雪村は水墨による人物画や山水画において実にドラマティックで独創的な作風を発揮。一方で動植物を描いた作品では、写実的かつ繊細な感性を窺わせる描写を数多く残しました。こうした雪村の魅力溢れる作風は古くから評価が高く、あの江戸琳派の雄・尾形光琳も雪村の作品に大きな影響を受けていたと言われています。
水墨画と言えば「枯淡の境地」や「侘び寂びの世界」と捉えられ、とかく難解だと思われがちですが、雪村の魅力はひと目見ればわかる面白さにあります。それはここに挙げた作品を見れば一目瞭然。ぜひ、予備知識なしに、雪村特有のユーモア溢れる作品に出合ってほしいものです。
仙人に踏みつけにされた龍の顔がなんともユーモラス
呂洞賓とは中国・宋代に実在したとされる人物。雪村は何点か描いており、いずれもが龍に乗った呂洞賓が水瓶(すいびょう)から龍を出して操る姿となっています。有り得ないほどに折れ曲がった呂洞賓の首や、踏みつけにされた龍の顔がそこはかとない可笑しみを生んでいますね。
雪村周継『呂洞賓図』一幅 紙本墨画 119.2×59.6㎝ 16世紀・室町時代 大和文華館 重要文化財 展示期間/3月28日~4月23日
龍の子を取ってくると言ったのになぜか鯉に乗っている!?
琴高は紀元前4世紀の仙人。200年も放浪した後、龍の子を取ってくると言って川に飛び込むが、戻って来たら鯉に乗っていた、という逸話を描いた一作。鯉が竜門を登ると龍になるという、鯉の滝登り伝説とも関連していると思われますが、弟子の前で鯉に乗って戻って来てしまった琴高のバツの悪そうな顔がなんともおかしい。
雪村周継『琴高仙人・群仙図』三幅 紙本墨画淡彩 中央121.5×54.0㎝、左右121.0×56.0㎝ 16世紀・室町時代 京都国立博物館 重要文化財 展示期間/4月25日~5月21日
威厳に満ち溢れたはずの龍と虎。雪村が描くとなんだかかわいい
雪村が60歳代で描いたとされる大作。それにしても、龍虎からイメージされる猛々しさは微塵もなく、特に虎のユーモラスであまりにもかわいい表情が印象的。こんなところからも、雪村の人となりが見て取れるのかもしれないです。
雪村周継『龍虎図屛風』六曲一双 紙本墨画 各155.6×350.4㎝ 16世紀・室町時代 根津美術館 展示期間/4月25日~5月21日
15年ぶりに開催される大回顧展で新たな魅力に迫る
2002年に千葉市美術館で開催された大回顧展以来となる本展は、海外からの里帰り作品を含めた、雪村の主要作品およそ100件と、雪村に影響を受けたとされる関連作品30件で構成され、過去最大規模の雪村展となります。人物画をはじめ、山水画、花鳥画、静物画と、雪村らしい面白みのある作品が多数展示される本展。戦国時代の関東に、こんなに凄い絵師がいたのかと感銘を受けること請け合いの展覧会となることは間違いなし!!
特別展「雪村-奇想の誕生-」
会期/3月28日(火)~5月21日(日)
開館時間/10時~17時(入館は閉館の30分前まで)
休館日/月曜(ただし5月1日は開館) ※会期中、展示替えあり
観覧料/一般1,600円
会場/東京藝術大学大学美術館
住所/東京都台東区上野公園12−8 地図
※本展は8月1日(火)~9月3日(日)の日程で、滋賀県・MIHO MUSEUMにも巡回予定。