中となっている美術展の展覧会紹介を始めることにしました。その第一弾となるのが、本来は3月11日からスタートするはずだった日本美術の大型企画展「古典×現代2020ー時空を超える日本のアート」です。

いつもは長文でついつい書きすぎてしまうのですが、今回は画像多め、文章はできるだけ簡潔に抑えつつ、展示の見どころをもれなく紹介していきたいと思います!それでは早速見ていきましょう!

※本美術展は、2020年6月24日(水)~8月24日(月)に会期を変更して再開予定となりました。

「古典×現代2020」とは一体どんな美術展なのか?

内覧会当日、撮影された記念写真。左から皆川明、田根剛、棚田康司、しりあがり寿、川内倫子

「古典×現代2020-時空を超える日本のアート」は、そのタイトルが示す通り、絵画や仏像、刀剣や陶芸などの日本美術の重要な名品群と、現代を代表する8人のアーティストの作品を組み合わせ、一組ずつ合計8つの部屋を巡っていく展覧会です。古典側は國華社、現代側は国立新美術館がそれぞれ監修を担当しました。(※國華社の雑誌「國華」は、明治22年に創刊され、これまで通巻約1500冊刊行されている、東洋美術を専門とする世界最古・最長の美術月刊誌。学者や筋金入りのアートファン御用達の知る人ぞ知る専門誌です)

本展の最大の面白さはなんといっても比較展示。

日本美術における「古典」と「現代」を同じ展示空間で一度に鑑賞することで、「くらべて」楽しめるという点です。その比較展示の組み合わせは、以下の8組となります。

●仙厓×菅木志雄
●花鳥画×川内倫子
●円空×棚田康司
●刀剣×鴻池朋子
●仏像×田根剛
●北斎×しりあがり寿
●乾山×皆川明
●蕭白×横尾忠則

こうした美術史に残るオールドマスター達の傑作と、最新の現代アートシーンで活躍する現代作家の作品を見比べることで、過去から連綿と受け継がれてきた日本人の美意識が浮き彫りになってきます。また、古典と現代のそれぞれの世界観や主題、造形をそれぞれ見比べることで、違いや共通点に気づくことができるはずです。

また、本展は新しい作品やジャンルに入門するにも良い展覧会です。古美術や骨董に詳しいファンは、古典をベースに新たに現代アートの世界を知ることができますし、現代アートファンはお気に入りの現代作家と対比された古典を見ることで、新たに伝統的な日本美術の面白さを体感できるでしょう。

それでは、早速8つの展示室を、内覧会で撮影した約50枚の写真群でガッツリ観ていくことにしましょう!!
(※以下、展示室内の風景は主催者の許可を得て撮影)

比較展示の意外性をじっくり味わえる8つの部屋を順番にご紹介!

展示1:仙厓×菅木志雄

展示風景

まず展示室に入ると、ゆるくてユニークな禅画で知られる江戸時代の臨済宗の画僧・仙厓(せんがい)と、日本の戦後現代美術の一つの潮流として世界的にも有名となった「もの派」の代表的な作家の一人として知られる菅木志雄(すがきしお)さんの組み合わせが登場。

本展で展示されている仙厓の作品は、禅僧が「悟り」を絵に託して描いたシンプルな「円相図」です。自身の境地を即興で著した言葉とともに、シンプルに「○」だけが描かれた風雅な掛け軸は、古くから多くの文化人達に愛されてきました。

この円相図と対比されて展示されたのが、菅木志雄さんの作品。仙厓が描いた「○」のイメージが、石や木の枝、アルミなどを組み合わせて巨大な展示空間の中で描き出されています。

菅木志雄「縁空」 2020年 作家蔵

「学生の時から、仙厓については意識していた」と語る菅さんは、木材や石、ワイヤーなど身近な日常風景に存在する「もの」を組み合わせて形をつくり、物質同士の関係性の中から空間のあり方や存在感を浮き彫りにした作品を作り続けてきました。

菅さんの制作スタイルは非常にシンプルです。彼は、日常生活の中で、毎日ぶらぶら散歩しながら道端で落ちている石や木材を大量に拾い集めるのを日課としています。アトリエに帰ると、広い集めたものの中から、自らのインスピレーションを書き溜めたデータベースと照らし合わせて、使えそうなものを取り出して作品に組み込んでいきます。そうやって、作品が少しずつ出来上がって行くのだそうです。そんな制作スタイルを1年中続けるというシンプルな作家生活を送っているんだ、と2019年秋に開催された記者発表会で語ってくれました。

作品制作時、菅さんが一番大切にしているのは、「どういう材料をどこで見つけるか」ということ。本展で仙厓とのコラボ展示が決まって以来、自然の中に円や四角、三角などを意識的に探し回ったそうです。そこで得られた気づきは、自然の中には、実は純粋な円も四角も三角もないということ。これらは、人間が作り出した一つのシンボリックな図形なのですね。だけど、それに近いものはある。円に近い木の枝や、三角に近い石ころ、あるいは人間が作り出した田んぼなどの風景にも四角は見つかります。

本展では、そういったものを常に自分でファイリングして、時々眺めて楽しみながら、作品を作り出していったのだそうです。

菅木志雄「支空」 1985/2020年 作家蔵

それにしても菅さんの立体作品を見て感嘆させられるのは、こうやってシンプルに石ころや木材などのオブジェクトを空間の中に配置していくだけで、途端に作品とその周囲から、ある種の聖域だけが持つ独特な神秘的な空気感が立ち上ってくることです。

極限までミニマムに削ぎ落とされた空間からは、まるでよく掃き清められた神社の境内のような気持ちよさが感じられました。ぜひ、じっくり立ち止まって菅木志雄作品の不思議な面白さを体感してみてほしいです。

展示2:花鳥画×川内倫子

会場風景

続いては、写真家・川内倫子(かわうちりんこ)さんと江戸時代の花鳥画の共演。川内さんは、本展の現代アート側の展示監修を担当した国立新美術館の長屋光枝学芸課長が関心を寄せてきた作家で、「そういえば川内さんの写真作品って花鳥画に似ているところがあるな」と、つながりを感じたことを契機に実現した展示です。

川内さんの作品を見てみましょう。

川内倫子「無題 シリーズ〈AILA〉より」 2004年 作家蔵

川内倫子「無題 シリーズ〈AILA〉より」 2004年 作家蔵

川内倫子「無題 シリーズ〈AILA〉より」 2004年 作家蔵

展示会場では、大きく引き伸ばされた100号以上の大型パネルから、B5〜A4写真集くらいのコンパクトなものまで様々なサイズの写真が展示されています。そこに映し出されている光景は、空や天体などに現れたスケール感の大きな自然現象から、身近な動植物、子供の出産シーンまで実に様々。しかし、どれも「ハッ」とするような思いがけない瞬間が鋭い観察眼で切り取られており、どの写真からも生命の息吹や命の循環、自然の摂理が指し示す美しさを味わうことができます。

川内倫子「無題 シリーズ〈Halo〉より」 2017年 作家蔵/暗室で味わう映像作品も絶品でした。

川内倫子「無題 シリーズ〈AILA〉より」 2004年 作家蔵

川内さんの作品と対比されている古典作品は、伊藤若冲をはじめとする、写実的な描写が美しい江戸時代の花鳥画です。

まず目がいくのは伊藤若冲の作品群ですが、それ以外の作品もまた凄い。森蘭斎(もりらんさい)、鶴洲(かくしゅう)といった南蘋派の画家、戸田忠翰(とだただなか)、松平乗完(まつだいらのりさだ)といった大名画家、岡本秋暉(おかもとしゅうき)、市川其融(いちかわきゆう)といった幕末の実力派まで、筋金入りの江戸美術マニアでもあまり聞いたことのないような、知られざる実力派画家たちの手によるハイレベルな作品群が集結。古典を監修した専門の先生方のキュレーション力の高さに驚かされます。

展示風景

伊藤若冲は、身近な動植物を鮮やかな色彩で緻密に描き、枯れ葉や葉の虫食いまで克明に捉えました。自宅の庭で直接鶏を育てては、毎日間近で観察して独自の作風を作り上げていったというエピソードは有名です。生命への賛美と同時に、生命の移ろいゆく詫しさ、儚さも余すことなく描いた若冲の感受性の鋭さは、命あるものの豊かなイメージを鋭い観察眼で映し出す川内さんの姿勢と、どことなく共通点を感じさせてくれました。

展示3:円空×棚田康司

展示風景

続いては、江戸時代に全国を旅して約12万体の仏像を残したといわれる円空(えんくう)と、少年少女像で頭角を表した現代木彫の第一人者、棚田康司(たなだこうじ)さんの組み合わせです。

円空と棚田さんの作品には、技法上の大きな共通点があります。それは、共に1本の木から像の主要部分を彫り出す「一木造り」という日本で古来から伝統的に伝わる木彫手法を用いていることです。

円空は、大きな材木(柱材)をそのまま仏に彫り上げたり、材木の断面の荒々しさを生かして表現に取り入れたり、端切れの小さな木材からミニチュアの仏像を作るなど、立ち寄った旅先の自然の木を活かしきって仏像をつくりました。

棚田さんも、素材となる木と向き合うことからイメージを膨らませるそうです。そこから生み出されるのは、大人と子供の中間的な存在である少年・少女達や、母性を感じさせる若い女性像。一木造りという造形上の縛りの中から生み出された、特徴的な縦長の人物像の持つ多彩な表情が実に味わい深いのです。

じっと見ていると、自分の中にある様々な記憶や感情が呼び起こされ、気がついたら5分、10分と作品の前で佇んでいる自分がいたりします。決して「かわいい」「きれい」といった昨今のインスタ映えするような作風ではないのですが、私たちの心に響くような面白さがあります。

手前:棚田康司「づづら折りの少女」 2019年 作家蔵/奥:円空「護法神立像」 江戸時代・17世
紀 岐阜・千光寺

展示風景

棚田さんは、日本の木彫の歴史と絡めて円空へのリスペクトを独自の言葉で語っています。

「日本の彫刻の歴史みたいなものを大きな一つの木だと捉えるなら、円空はその年輪の中で中心に近いところにいらっしゃるのかなと。僕はと言うと、一番端っこの年輪の身になるかならないか、皮として落ちちゃうかもしれないところを、なんとか必死でやっているという状態です。現在では、世界とか社会とかが分断されていくという状態が多々見られることがあると思うんですけど、つながっているという感覚、そういった感覚を、空間の中で見る方々が感じてくださると僕は本当にうれしいなと、そう思っております。」(「古典×現代2020記者発表会」にて)

左から円空「善財童子立像」、円空「十一面観音菩薩立像」、円空「善女龍王立像」いずれも江戸時代・17世紀 岐阜・高賀神社蔵

展示風景

また、一木造りの他に、円空作品、棚田作品の意外な共通点としては、今回棚田さんが初めて試みた「背面無視」という木彫手法。広い展示室を活かした360度展示の中で、それぞれの作品の後ろ側に回ってみると、背面部分にはそのまま木材の断面が残されているんです。この生々しい木の感触もまた、二人の組み合わせの意外な味わいどころだと思うのですが、どうでしょうか?

展示4:刀剣×鴻池朋子

鴻池朋子「皮緞帳」(部分)2015年 高橋龍太郎コレクション蔵

続いて、刀剣と鴻池朋子(こうのいけともこ)さんの組み合わせ。ここ数年の人気急騰で、一気に日本美術の花形へと上り詰めた感のある日本刀。やはり「古典×現代」の対比の中で、「古典」を語るなら外せないジャンルの一つでしょう。

そんな日本刀と合わせて展示されたのが、鴻池朋子さんが制作した横幅20メートル超と本展No.1の巨大な皮緞帳(かわどんちょう)作品です。部屋に入るやいなや、圧倒的な作品の存在感に目が釘付けになりました。

その巨大な皮緞帳には、宇宙を制作した鴻池朋子さんの巨の優美な曲線。一方の刀剣は、地鉄(じがね)に現れた複雑な模様、意匠をこらした刃紋は、深い精神性や独特の美意識と結びついて、人々を魅了してきました。刀剣ブームも久しく熱心な愛好家も、今日本には多数いらっしゃいます。

この2つの作品をかけあわせたインスタレーションの狙いは、「芸術と生きることをつなぎ、近代社会が失った生命力を取り戻そうという試み」(長屋光枝学芸課長)なのだそうです。生命や宇宙の森羅万象が大胆に、かつ緻密に描きこまれた2つの皮の緞帳は、こうしてみてみると刀でスパッと真ん中で切られたようにも見えますね。実際、2015年に別の展覧会で展示された時は、左右の緞帳はちゃんとつながっていました。

鴻池朋子「皮緞帳」(部分)2015年 高橋龍太郎コレクション蔵

鴻池朋子「皮緞帳」(部分)2015年 高橋龍太郎コレクション蔵

この鴻池さんの巨大な生命の森羅万象が描かれた皮緞帳作品ですが、色鮮やかに有機的なかたちが散りばめられており、遠くから見てもインパクト絶大なのですが、ぜひここは近くまで寄って、徹底的に描きこまれた様々な動植物などのイメージを楽しんでみて下さい。

遠目から鑑賞する時に見えなくなってしまう部分まで、一切妥協せずに緻密に作り込まれており、その情報量の豊かさにはただただ驚かされました。

鴻池朋子「皮緞帳」(部分)2015年 高橋龍太郎コレクション蔵

鴻池朋子「皮緞帳」(部分)2015年 高橋龍太郎コレクション蔵


鴻池朋子「皮緞帳」(部分)2015年 高橋龍太郎コレクション蔵

ちなみに本作は、一般の鑑賞者でも写真撮影が可能となっています。ぜひお気に入りのイメージが見つかれば、お土産に画像を持ち帰ってみてもいいかもしれません。

展示5:仏像×田根剛

本展で特集されている「現代」側のアーティストは、いわゆる「現代アート」を専業とする作家だけでなく、建築家、服飾デザイナー、マンガ家、写真家など幅広い分野からジャンル横断的に選ばれています。

今回セレクトされた8名の作家の中で最年少となる田根剛(たねつよし)さんは、1979年生まれ。まだ若干40歳かそこそこなのに、すでに世界的に空間デザイナー、建築家として活躍する凄いクリエイターなのです。代表作の「エストニア国立博物館」や新国立競技場のコンペ案「古墳スタジアム」などは非常に有名ですね。

そんな田根さんが、滋賀・西明寺に伝わる鎌倉時代の日光菩薩・月光菩薩と向き合い、インスタレーションを作りあげました。

手前:「月光菩薩立像」/奥:「日光菩薩立像」 いずれも鎌倉時代・13世紀 滋賀・西明寺蔵

暗幕で四方を閉じた展示室内に入ると、天台声明(てんだいしょうみょう)が響く中、ゆっくりと時間をかけて2体の菩薩像の周囲に光が満ちて、そして消えていく仕掛けが施されたインスタレーション作品が待っていました。映像でお伝えできなくて残念ですが、展示室内は宗教的な荘厳さに満ち満ちていました。

漆黒の闇の中、どこからともなく聞こえてくる僧侶が歌い上げる天台声明をバックに、ゆっくり、ゆっくりと幽玄な光が金色の菩薩像を照らし出していく一連のプログラムは、太陽の光で苦しみの闇を消す日光菩薩、優美な月のひかりで人々を癒す月光菩薩の魅力が120%引き出されており、1000年前の密教僧が夢見た涅槃世界が現れ出たようでした。これは鎌倉時代の人が見たら、圧倒的な功徳の前にその場で昇天してしまうかもしれないな(?)と感じました。

時間や光といったテーマを長年追求してきた田根さんらしい、優れた作品でした!

左「月光菩薩立像」右「日光菩薩立像」 いずれも鎌倉時代・13 世紀 滋賀・西明寺蔵 撮影:上野則宏

展示6:北斎×しりあがり寿

展示風景

続いて、マンガ家から活動の幅を徐々に広げ、ここ数年は現代美術でも非常に存在感を増しているしりあがり寿(しりあがりことぶき)さんの作品が、北斎の名作「冨嶽三十六景」と共に登場します。

この展示室で感じた北斎としりあがりさんの共通のテーマはずばり「ユーモア」です。

日本だけでなく世界中のアートファンに愛されている巨匠・葛飾北斎は、幕末期に活躍した浮世絵師。彼は70代の時に手掛けた連作シリーズ「冨嶽三十六景」で、浮世絵に新たに「風景画」というジャンルを打ち立てます。本シリーズで、北斎は幾何学的に構築された美しい風景美を背景に、市井に生きる庶民の素朴な生活風俗をユーモアたっぷりに描き出しました。

同じ「漫画家」として北斎をこよなく愛するしりあがりさんは、そんな北斎の代表作「冨嶽三十六景」の大ファンです。そこで本展ではまずしりあがりさんが制作したパロディ作品「ちょっとおかしなほぼ三十六景」を楽しむことができます。元の構図を引用しつつ、大胆に現代的・近未来的なアレンジを加えた独自の作品世界に仕立てあげた作品には、どれもクスッと笑える面白さが広がっています。

本展では、北斎の本家作品としりあがりさんの奇想天外な風刺画が隣同士に並べられ、時代を超えたユーモアのエスプリをたっぷり味わえました。

左:葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」江戸時代・19世紀 和泉市久保惣記念美術館蔵/右:しりあがり寿「ちょっと可笑しなほぼ三十六景 髭剃り富士」2017年 作家蔵

左:しりあがり寿「ちょっと可笑しなほぼ三十六景 疲れてます」2017年 作家蔵/右:葛飾北斎「冨嶽三十六景 御厩川岸より両国橋夕陽見」江戸時代・19世紀 和泉市久保惣記念美術館蔵

さて、本家とパロディの競演を見終えた後に待っているのが、しりあがりさんが「ゆるめ~しょん」と呼ぶ映像作品の新作「天地創造from四畳半」です。

壁一面に大写しになった作品では、しりあがりさんがデザインした「北斎」を模したキャラクターが縦横無尽に駆け巡り、次々と絵を描いていきます。この「北斎」がコミカルに動きながら描くのは、葛飾北斎が約70年のキャリアの中で残した膨大な作品から選ばれた様々なモチーフです。

アニメーションの中では、北斎が描いたあらゆるテーマやモチーフが大胆にマッシュアップされ、画面のスピード感と情報量に圧倒されました。北斎が森羅万象に抱いていたであろう飽くなき好奇心や愛情なども感じられ、まさに北斎を知り尽くしたしりあがりさんならではの凄い作り込みでした。

しりあがり寿「天地創造from四畳半」2020年 作家蔵

しりあがり寿「天地創造from四畳半」2020年 作家蔵

しりあがり寿「天地創造from四畳半」2020年 作家蔵

しりあがり寿「天地創造from四畳半」2020年 作家蔵

しりあがり寿「天地創造from四畳半」2020年 作家蔵

しりあがり寿「天地創造from四畳半」2020年 作家蔵

展示7:乾山×皆川明

展示風景

展示も後半大詰めに差し掛かるところに展示されていたのは、江戸中期に京都で陶工として活躍した尾形乾山(おがたけんざん)とブランド「ミナ ペルホネン」を主宰する皆川明(みながわあきら)さんの作品のコラボレーションです。

こちらの見どころは、尾形乾山 vs 皆川明という、時代を超えた新旧デザイナーの対決です。

なぜかというと、二人の立ち位置は、本当に良く似ているからなんです。ちょっと見てみましょう。

尾形乾山「銹絵百合形向付」5客 江戸時代・18世紀 MIHO MUSEUM蔵

尾形乾山は、「紅白梅図屏風」(こうはくばいずびょうぶ)「燕子花図屏風」(かきつばたずびょうぶ)など数々の傑作で有名な絵師・尾形光琳(おがたこうりん)の実弟。兄ゆずりの斬新なデザインで、人々の生活に欠かせない「うつわ」を芸術作品の領域にまで高めました。彼は京都の鳴滝(なるたき)に自らの窯を起こし「乾山焼」を創始するとともに、窯元ではディレクターのような存在として活躍しました。

展示風景

一方の皆川明さんは、和と北欧を融合させたような独自のデザインが魅力のブランド「ミナ ペルホネン」を主宰するデザイナーです。下積み時代、縫製工場やパタンナーとして働き、テキスタイルを知り尽くした皆川さんは、1995年の創業時以来、良質なデザインでオリジナルの布を作り、着る人が何年も安心して着続けられる「特別な日常服」を提供してきました。

共に生活に近い所にいて、シンプルで有機的なデザインで生活に彩りを与えてくれるような作品を作り続けたという点で、尾形乾山と皆川明さんには本当に共通点が多いのです。本展では、とびきりクオリティの高い乾山のうつわとミナ ペルホネンのテキスタイルや洋服が見事に響き合うインスタレーションに仕上がっていました。

たとえば、下記の展示を御覧ください。ミナ ペルホネンでこれまで制作されてきたテキスタイルの無数のハギレの上に、乾山焼きのうつわの割れた破片が散りばめられているんですが、全く違和感がないのですよね。完璧に融合しているように見えるんです。

展示風景/ミナ ペルホネンのハギレと尾形乾山「鳴滝窯跡出土遺物」

続いておすすめしたいのが、こちらのインスタレーション。尾形乾山のうつわの真上に、ミナ ペルホネンのテキスタイルが巻かれた円筒形のオブジェが浮かんでいます。

展示風景

うつわを少し見て、上を見上げる。そしてまたうつわの方に目を落として、また今度は皆川明のデザインに目をやる……といったように、交互に首を上下に動かしながら鑑賞する、ちょっと面白い展示となっていました。

尾形乾山「色絵石垣文角皿」5枚 江戸時代・1699-1704年 京都国立博物館蔵

また、本展で驚かされたのは、展示されている尾形乾山作品のレベルの高さです。古典的なやきもの系の展覧会では、乾山のうつわは本当によく出品されますが、これほど美しく整い、個性が強く出た乾山の秀作ばかりが集結した展示は滅多に見られないのではないかと思います。琳派の美意識が全面的に打ち出され、宝石箱のように七色も使って大胆に塗り分けられた石垣文の角皿や、紅葉や流水の風流なデザインが美しい向付。うつわ好きにはたまらない逸品揃いです。皆川さんは、これら名品に合わせて、自らテキスタイルや洋服を選びました。その巧みな組み合わせに脱帽でした。

約300年以上前に作られたにも関わらず、古さを全く感じさせない普遍的な美しさをぜひ体感してみてほしいと思います!

尾形乾山「色絵竜田川図向付」10客 江戸時代・18世紀 MIHO MUSEUM蔵

展示8:蕭白×横尾忠則

展示風景

そして展示室のラストを飾るのが、横尾忠則(よこおただのり)さんと曾我蕭白(そがしょうはく)の共演です。

しりあがり寿さんが北斎を敬愛していたように、横尾さんもまた、蕭白の大ファンなのです。彼は画業初期となる1970年代から、たびたび蕭白へのオマージュを捧げてきました。

長屋学芸課長いわく、2人の画家の創作に共通するのは、「時にいかがわしく、エネルギッシュで圧倒的なあふれんばかりのイメージ」です。「命の高揚する感覚はもちろんですが、不安や恐怖、怪しいものや奇怪なものへの恐怖心など、生きるものにつきまとう全てのイメージが画面に焼き付けられているような感じ」がします。

また、蕭白も横尾さんも様々な様式を巧みに作品内に取り入れてきました。蕭白は当時ですらマイナーな存在だった曾我派を名乗り、中国絵画や狩野派といった、江戸時代の「本画」のお手本とされていた流派を踏まえつつも、常識にとらわれない奇想で卑俗な表現を取り入れることを厭いませんでした。横尾さんも、美術史に残るような名作や、現代社会にあふれる様々なイメージを自由に組み合わせ、押し出しが強いインパクト抜群の作品群を制作し続けてきました(そういう意味で、しりあがりさんとはまたちょっと違ったオマージュの方向性が魅力ですね)。

展示室では、横尾さんが本展のために準備した新作の大型作品が楽しめます。

本展のために横尾忠則が描いた新作の数々。/左から、横尾忠則「寒山拾得2020」2019年 作家蔵、横尾忠則「経典と箒」2019年 作家蔵、横尾忠則「最初の晩餐」2020年 作家蔵
左:横尾忠則「ニューオリンズからの使者」1994年 作家蔵(横尾忠則現代美術館寄託)右:横尾忠則「運命」1997年 東京都現代美術館蔵

曾我蕭白「群仙図屏風」2曲1双 江戸時代・18世紀 東京藝術大学蔵

そういえば、内覧会には、本展の古典側監修にあたった「コバチュウ先生」こと小林忠先生もご出席されているのをお見かけしました。最後に、コバチュウ先生の記者発表会でのコメントで締めくくってみたいと思います。

「曾我蕭白という人は、江戸時代、最もやんちゃな画家だったと思うんです。蕭白パワーと横尾パワーを浴びておかえり頂くという、そういう仕掛けを楽しんでみて下さい」。

何とかオープンしてほしい!日本美術を比べて楽しむ優れた大型企画展です!

さて、できる限り多くの写真で、展覧会の内容をザーッと振り返ってみましたが、いかがでしたでしょうか?

本展での鑑賞の一番の醍醐味は日本美術における「古典」と「現代」をじっくり見比べながら楽しめるということ。個人的な肌感覚としては、こういった”くらべる”系の展覧会には良い展覧会が多いものですが、本展も自信を持っておすすめできる好展示の連続。難しいことは抜きにして直感的に「美しい」「楽しい」展示に仕上がっていただけでなく、作品のレベル、スケール感、意外性、どれをとっても満足できるものでした。

実は、意外なことに本展は開館以来はじめて、国立新美術館の展示室に本格的に日本の古美術が飾られた記念すべき展覧会でもあるのです。日本最高クラスとなる天井高8mの広々とした展示室で歴史に残る傑作がどのように見えるのか、ぜひ確かめてみてほしいです。

この記事を執筆している5月上旬現在では、引き続き緊急事態宣言が継続されており予断を許さない状況ですが、もし少しでも閉幕予定日までに開館されることがあれば、ぜひぜひ足を運んで、じっくりと作品を楽しんで頂きたいです。もし会期中に展覧会がオープンされたなら、僕もコロナ対策を万全に施した上で、もう一度ガッツリこの目に焼き付けてきたいと思います!

展覧会基本情報

※新型コロナウイルス感染拡大の影響で休館が延期、もしくは中止になる場合があります。

展覧会名:「古典×現代2020-時空を超える日本のアート」
会期:2020年6月24日(水)~ 8月24日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室2E(〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2)
展覧会HP:https://kotengendai.exhibit.jp

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