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2023.12.05

本当はどうしたい? 物事が思うように進まない時に寄り添う、禅の言葉【SHIHOの楽禅ライフ7】

禅について学びを深めている、モデルのSHIHOさん。ここでは連載企画「SHIHOの楽禅ライフ」として、自身が坐禅に取り組む中で気になった「禅にまつわる言葉」を挙げながら、感じるままにつづってもらいます。
TextsSHIHO

「自分は本当はどうしたかったのか」

今回の禅語:身心(しんじん)に法いまだ参飽(さんぼう)せざるには、法すでにたれりとおぼゆ。法もし身心に充足すれば、ひとかたはたらずとおぼゆるなり。

現代語訳:自己の身と心に法が未だ浸透していない時には、法は満ち足りていると思ってしまう。法がもし身と心に充足すれば、なにかが足らないと思うものである。
大意(前後の文脈を含む):ものごとの本質をしっかりと会得していない時には、もう全部分かったつもりになってしまい、本当にわかった時には、まだ何か足らないのではないかと思うのである。(『正法眼蔵』のうち「現成公案」より)

 この禅語を読むと、なんでもわかった気になっていても、物事にはいろいろな立場からの見方や感じ方があることに、あらためて気付かされます。

この連載を監修してくださっている横山泰賢住職は、この禅語を説かれた道元禅師の解釈として、次のように話して下さいました。

船で大海に出て、自らの目で四方(水平線)を見ると海は円いように見えますが、人の目の届く範囲では円に見えるだけで、魚にとっては宮殿に見え、天人には宝石の玉飾りに見え、さまざまな形や性質から成っています。

我々が生きるこの世界全てに、数え切れない側面と性質があります。人は自分が学んだり経験したりした範囲だけで理解し判断しようとするのではなく、無限の世界があることを知るべきなのです。

この言葉に、私はふと涙がこぼれました。
なぜって、「こうじゃなきゃいけない」と自分を責めていた部分に、そうじゃない見方もあるんだよ、とふと肩の力を抜く隙間を与えてもらったような気がしたから。

私の性格は、こう思ったらこう!と突き進んでしまう部分があり、なかなか他の見方ができなくなってしまい、時にそれで苦しんでしまうことがあって。

正しさを追求するあまり、それについていけていない自分がいたり。したいことができないと極度のストレスを感じてしまったり。

物事ってなんでも思うように進まないのが現実。そんな時に自分本位の見方だけをしていると苦しくなるのだけど、視点を変えて、他人本位の見方をすると、全然違う感情が存在していたり、気づかなかった事実に出会えたりすることってありますよね。

普段、自己犠牲をして他人本位にしている方は、自分は本当はどうしたかったのか、と自分自身の気持ちに立ち返ったり、寄り添ってみることでも、新しい見方や感情に出会えたりするかもしれません。そうやって「見えていない部分」 に気づいていくことが、物事の本質を見抜く力や世の中の真理を知るきっかけになるのかもしれませんね。

所有すればするほど欲は深まる

この禅語の「法すでにたれりとおぼゆ=法が満ち足りている」と思う時こそ、自己本位か他人本位になってしまっている時なのかも。

きっと、どちらの立場のあり方も理解し、思いやりを持てている人は、人だけじゃなく社会や環境、国のこと、きっとこの広い世界のさまざまな物事へと視野が広がった人なのでしょう。そこには、数えきれないほどの問題があって、そこで私たちに出来うる行動は、無限にあるのだと思います。

そんな視点を想像して浮かぶのは、「今、私たちにとって本当に大切なものは何か?」という問いです。

大切なものはたくさんあっても、所有すればするほど欲は深まり、手放すことができなくなってしまいます。それを維持することに時間を費やしてしまったり、逆に行動が制限されることもあるかもしれません。

先日、SNSを見ていたら「もし自分が死んだら、今、所有しているものは何一つ持っていけない。それらは全て誰かのものになるか、捨てることになる」という言葉を見つけました。本当にその通りです。

では、自分が最後に残したいもの(本当に大切にしたいもの)はなんだろう? と考えると、それは決してモノではなく、かけがえのない人間関係の中に生まれるもの……あるいは自分の言葉や行動から生まれる、精神性やこの世に向き合う姿勢とか、そういうものなんじゃないのかなって思うんです。

完璧じゃなくてもいいから、前向きに、自分や誰かのためになる、何かのためになる誠実な姿勢や行動の積み重ねが、今の自分のあり方になっていく。それぞれに生きる時間が定められている中で、自分がどういうあり方をしたいか。それが自分にとって最も大切なものになり得るのではないでしょうか。

大切なものは「偽りのない自分」

以前、ある友人に「自分にとって最も大切なものは何?」と質問をした時、返ってきたのは「偽りのない自分」という答えでした。正しいか正しくないかではなく、自分自身に正直かって。

確かに、人は、立場や役割で自分自身を作ってしまうことがあるから、肩書きを取っ払ったありのままの自分に戻った時の、そんな正直さや純粋さに向き合ってみると、本当に自分が求めているものが見つかるかもしれないですよね。

同じ問いを他の人にもしてみたところ、「健康」「自由」「時間」「愛する人たちと幸せな時間を過ごすこと」など、答えはさまざまでした。

自分にも同じように問うとすれば、私の答えは「愛こそ全て!」

でも「愛」は深すぎて、そこには喜びや平和、辛抱強さ、親切、善良、温和、自制などいろんな要素が含まれる気がします。もし「愛ある人」になろうなんて思ったら、満ち足りるどころか、足りないものだらけ。この禅語にぴったり当てはまります(笑)。

皆さんにとって、今、最も大切なものはなんですか? 皆さんの中でそれは満ち足りてますか? それともまだ足りないと感じるものですか?

Photo by SHIHO

監修:横山泰賢(日光山 禅昌寺住職・曹洞禅インターナショナル会長)

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SHIHO

ファッション雑誌・テレビ・ラジオ・CM・プロデュース・ 出版など幅広く活躍。心身が健康で美しくなるウェルビーイングな暮らしを提案している。ヨガDVD本 『SHIHO loves YOGA〜おうちヨガ〜』、出産後に出版した『トリニティスリム"全身やせ "ストレッチ』は、シリーズ累計40万部を突破。 比叡山延暦寺など各地で瞑想リトリートツアーをはじめとするさまざまなイベントも企画・開催。滋賀国際親善大使。全米ヨガアライアンス認定講師。Wellness AWARD of the Year 2019受賞。日本だけでなく韓国でも活躍している。
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