これを見れば禅がわかる!?
「禅 -心をかたちに-」って?
禅宗はそもそも、特定の経典を持たず、禅の教えは言葉や文字ではなく、師の心から弟子の心へと「以心伝心」で受け継がれてきました。禅僧の修業は坐禅を中心に、日常生活の行いやふるまいのすべてが修行の一環とされ、禅問答を通じて師と弟子は心の交流を重ね、やがて悟りの境地へといたります。
禅宗は今からおよそ1500年前、菩提達磨(ぼだいだるま)によってインドから中国へ伝えられ、その一派である臨済宗・黄檗宗(おうばくしゅう)の宗祖、臨済義玄(りんざいぎげん)によって広がり、日本へは鎌倉時代にもたらされました。
禅宗は武家のみならず、天皇家や公家、さらには民衆にまで広く流布し、日本の社会と文化に大きな影響を及ぼし、最近では欧米でも「ZEN」の思想が広がっています。
達磨さんの絵は禅画の祖・白隠禅師の傑作! 『達磨像』 白隠慧鶴筆 江戸時代(18世紀) 大分・萬壽寺 ※4月12日~5月1日展示
今年は臨済義玄の没後1150年であり、さらに日本における臨済宗中興の祖である白隠慧鶴(はくいんえかく)の没後250年。臨済宗にとって重要なふたりの人物の遠諱を記念して、禅の成り立ちから今日までの広がりを紹介するための特別展「臨済禅師1150年 白隠禅師250年遠諱記念 禅 ―心をかたちに―」が、4月12日(火)から5月22日(日)まで京都国立博物館で開催されます。
この展覧会には、臨済・黄檗両宗15派の全面的な協力により、禅僧の肖像画・頂相(ちんぞう)や仏像、書画、工芸などの貴重な作品が大集結。国宝19件、重要文化財104件を含む224件の名宝が一堂に会する展示は5つのパートの分かれていて、初心者でも禅の真髄に触れられる、わかりやすく面白い内容になっています。
また、10月18日(火)~11月27日(日)には東京国立博物館で開催。鑑賞する機会が多いのもうれしいところです。日本文化に数限りない影響を与えてきた禅宗について興味津々の方のために、ここで「禅 ―心をかたちに―」でどのようなの「かたち」に出会うことができるのか、ちょっとご紹介します。
狩野永徳に代表される桃山障壁画の隆盛を予感させるような、桃山水墨画を代表する名画。筆者の元信は孫の永徳に絵を教えたことでも有名。重要文化財『四季花鳥図』 狩野元信筆 室町時代(16世紀) 京都・大仙院 ※4月12日~5月1日展示
Part1 禅宗の成立
禅宗の初祖、達磨は6世紀の初めごろにインドから中国に渡り、その教えは慧可(えか)を経て、数多くの高僧が出現。やがて、臨済義玄が今日の臨済宗十四派および黄檗宗につながる宗祖となりました。
禅の画題として有名なこの絵は、坐禅する達磨に向かって、神光(のちの慧可)が弟子になるためにみずからの左腕を切断する場面が描かれている。画聖・雪舟(せっしゅう)77歳の大作。国宝『慧可断臂図(えかだんぴず)』 雪舟等楊筆 室町時代 明応5(1496)年 愛知・齊年寺 ※5月3日~22日展示
Part2 臨済禅の導入と展開
禅宗の伝来は鎌倉時代に始まり、武家をはじめ天皇家や貴族の帰依を受けた臨済宗が興隆。室町時代には全盛期を迎え禅宗が定着しますが、応仁の乱によって衰退。その後、江戸時代に黄檗宗が伝わります。
大徳寺を開いた宗峰妙超(しゅうほうみょうちょう)の自賛像。禅僧の肖像画・頂相(ちんそう)の最高傑作ともいわれる。国宝『宗峰妙超像』 自賛 南北朝時代 建武元(1334)年 京都・大徳寺 ※4月12日~5月1日展示
国宝 禅院額字并牌字(ぜんいんがくじならびにはいじ)のうち『大円覚(だいえんがく)』『普門院(ふもんいん)』 無準師範筆 中国・南宋時代(13世紀) 京都・東福寺 ※『大円覚』4月12日~5月1日展示、『普門院』5月3日~22日展示
中国・宋よりもたらされた袈裟には、珍しい刺繍技法によって如来や菩薩と中国風俗の人物像が表されている。重要文化財『九条袈裟(くじょうけさ)』 伝断橋妙倫料 無関普門所用 中国・元時代(13~14世紀) 京都・天授庵 ※4月26日~5月22日展示
Part3 戦国武将と近世の高僧
武田信玄や織田信長、豊臣秀吉らの戦国武将たちは、禅僧に帰依して指導を受ける一方、参謀役や交渉役をまかせることもあり、各地の禅宗寺院は大名の庇護を受けて繁栄。近世には白隠慧鶴(はくいんえかく)らが禅画を描いて民衆への布教を行いました。
桃山絵画を牽引した天才・狩野永徳筆の数少ない肖像画のうちのひとつ。『織田信長像』 狩野永徳筆 安土桃山時代 天正12(1584)年 京都・大徳寺 ※4月26日~5月22日展示
Part4 禅の仏たち
禅宗には仏像が少ないのですが、菩薩のような姿の宝冠釈迦如来をはじめ、羅漢や伽藍の守護神など禅宗寺院特有の尊像があります。特に黄檗宗の寺には隠元隆琦(いんげんりゅうき)の考えに基づいた異国風を強く残す個性的な像があり。
重要文化財『宝冠釈迦如来(ほうかんしゃかにょらい)および両脇侍坐像(りょうきょうじざぞう)』 院吉(いんきつ)・院広(いんこう)・院遵(いんじゅん)作 南北朝時代 観応3(1352)年 静岡・方広寺 ※通期展示
Part5 禅文化の広がり
日本と中国を行き来した禅僧たちは禅の思想のみならず、様々な風習や文物をもたらし、禅宗は日本文化に大きな影響を与えました。水墨画や詩画軸(漢詩文を備えた絵画)、喫茶のほか、障壁画や屏風などは禅宗文化の奥深さや多様性を示しています。
左上/国宝『玳玻天目(たいひてんもく)』 中国・南宋時代(12~13世紀) 京都・相国寺 ※4月12日~5月1日展示 右上/『青磁碗 銘 雨龍(せいじわん めい あめりゅう)』 中国・南宋時代(13世紀) 京都・鹿苑寺 ※5月3日~22日展示 左下/重要文化財『牡丹彫木漆塗大香合(ぼたんちょうもくうるしぬりだいこうごう)』 室町時代(15世紀) 京都・南禅寺 ※4月12日~5月1日展示 右下/重要文化財『椿尾長鳥文堆朱盆(つばりおながどりもんついしゅぼん)』刻銘「張成(ちょうぜい)造」あり 中国・元時代(14世紀) 京都・興臨院 ※5月3日~22日展示
謎の多いユニークな禅画。国宝『瓢鮎図(ひょうねんず)』 大岳周崇(だいがくしゅうすう)等三十一僧賛 大巧如拙(たいこうじょせつ)筆 室町時代(15世紀) 京都・退蔵院 ※4月12日~5月1日展示
今大人気の若冲(じゃくちゅう)も、禅文化の一翼を担っていた! 重要文化財『竹図襖』 伊藤若冲筆 江戸時代 宝暦9(1759)年 京都・鹿苑寺 ※京都展のみ出品、通期展示
京狩野派や江戸に移った狩野派は、江戸時代をとおして禅寺の障壁画に多くの名を残した。重要文化財『龍虎図屏風』 狩野山楽筆 安土桃山~江戸時代(17世紀) 京都・妙心寺 ※5月3日~22日展示
「臨済禅師1150年 白隠禅師250年遠諱記念 禅 ―心をかたちに―」(会期終了)
【東京展】
会期/前期展示:10月18日(火)~11月6日(日) 後期展示:11月8日(火)~11月27日(日) ※会期中、一部作品、および場面の展示替を行います。
会場/東京国立博物館 平成館
開館時間/9時30分~17時(金曜および10月22日、11月3日・5日は20時まで。入館は閉館の30分前まで)
休館日/月曜
観覧料金/一般1,600円、大学生1,200円、高校生900円、中学生以下無料 ※障がい者とその介護者一名は無料です。入館の際に障がい者手帳などをご提示ください。
臨済禅師1150年 白隠禅師250年遠諱記念 禅―心をかたちに―
【京都展】
会期/4月12日(火)~5月22日(日)<前期:4月12日~5月1日 後期:5月3日~22日 ※会期中、一部の作品は展示替を行います>
会場/京都国立博物館 平成知新館 京都府京都市東山区茶屋町527
休館日/月曜
開館時間/9時30分~18時まで(金曜は20時まで 入館は閉館の30分前まで)
観覧料/1,500円(大学生1,200円、高校生900円、中学生以下無料) ※障がい者の方とその介護者1名は障がい者手帳などのご提示で無料となります。