琳派の絵は、海外の人々を魅了しました。リアリズムを目ざした西洋絵画とは対極にある、遠近法や写実を伴わない平面的・装飾的な画法に衝撃を受けたといいます。そんな琳派作品の中でも、ひときわ強いインパクトを与えたのが、金箔を背景として用いた金屛風です。そこで、世界に誇りうる琳派芸術の粋ともいえる、金屛風の名作を5点ご紹介。さらに、琳派の金屛風がもつ特徴や魅力を探ります。
1 孔雀立葵図屛風
細密な描写にも優れていた光琳の画才が堪能できる
尾形光琳「孔雀立葵図屛風」(右隻)二曲一双 紙本金地着色 各146.0×173.0㎝ 江戸時代(18世紀初め) 個人蔵
梅の幹の影に収まるような形で羽を広げる雄の孔雀をよく見ると、金泥線を丹念に施した羽の描写が壮麗にして重厚な趣。デザイン的な構図の中に、繊細な仕事ぶりが見て取れます。また、梅の描き方は本作の後に手がけたと考えられる「紅白梅図屛風」を思い起こさせて、その枝ぶりによって雌雄の孔雀のバランスがとられているところに、光琳ならではの構図の妙が表れています。
2 蔦の細道図屛風
金地に緑青だけ用いて「伊勢物語」を描いた宗達の意欲作
俵屋宗達「蔦の細道図屛風」(右隻)六曲一双 紙本金地着色 各159.0×361.0㎝ 江戸時代(17世紀) 重要文化財 相国寺
金屛風の左右両隻には、烏丸光広(からすまみつひろ)が書いた和歌が7首。この絵は「伊勢物語」東下りの段で、在原業平が蔦の細道を心寂しく歩いている情景が描かれています。このように主人公を描くことなく、物語の情景を抽象的に描くというのは、宗達が編み出した独自手法。琳派ならではの作画様式のひとつとされるものです。左右両隻を入れ替えて置いても連続して見える構図は、計算しつくされたもの。宗達は本作で、卓越したデザイン能力を余すところなく発揮しています。
3 吉野山図屛風
琳派の技法によって、春爛漫の情景がより幻想的に広がる
渡辺始興「吉野山図屛風」(左隻) 六曲一双 紙本金地着色 各150.0×362.0㎝ 江戸時代(18世紀前半) 個人蔵
金箔の地にお椀型の緑の山を連ね、山間には満開の山桜を丁寧に描写。作者の渡辺始興(わたなべしこう)は博学で知られた公家・近衛家煕(このえいえひろ)のお抱え絵師で、狩野派や尾形光琳などを熱心に研究し、様々な画法に精通していました。この金屛風を折り曲げて立てると、鮮やかな色彩と山の稜線が奥行きを増し、眼前に春の絶景が迫ってくるような感覚が味わえるとか。視覚効果まで計算しつくした始興の画力には舌を巻く思いです。
4 秋草鶉図
琳派様式と写実で叙情的に秋を描いた江戸琳派の名作
酒井抱一「秋草鶉図」二曲一隻 紙本金地着色 144.5×143.7㎝ 江戸時代(19世紀) 山種美術館 Photo: Bridgeman Images/DNPartcom
酒井抱一(さかいほういつ)は、尾形光琳の絵に出合ったことから絵師としてその画風を再興すること目ざすようになります。光琳の百周忌には「光琳百図」を刊行。その手による2曲の金屛風は、絵師として充実期を迎えた抱一が大画面を手がけるようになったころに描いたものです。まっすぐな茎から曲線の穂や葉が細く伸びたすすきをいくつも重ね、低くかかる月に照らされながら秋草の間を遊ぶ5羽の鶉は実に写実的。本作は、琳派的な様式の中に写実性を兼ね備えていて、抱一のもつ叙情的な味わいに満ちた名作として知られています。
5 風神雷神図屛風
琳派の金屏風。宗達の傑作はやっぱり欠かせない!
俵屋宗達「風神雷神図屛風」二曲一双 紙本金地着色 各154.5×169.8㎝ 江戸時代(17世紀) 国宝 建仁寺
大胆な構図、ユニークなキャラクター、たらし込みなど、琳派様式を満載した俵屋宗達作の「風神雷神図屛風」こそ、琳派の金屛風を代表する傑作です。右に風神、左に雷神を配し、金箔を押した余白を大きくとった構図が第一の特徴。風神と雷神は神なのですが、愛嬌ある表情で描かれていているところに、宗達の独創性が感じられます。